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318話・工場視察と情報共有

挿絵(By みてみん)


「ヒナちゃんさん、他にもクロノ王国について知っていることは全部教えてほしい」


 段ボール工場を見て回りながら、俺は彼女に尋ねた。


 本来ならば、賢者ヒナ・メルトエヴァレンスによる抜き打ち視察で済む話だったが、わがロンレア領はクロノ王国のガルガ国王の命によって、領地返還を迫られている。

 

 そんな状況なので、工場視察とヒナとの対クロノ王国の情報共有が同時にできて、こちらとしては助かった。


「領主さまご一行に礼!」


 工場で働いている自治区からの出向組は、お忍びでの執政官の登場に、あまり驚いていない様子だ。

 この手の抜き打ち視察には慣れっこなのだろう。


 キャプテンハットにマリンルックというラフな装いにも特に違和感を感じている様子はない。


 作業の手を止めず、深々と礼をする。


 あえてヒナ執政官の名前を出さないところにも、俺は感心した。


 ヒナは堂々と手を振って応える。

 自信に満ちていて、つい気圧されそうになる。


 一方ロンレア側の人員は、初めて見る人物なのだろう、ふしぎそうにヒナを見つめていた。


「工場については、すばらしいんじゃないかな。直行君も、洪水からよく守ってくれた」

「守ったのは小夜子さんだけど」


 小夜子はヒナが召喚したパーカーを無理やり着せられていた。

 さっきまで被っていたポリスキャップも没収されて、少し困ったような顔をしている。


「ドラゴンゾンビに襲われたのよ。〝(ぬえ)〟っていう組織が召喚したみたい」

「〝鵺〟の名は裏社会ではよく聞くよね。今のところ自治区には手を出してこないから、放置していたけど。今後は注視しましょう」

「〝鵺〟とクロノ王国のつながりは今のところ不明なのか?」


 俺の問いかけに、ヒナは立ち止まって答えた。


「クロノ王国について、知っていることを話すわ。とはいえ未知のことも多い。多分だけど、あの国は情報統制がされている」

「……と、いうと?」

「ヒナたちが案内されるのは、王宮やら離宮やら歌劇場。王侯貴族たちが住まうエリアだけなのね。いわゆる、ゲーテッドコミュニティ」

「何それ?」


 小夜子が首を傾げた。

 俺も、分からない言葉だ。


「門に囲まれて、自由に出入りできない区域。ハリウッドでセレブが住むようなところがあるじゃない?」

「ああ。武装した怖ーい衛兵が立ってるような」

「旧王都には、貴族街と平民街とスラムを隔てるような箇所はないよね?」


 そう言われてみれば、俺がマナポーションを売って歩いたときには、荷車を引いてどこへでも行けた。

 貴族街では労働者に絡まれたけど……。


「前にクロノ王国の宰相と首脳会談したときに、市井の人たちの暮らしが見たいと言ったら、やんわりと断られた。警備上の問題だって」

「なんじゃそら?」


 魔王を倒した英雄に、警備も何もあったもんじゃないだろう。


()()()()()()()()警備って話かしらね」

「なるほど。英雄による侵略を警戒しているのか」

「新王都に遷都する際、新しい都のインフラ整備を頼まれたのよ。主に王侯貴族のエリア。フレンドリーだけど、とてつもなく厳重な警備をつけられたわ」

「相当に警戒されているね」

虚偽感知(センス・ライ)敵意感知(センス・エネミー)って魔法をガンガン使われて。知里の気持ちが少しだけ分かったかな」 


 知里の『他心通(たしんつう)』ほどではないが、この世界には嘘や敵意を見破る魔法が存在する。

 俺も決闘裁判で使われて、知里が参加できない羽目に陥った。


「ちなみにヒナも、潜水艦からここまで来る途中で敵意感知(センス・エネミー)を使ってみた。少なくとも、ヒナたちに向けられた敵意はない」


 ヒナが突然姿を見せたとき、少し不用心だと思ったが、対策済みか……。


「とはいえ内通者がいたら、アウトだけど」


 俺は率直に懸念を伝えた。


「そうね。でも、ヒナは人を信じる方が好き。ママからそう教わって育ったから」

「ヒナちゃんエライ!」

「わーい。ママに褒められた」


 ヒナと小夜子は仲直りしたようで、顔を見合わせて笑った。

 しかし、ヒナが頬をすり寄せて甘えてくると、小夜子は困ったような顔になる。

 そんな微妙な関係に、俺は少し引いてしまう。


 〝信じる方が好き〟とか言っておきながら、敵意感知を使ってるんだよな……。


「クロノ王国に関しては、そんなところかしら」


 ヒナは猫なで声で小夜子に甘えていたと思ったら、急にビジネスっぽい口調に戻った。


「間者とかスパイは潜入させたりしないのか?」

「そうね。今後は考えないといけないわね」


 ヒナは()()()()床の上で足を止めた。


「設計図だと、ここに地下への入り口があるはず」

「ご名答」


 俺は、スライシャーに命じて周囲に人がいないか確認させる。

 そう、ここはロンレア領の最高機密なのだ。


「ねえ直行さん。クロノ王国って、どんな国なんですかね?」


「ヒナちゃんさんの話、聞いてなかったのかよ。情報統制が敷かれてて、なんかヤバそうだぞ」


「でもロンレア領より発展しているんでしょう? あたくし征ってみたいですわ♪」


「おい字が違うぞ。征くじゃなくて行くじゃないのか……」


「征服して、いい感じの都市だったら遷都もありですわ♪」


「エルマお前いつまで帝国ネタ引っ張るつもりだよ」


「何度も言っていれば、いつか実現できるかもしれませんわよ♪」


「よせよそういうのは! ……さて、次回は7月27日更新予定です」

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