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324話・不運な暗殺者の独白1

本話は、暗殺者〝透明な蛇〟の視点からお送りしております。


 ──私は、暗殺者集団〝鵺〟に所属している召喚士だ。

 暗号名〝透明な蛇〟と呼ばれている。 


 特殊スキル『擬態』と幻術魔法を得意とする、潜行と隠密行動に特化した暗殺者だ。

 闇に紛れ、対象を抹殺すること。

 それを生業とするために、必要な技術を学び、10年以上にわたり研鑽を積み重ねてきた。


挿絵(By みてみん)


 私の身体には生まれつき、極彩色の派手な紋様が入っていた。

 両親はさぞかし気味が悪かったのだろう。

 私に名前をつける前に、聖龍教会に預けた。


 教会の司祭に名前をつけてもらったが、もう忘れてしまった。

 教会のスキル調査で、私が生まれついての特殊スキル『擬態』の持ち主だと分かった。


 赤ん坊の頃から、姿を隠すことが容易だった。

 物心つくようになると、意のままに姿を消したり、現れたりできるようになった。


 もっとも〝隠れ遊び〟のような時しか、役には立たなかったが……。


 10歳になろうかという時、そんな私を〝買いたい〟との申し出があった。

 どこで噂を聞き付けたのか、仮面劇の一座だった。


 私の姿かたちから、将来は見世物小屋に行くのだろうとは思っていたが、予想よりも早かった。

 まさか一座が暗殺者組織〝(ぬえ)〟だとは夢にも思わなかったが。


「お前に〝透明〟の二つ名を与えよう。暗殺に、とても向いた能力だ」


 〝猿〟の仮面を被った頭目は、いつか私に言ったことがある。

 私も実際に殺しの道に入ってみて、とても〝向いている〟と思った。


 それと、私は〝透明〟という二つ名をとても気に入っている。

 派手な外見とは相反するような暗号名だが、擬態をすると本当に透明になったような気分になれるからだ。


 ◇ ◆ ◇


 はじめて人を殺めたのは、それから1年あまりが過ぎたころだ。

 〝鵺〟では、7〜13歳くらいまでの男女が10数人単位で共同生活をさせられていた。


 昼は仮面劇の子役として歌や踊りを学び、夜は人殺しの技や魔術を学ぶ。

 私のスキル『擬態』は、特に暗殺に向いた能力とされた。

 しかし荒事に向いていない性格の子もいる。

 おじけづいて逃走を企てる者もいた。


 鵺の〝猿〟は、そういう〝役立たず〟を見せしめとして子供同士で間引かせる。

 子供のうちから弱い仲間を殺すことで、肝が座るようになる。

 私には何の苦もなかった。


 私は徐々に頭角を現し、〝(ぬえ)〟の尻尾〝蛇〟の呼称を許された。

 こうして私は〝透明な蛇〟という名を名乗るようになった。

 確か18歳くらいのころだったと思う。


 それから私には〝蛇〟の姿が与えられた。

 毒蛇を模した仮面。

 浅葱色と紫の、全身を覆う甲冑のようなスーツ。


 歴代の〝鵺〟が襲名する〝蛇〟の衣装。


 派手な衣装だが、紋様まみれの肌をさらすよりもずっとマシだ。


 ◇ ◆ ◇


 以来、10余年で仕留めた要人は13人。

 公爵、枢機卿などの大物から、年端もいかない騎士団長の嫡男まで。

 練習や試し斬りも含めれば、奪った命は100人以上だ。


 その間、正体を知られたことも、手傷を負ったこともない。 

 暗殺稼業は私にとって天職といえた。


 ◇ ◆ ◇


 そんな私が──。

 これほど難しい仕事は初めてだ。


 〝(ましら)〟からの命令は、「ロンレア領主夫妻を消せ」という、至ってシンプルなものだった。


 相手は異界から来たばかりの遊び人と、13歳の伯爵令嬢。

 実績に照らし合わせれば、容易い標的だ。

 しかし──。


 遊び人の夫は、つかみどころがない。

 後輩の召喚師〝魚面(うおづら)〟の仕事を阻んだのみならず、どんな手を使ったのか洗脳して味方に引き入れたらしい。

 決闘裁判では、奸計を用いて〝紅の姫騎士〟を公衆の眼前で辱めたという。


 現に、先だっては頭目である〝猿〟の急襲が、退けられていた。

 大がかりにも腐敗竜を召喚して、堤を決壊させたというのに。


 一介の遊び人が簡単に撃退できるものではない。

 聞けば敵には〝元・勇者パーティ〟の英雄たちが一枚噛んでいるという。


 腐敗竜を一刀の元に斬り捨てた裸の女戦士・小夜子。

 ライバル商会の御曹司・ジルヴァン・ドン・パッティ。


 腐敗竜を倒したこの2人を相手にするのは愚策だ。

 私は彼らの隙を突いて、領主夫妻を消さなければならない。


 裸の女戦士は目立つので、避けるのはたやすい。

 厄介なのは、一代侯爵の称号を持つドン・パッティだ。


 幸いにして〝英雄ドン・パッティ〟は、我らの知らない〝黒い箱のような乗り物〟を用いて、どこかへ消えた。


 仕掛けるなら今だ!


 私はまず、伯爵邸でにらみを利かせるガーゴイルを討ち取った。

 特殊スキル『擬態』の弱点は、殺意をともなう攻撃の際に、姿が見えてしまうことだが、敵を仕留めてしまえば問題はない。


「……!!」


 問題なくガーゴイルを葬る。

 魔物といえど、死者は語る口を持たない。


 すぐに『擬態』で身を隠し、機会を待つ。

 どんな時でも、心を平穏にする訓練を積んできた。

 気配を殺し、まずは〝遊び人の亭主〟が門をくぐった隙に、始末する。


 屋敷に潜むのは得策ではない。

 従者と思われる女は、相当の精霊術の使い手だ。

 そしてハーフエルフの少女は回復術を習得している。


 庭に潜み、門前ですれ違いざまに首筋をひっかけば任務完了だ。

 私は猛毒を塗った暗器を携えて〝標的の遊び人〟を待った。


「……!?」


 ところが、先ほど屋敷を出たばかりだと思っていた〝黒い箱〟のような乗り物がもう戻って来た。

 馬もいないのに自走する荷馬車。


 おあつらえ向きに、〝標的の遊び人〟が身を乗り出している。

 よし、今だ。

 私は殺気を消したまま、無心で乗り物に近づいていった。


「な!」


 すれ違いざまに一撃を見舞おうと暗器を振りかざした。

 しかし、黒い乗り物の突進力は馬の比ではなかった。

 すさまじい動力に弾き飛ばされ、私は尻餅をついてしまった。


「…………」


 こんな時こそ平常心だ。

 私は、絶対の隠密能力を鍛え上げてきた。


 いま、すべきこと──。

 まずは、態勢を整えなければならない。


 私は木陰に身を隠して呼吸を整えた。


 (……なんだ、この雨は!!)


 その刹那、突然の豪雨。


 雲ひとつない青空から打って変わって黒雲が一瞬で立ち込め、すさまじい豪雨。

 周辺を漂う水の精霊が驚いている。


 召喚術で雨を降らせたか……。

 何にせよ、これほど広範囲に雨を降らせるような術者は尋常ではない。


 私はとてつもなく悪い予感がして、この場を逃れようと試みた。

 次回予告


「今回は直行さんの一人称じゃありませんね。まさかの主人公交代ですか?」

「エルマ滅多なこと言うもんじゃないぞ。〝蛇〟が主人公になるとしたら、俺たちの全滅エンドじゃないか」

「勇者パーティがいるのに全滅フラグー!」

「まあ、あの面子でよもや負けることもないだろうが……」

「さて、次回はいよいよ最終回『最強戦力敗北? まさかの全滅エンド』です♪ 更新は8月8日を予定しておりますわ♪ 」

「だから! 縁起でもないこと言うなって!」

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