326話・捕えた蛇を尋問する
暗殺者〝透明な蛇〟を捕えた。
知里は呪縛魔法を唱え、敵の動きを封じた。
さらにロープで縛りつける。
俺が駆けつけた時、現場では知里とヒナと小夜子の3人が、捕らえた〝蛇〟を見張っていた。
「ここでは目立つから、屋敷まで運びましょう」
確かに、プロテクターを脱がせた〝透明な蛇〟は目立ちすぎていた。
全身にカラフルな刺青を入れている。
まるでカメレオンか、70年代のサイケデリック? みたいな感じ。
一度見たら忘れられないような、凄まじいインパクトの外見だった。
しかも性別もよく分からない。
こんな派手な外見の奴が、周囲と同化して〝透明〟になるのだから、分からないものだ。
「ヒナさあ。すぐに敵を剥いちゃうの止めなよ」
「ちーちゃんと違って、ヒナは心が読めないし。敵は暗殺者だもの、どこに武器を隠してるか分からないし、自決されても困るからね」
ヒナがパチンと指を鳴らすと、暗殺者は元の装備に戻った。
そして縛られたまま宙に浮いた。
まるで超能力の〝念力〟のような魔法だった。
俺たちは周囲を警戒しながら、ロンレアの屋敷まで戻った。
◇ ◆ ◇
「直行。こいつは道中ずっと、死ぬことばかり考えていた」
隠密輸送を終えた〝透明な蛇〟を、地下の拷問部屋に運ぶ。
痛めつけるつもりはないが、逃げられないための措置だ。
面通しのために、魚面も呼んだ。
彼女はまだ治療中でもあるため、松葉づえをついている。
〝蛇〟が怖いのか、かなり距離を取りながらの本人確認だった。
「〝蛇先輩〟。しばらクでしタ……」
「…………」
おそるおそる魚面は挨拶するが、蛇は無視した。
「〝魚面〟。まさか生きていたとは〟だってさ……」
知里が特殊スキル『他心通』によって心を読み、通訳する。
「ドウも……」
魚面は申し訳なさそうに蛇先輩に頭を下げた。
暗殺組織の内部事情なんて知る由もないが、フレンドリーな感じではなさそうだ。
「……知里さん。奴は他にどんなことを思ってる?」
「今でも隙あれば、あたしたちもろとも自爆しようと思ってる」
「物騒な奴だな……」
知里による『他心通』尋問。
人の心が読める特殊スキルの持ち主が、味方側にいてくれる有用性は計り知れない。
この能力を知里本人はあまり気に入ってはいないようだが、俺たちにとっては彼女なくして勝機はない。
「さて、初めましてだな〝透明な蛇〟さん。俺が九重 直行だ。知ってるとは思うけどな」
「…………」
蛇は答えない。
このようなやりとりは、魚面とロンレア伯と、これで3度目だ。
「『知っていることは言わない。拷問にも耐えてやる』ですって」
知里が思考を読み、通訳のように話してくれる。
「……ウチが知りたいのは2つ」
ヒナはいつもの一人称を言いかけて、ウチと言い改めた。
アフロヘアで変装はしているものの、顔はヒナ・メルトエヴァレンスそのものだ。
〝透明な蛇〟が、彼女を知っていてもふしぎではなかったが……。
「ロンレア領主夫妻を狙った理由は? そして〝鵺〟とクロノ王国とのつながりは?」
ヒナの質問は単刀直入だ。
俺も、そのふたつがもっとも気になる。
暗殺の実行役の〝透明な蛇〟が、どこまで状況を把握しているかは定かではないが……。
「…………」
「蛇さん、〝答えるものか!〟ですって。アフロさん。イエスかノーで答えられる質問でお願い」
「分かった。じゃあ改めて。〝鵺〟とクロノ王国。ディンドラッド商会はお仲間ね?」
「…………〝私は、命じられた任務をこなすだけだ。潜み、殺す。事情を知っていれば、迷いも出る。だから聞かないし、興味もない〟だってさ」
「あらら、プロフェッショナルだこと」
ヒナはお手上げのポーズを取った。
「困ったわね。ウチとしては死刑にはしたくないけれど、透明化の能力が厄介すぎて牢に入れておくことも難しい」
「もういいだろう。ここまで派手に失敗した以上、組織に戻っても始末されるだけだ。殺しなさい」
透明な蛇は、声に出して言った。
俺は人生で3度目の「くっ、殺せ」を聞いた。
「蛇先輩、ワタシも組織を裏切っタけど、処分されてナイゾ?」
「魚と私では立場が違う。殺してきた人間の価値が違う。王国の騎士団長の嫡子に枢機卿。口封じのために、〝猿〟自らが仕留めに来るだろう……」
〝殺してきた人間の価値〟。そう言いきる〝蛇〟からは、暗殺者の歪んだ自尊心が感じられた。
「そう。この人は自分のステルス技術と暗殺術に絶対の自信を持ってたんだね。だけど、あたしたちには通じなかった」
「挙句、心まで読まれて……。こんな屈辱はない。早く殺してくれ」
「そんなこと言われたって……ねえ直行くん?」
小夜子は困った様子で俺を見る。
「魚ちゃんと違って、この人は根っからの暗殺者だね。あたしたちの味方になるのは無理かも」
「だから殺せと言っている」
本当に〝こちらの世界〟は人の命が軽い。
だからといって「はい分かりました。死刑です」なんて命令はできない。
俺たち日本からの異世界人は、そういうふうに育てられてない。
そのとき、俺は閃いた。
のるかそるかは〝透明な蛇〟次第だが……。
「……そうだな。蛇さん。俺からひとつ〝仕事〟の依頼があるんだが、話だけでも聞いてみないか?」
俺は、ニヤリと笑った。
次回予告
「……マさか蛇先輩ト、コンナ形デ再会スルとは思いモしなかっタ」
「お魚先生、〝鵺〟時代は暗殺者としてブイブイ言わせてたのですか♪ ちょっと武勇伝を聞かせてくださいな♪」
「エルマよ、業の深い闇の稼業をヤンキーの武勇伝と一緒にするなよ」
「どのみち犯罪行為という点では変わりませんわ♪」
「……ワタシが最初に手ヲかけたノは、裏切り者ノ……」
「魚面、そんな過去は言わなくていい。日の光の下を歩むんだろ! 未来に向かって!」
「ソウカ。じゃア次回予告ダ。次の更新は8月13日頃ダ。お盆ナノデ勘弁してクレ。未来で会おウ!」
「お魚先生、軽いですわね……」




