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325話・不運な暗殺者の独白2


 (こんな広範囲に雨を……召喚しただと!)


 突然の人為的な豪雨により、『擬態』は解かれてしまった。

 常人にはあり得ない魔力範囲だ。

 おそらく、特級の魔法道具(マジックアイテム)だろう。


 私の『擬態(ぎたい)』は完璧だが、突然の景色の変化への対応は、少しばかり時間がかかる。

 だが、焦らずに体を周囲の景色に馴染ませていく……。


「──また! まただ!」


 その時、解呪(ディスペル)の魔法をかけられた。

 正確無比な魔法精度で、重ね掛けしている隠密スキルが全て剥がされた。


 (……厄介な魔導士がいる)

 

 幻影魔法と沈黙魔法をかけ直したものの、一瞬で解呪(ディスペル)されてしまった。

 だが、まだ手はある。


 解除された直後のタイミングで、複数の〝本体を模した〟幻影を作り出す。

 私の魔力値では9体が限度だが、十分だろう。


 それぞれを散り散りに動かして、敵の目をごまかす。

 解呪(ディスペル)するとしても、すべて幻だ。

 9回の手間をかけさせている隙に、本体は逃げおおせる。


 私は豪雨に対応した『擬態』と、幻術による透明化をほどこした──。

 しかし、これも一瞬で解呪(ディスペル)──。


 (ばかな……9体同時に解呪(ディスペル)だと?)


 敵には凄まじい魔導士が、複数体ついている。

 私はただちにレッサーデーモンの召喚に取り掛かった。

 これで、現場を引っ掻き回す。

 強敵に対して、戦力の出し惜しみは命取りだ。


 手持ちの4体を全部投入する。

 私にとって〝召喚術〟は第二の武器でもある。



 暗殺者集団〝鵺〟の頭目である〝(ましら)〟は、この世界でも指折りの召喚師だ。

 かつては魔術師ギルドの幹部だったそうだが、裏の世界に身を投じた。


 私もそうだが、この世界は少々息苦しい。

 由緒ある家系か、有力者との人脈がなければまともに評価してもらう機会が得られない。


 〝(ましら)〟は、私を行き場のない世界から引き出してくれた。

 日の当たらない闇の世界だが、殺しは私にとって天職だ。


 そして無傷で現場から逃げおおせることにも、私は絶対の自信を持っていた。


「グレン式・抜刀術〝悪魔斬り〟とりゃあああーー!!!!」


挿絵(By みてみん)


 突然、目の前に裸の女が飛び出してきた。

 すさまじい奇声。

 かと思うと、一刀の元にレッサーデーモンを斬り伏せた。


 次いで残骸を粉々にすべく、闘気のこもった剣技で切り刻む。

 剣技も凄まじいが、得物も格別な業物だろう。

 刀身がただならぬオーラをまとっているところから、〝妖刀〟の類と思われる。


 裸で剣を振るう戦闘狂とみた。

 肉片すら残さないといった気概。

 身がすくむような残忍さだ。

 加えて、あの露出趣味。

 暗殺稼業の私でさえ嫌悪感を覚える。

 まさに狂戦士だ……。


 だが、その執拗な残忍さが命取りだ。


 私は手持ちのレッサーデーモンに自爆攻撃を命じた。

 〝猿〟の召喚術の極意だ。


 召喚時の契約に、呪殺系魔法の呪いを潜ませておく。

 命と魔力を引き替える〝呪殺系自爆魔法〟の効果はすさまじい。


 裸の女狂戦士を殺せたなら、敵の戦力は大打撃だろう。

 その隙に私は逃げる。

 複数の凄腕の魔導士どもは、態勢を立て直した後に始末する。

 あとは〝猿〟が全て片付ける。


 私はいま、逃げることだけを考えればいい。


 その戦況判断は間違っていない……はずだった。


「そこだ!」


 通りのいい女の声と共に、信じられないことが起きた。

 無数の光弾が、レッサーデーモンたちを貫いていく。

 

 裸の女戦士も巻き添えにする勢いだった。

 しかし狂戦士は涼しい顔で、微動だにしない。


 よく見ると、光弾は超精密に女を避けている。

 どれほどの魔力精度ならば、これほどの術式が組めるのか──。


 私は憧れと同時に、どうしようもない敗北感にみまわれた。


 世の中には、規格外の連中がいる。

 〝猿〟もそうだろう。


 だが、残念ながら私は違う。

 規格外といわれるほどの実力はない。


 だからこそ、能力を隠密行動と暗殺に特化したつもりだったが──。

 手も足も出ない相手は、突然現れる。


 光弾は私の下僕の魔物たちを無慈悲に焼き払う。

 そして、いつのまにか魔導士が姿を現していた。


 思っていたよりも、ずっと若かった。

 髪の毛が爆発したような見た目で、異界風の衣装を身にまとっている。

 

 おそらく、〝英雄ドン・パッティ〟と並ぶ魔王討伐軍の幹部級なのかもしれない。


 変質者の女狂戦士と爆発頭の女魔導士は、互いの手のひらを打ち合わせて、残虐にも勝利を祝っている。

 暴虐の極みと、規格外の戦闘力を見せつけた後で、奴らは笑った。


 市井の娘がよくやるような、屈託のない大笑だ。

 性根から狂った奴らだ。


 次の標的は私だ。 

 それにしても、何て残忍な笑顔だろう。

 まるで少女のような無邪気すぎる笑顔に、慄然とする。

 少なくとも、私は誰かを殺した後に笑ったことなどない。


 『擬態』で逃げ切る可能性はゼロではないが、見つかる可能性のほうが高い。

 何の人間的な慈愛も持ち合わせていない女狂戦士と女魔導士は、どのような手段で私を殺めるのだろうか。


 もはやここまでだ。

 

 無残に殺されるくらいならば、せめて相打ちを狙う。


 私の身体にも、頭目〝猿〟に仕掛けられた自爆用の術式がある。

 呪殺系の魔法で、女2人を道連れに爆発して果てる。


 まさか自分の人生がここで絶たれるとは夢にも思わなかった。

 が、暗殺者とはそういうものだ。

 覚悟はしていた。


 (忌々しい奴らめ……)


 私は心臓に指を突き立て、呪いの術式を発動させる。


「させるか!」


 そこに、舌足らずな女の声が響いた。

 もう1人の女魔導士は闇をまとった解呪魔法(ディスペル)で、呆気なく私の術式を解除すると、ほぼ同時に呪縛魔法で私の身体の動きを封じた。


 あまりにも一瞬で、私は呆気にとられてしまった。

 もう1人の女の判断は早すぎる。


 心でも読まれたかのようだ──!!

 まさか『他心通』の冒険者──。


 どうしてこれほどの面子が、こんな場所にそろっているのだ! 


 …………。

 …………。


「ずいぶん派手な奴だな」


 気がつくと、目の前には魔力も闘気もない、異界の遊び人風の男がいて、まじまじと私を見つめていた。 



 次回予告


「全滅エンドを避けられてよかったじゃないですかー♪」

「エルマお前、あの場にいなかったから、お気楽なことが言えるよな」

「ちゃんと心配しておりましたのよ♪」

「でも、裸の女狂戦士なんて言い方、あんまりじゃないの!」

「あら小夜子さん、事実じゃないですかー♪」

「裸じゃないモン! ビキニ鎧だもん!」

「でも小夜子さん、暗殺者にドン引きされるレベルの戦闘狂なんて、まさに鬼畜痴女ですわね♪」

「あれは畑を汚染させないように、空中で魔物を消滅させたのよ」

「小夜子さん、エルマのたわ言に付き合ってないで、次回予告をお願いします」

「次回の更新は8月10日を予定してるわ!」

「ポロリ解禁回なのでミッドナイトでお楽しみください♪」

「エルマちゃんいい加減なこと言わないでー!」

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