表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
316/735

314話・知里さんの帰還おめでとうパーティ

挿絵(By みてみん)


「知里さん、ホントよく帰ってきてくれた。ありがてえ。まあ一杯やってくれ」

「……あたしの方こそ、帰れる場所があってよかった」


 まだ日は高かったが、俺たちふたりはテラス型の庭園に出て、知里が好む赤葡萄酒で乾杯した。

 もちろんロンレア領内のワイナリーで造られたものだ。


 ディンドラッド商会には、いつも通り、役場で働いてもらっている。

 内通者の女性については、ギッドに監視役を頼んだ。

 

 知里の帰還は、今の俺たちにとって何よりも喜ばしいことだ。

 ズバ抜けた戦闘力はもちろん、人の心が読める特殊スキル『他心通(たしんつう)』による諜報活動でも頼りになる。

 まさにチート能力者。

 しかも、なぜかクロノ王国に対して心に怒りを秘めている。


 その件に関してアンナと何かを打ち合わせていたようだったが、俺は立ち入った話は聞かなかった。

 俺たちの利害は一致している。

 それだけで十分だ。

 

 知里は一杯やった後、ネンちゃんによる魚面の治療に付き添っていた。

 疲れているのか、椅子に腰かけたまま眠ってしまったので、俺とネンちゃんでベッドまで運ぶ。


「おじさん、怖そうなお姉さんの変なところ触っちゃダメですよ」


 ネンちゃんに睨まれたので、俺は慎重に知里を運んだ。

 まだ自分の足の感触が戻ったばかりで、歩くのに違和感があった。


 ◇ ◆ ◇


 リハビリをしないといけない。

 ちょうど帰って来たレモリーを伴い、俺は外を散歩する。


「はい。直行さま。勇者自治区から精霊石を譲ってもらって、電波? の中継地点をつくりました」

「おお、さすが」


 レモリーは丘の上をいくつか指さす。


「はい。見晴らしのいい場所に、通信用の精霊石を置いただけの作業ですが」


 彼女に与えていた特命は、通信網の構築だ。

 風の精霊術では若干のタイムラグがあるため、光の精霊石を使った高速通信を行う。

 トランシーバーでも通信は可能だが、範囲が数キロ圏内と狭く、室内や遮蔽物に弱い。


 人間にとって情報は最強の武器であり、身を守る手段でもある。 

 通信機は勇者自治区にインカム型のモノを特注してある。


「通信機が届くのはもう少し先だ。間に合うといいが……」

「はい。残念ながら(わたくし)には、人間の声をデータ? に変身? させるという意味がよく分かりません」


 レモリーは申し訳なさそうに言った。

 もちろん俺も、詳しい原理なんて分からない。


「風の精霊術で声を運ぶのでもいいが、大幅にタイムラグが出る。戦になったとき、命取りになりかねない」


 ミウラサキは、ヒナちゃんに直接製作を依頼すると言っていた。

 表向きは勇者自治区を頼れなくとも、裏ではガンガン物資の生産を担ってもらう。


「はい。やはり直行さまは戦になるとお考えですか……」 

「ガルガ国王を拉致して、和平交渉を迫るにしても、いずれ一度はどこかでぶつかるだろう」


 拉致した国王が影武者だったなんて可能性も考えられる。

 何しろ表皮仮面や変身魔法がある世界だ。


「何にしてもクロノ王国とは不可侵条約を結ぶ。交渉だけで進められるなら、それに越したことはないけど、話せばわかる相手でもなさそうだから……どのみち戦になるだろう」

「はい。全力でお力添えいたします」


 ……とはいえ元の世界でただの1人の部下もいなかった俺に、兵を率いて戦うなんてできるとも思えない。

 漫画やゲームでの戦争の知識が、実際の用兵にどれほど役に立つかも分からない。

 元魔王討伐軍の知里と小夜子に、知恵を借りるしかない。


 ◇ ◆ ◇


 その日の夜は、知里の帰還を祝って身内だけのパーティが開かれた。

 俺、エルマ、レモリー、魚面。

 小夜子、アンナと3人組の冒険者たち。

 そしてネンちゃんの総勢10人が、ロンレアの屋敷に集まった。


 男女ごとに時間差で温泉に入って、さっぱりしたところだ。

 

「では、知里さんの帰還を祝って、乾杯!」


 俺たちはグラスを合わせた。

 テーブルの上に並べられた酒や料理の数々は、クバラ翁を筆頭とする農業ギルドの人たちが用意してくれたものだ。

 洪水の一件以降、彼らはとても協力的になった。


「こちらのお嬢さんは、お初にお目にかかりますなあ」 

「知里っていいます。今日はごちそうを用意してくれてありがとう。もしよければ、ご一緒にいかがですか?」

 

 知里は、俺たちには滅多に見せない()()()()()()()()笑顔で、農業ギルドの人たちに声をかけた。


 俺はすぐに彼女の意図を理解した。

 パーティに紛れて、仲間内の心を探る。

 まだ内通者がいないとも限らない。


 本格的な戦の前に、信用できる者とそうでない者を見極める必要があった。 




次回予告


「知里さんのはにかんだ笑顔なんて、初めて見ますわね? 直行さん♪」

「ああ。けっこう可愛いんだな」

「性格は少しアレですけどね♪ というか直行さん、知里さんにまで手を出すなんて、無節操ですわよ」

「そうだな……。(……顔の知里。体の小夜子。社会的地位のエルマ。従順さのレモリーか……)」

「はい? 直行さん、(……)の部分、モノローグがすべて声に出てしまっていますわよ」

「な、なに? 声に出てしまっていたか?!」

「世の中には、公で発言していいことと良くないことがございます。以後気をつけてくださいまし♪」

「エルマよ、お前がそれを言うか?!」

「……直行、あんたさあ」

「あら、知里さんも聞いていらっしゃったんですね♪ 状況が混乱してきましたから、このへんでお開きにしましょう。次回は7月19日ごろに更新する予定です♪」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ