313話・シティアドベンチャーの知里
「だいたい分かったにゃ」
内通者への尋問を終え、知里が戻って来た。
真っ青な顔で、内通者の女性が続く。
「ネコチどの。どういうことですか?」
「ギッドさん。残念だけど、商会は黒ね。ただし、堤が切られたことと、暗殺者集団〝鵺〟の関連性は未だ不明。このお姉さんも詳しくは知らされていない」
「……そうですか」
ギッドは無表情に返事をしたが、さすがに少し寂しそうに見えた。
自分が所属していた組織に、捨て駒にされたのだから無理もない。
「この件はあたしに任せてほしい。皆、悪いようにはしないにゃ」
知里の口から語られたのは、ほぼ予想通りのディンドラッド商会の関与。
ただ、思ったよりも情報が少ない。
「くわしいことはフィンフに聞かないと分からないということか……」
「聞いたって、フィンフ様は教えてくれませんよ?」
「だからあたしが行く。まずは人質を解放しないとね」
知里は、フィンフの心を読めば背後関係までつかめる、と言った。
しかし、ギッドをはじめとするディンドラッド商会の面々は動揺を隠せない。
「人質の解放って、簡単に言いますけど、私たちの家族なんですよ。失敗は許されません」
「……もちろん。家族を奪われる悲しみは、冒険者の生活を通じて分かってるつもり。だから慎重に、確実に助け出す」
「具体的には、どうやって?」
「問題は監視の目と、暗殺者の存在よね」
出向組の家族は、囚われているわけではないという。
人質とはいっても、普段通り旧王都で暮らしているらしい。
「あたしが内通者のお姉さんに成りすまして商会に接近して、まずは暗殺者をどうにかする。それだけでも、商会の人たちの不安は減るでしょう」
「…………なあギッドさん、ポッと出の冒険者なんかに任せて大丈夫なのか?」
ギッドの部下が、コソッとギッドに耳打ちする。
ギッドは小さな声で答える。
「さあ? 直行どのに聞いて下さい」
商会の人たちは、なおも懐疑的だ。
冒険者なんて、まっとうに生きている人から見ればガラクタ同然の、アウトローな連中だ。
ましてや、ここ数年で急速に廃れてきている職業でもある。
商会の人たちが知里をいかに怪訝な目で見ているかは、心が読める彼女には筒抜けだ。
「彼女に関しては俺が100%保証する。彼女のおかげで、修羅場をくぐりぬけてこられた。任せて安心のネコチさんだ」
俺は皆に向かってそう言った。
事実、ロンレア伯を説得して決闘裁判に至る手際は、見事だった。
残念ながら出場はできなかったものの、こうやって人の心を読んで俺たちをサポートしてくれた。
何だかんだで、頼りっぱなしだ。
「希望者は安全な場所に避難させます。ディンドラッド商会に残りたい人は、その旨を伝えてください。皆さんの今後は皆さんで決めて大丈夫です」
俺は、商会の人たちに言った。
彼らは口々に言った。
「殺されかけといて、今さら商会には戻れませんよ。おれたちは身の安全が一番です」
「あとは家族に危害がなければ……」
「ロンレアとしては、皆さんの身の安全は保障したい。そのためにできる限りの協力をするつもりです」
「協力と言われても、前途はあまりにも多難です。クロノ王国にも狙われているわけですからね……」
ギッドは深いため息をついた。
「とにかく、打てる手を打っていくしかないにゃ」
そう言って知里は、商会の人たちから家族の住む場所や特徴について、聞き取り調査を始めた。
率先して答える者も、そうでない者も、反応は人それぞれだったが、心の読める知里には筒抜けだろう。
「直行どの。ひとつよろしいですか?」
不意に、ギッドが尋ねてきた。
内通者の彼女をチラッと見た後、声を潜めた。
「彼女を処刑するおつもりですか?」
「は、はい?」
「彼女を処罰するならば、当然私の監督責任も問われなければなりません」
ギッドは俺の方を見て言った。
突飛な発言に、思わず声が裏返ってしまう。
「……あまり物騒なことを言うもんじゃない。ギッドを罪に問うつもりはない。事務方の彼女も、機密情報を漏らしたわけじゃないし。ただ商会に戻られても困るので、しばらくはここにいてもらうけど」
「そうですか。寛大な処置をありがとうございます」
「この件に関しては、ある意味彼女も被害者みたいなものだし……」
俺は、内通者の彼女を横目で見た。
視線に気づいた彼女は、まじまじとこちらを見返す。
「え? 私のことですか? 被害者? 無罪ですか? やったー」
内通者の女性は、嬉しそうな顔をした。
ただ、残念だけど彼女は少しも信用できないから、事が済むまでは監視下に置かせてもらう。
戦になるとしても、ギッドたちは巻き込めないな。
それと、同じ被害者といえどもディンドラッドからの出向組に迂闊な情報は流せない。
難しいかじ取りを迫られる状況だ。
ただ、それでも一縷の望みはある。
知里が合流してくれたことは、何よりも心強いことだった!
次回予告
「無罪ですか? やったー! じゃありませんわ。直行さん、生ぬるいですわよ♪」
「そう言うなエルマよ。罰したところで禍根が残るだけだ」
「信賞必罰と申しますわ♪ 品定めも兼ねて全裸土下座くらいはさせましょう♪」
「何だよ品定めって」
「どうせあのモブも愛人にするのでしょう?」
「はい?」
「下心はお見通しですわ♪ モブにまで手を出すなんて。レモリーが悲しみますわよ」
「な、何を言ってるんだお前は……」
「さて、次回の更新は7月17日くらいを予定していますわ」




