表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
313/733

311話・ギッドの決断

挿絵(By みてみん)


「私たちに行き場なんてありませんよ」


 思いつめた表情で、ギッドは言った。


「私たち出向組の家族は、主に旧王都で暮らしています。いわば人質を取られているも同然です」

「…………そうなるよなぁ」


 俺は頷いた。

 ディンドラッド商会の出向組は顔を曇らせている。


 魚面は、何のことか話の内容が分からない様子でキョトンとしていた。

 ネンちゃんは退屈なのか手遊びをしている。


「商会が殺し屋を雇っているとすれば、何をされるか分かったもんじゃない」

「うちも両親が旧王都だし、心配なんだけど動けないですよ……」

「殺し屋……。〝(ぬえ)〟の連中カ……」

「……?」


 ようやく魚面は話に乗ってきたが、誰も鵺の名前に反応する者はいなかった。

 一般人にとっては、殺し屋のチーム名なんて知らないのが普通だ。


「すべては推測に過ぎないのが、もどかしいですね」


 ギッドは不快そうに言った。

 彼らにしてみれば、洪水の巻き添えを食った挙句、何の連絡もよこさない商会の意図が分からない。

 ……もっともあの洪水と、ディンドラッド商会、クロノ王国との関連性は未だ不明。

 いったい俺たちは何方向からの敵に狙われているのかさえハッキリしない。


「商会から何の連絡もない以上、私たちの任務は現状維持ということでやり過ごします」

「それは構わないけど、これだけはハッキリさせておく」

 

 俺は、改まった感じでギッドに告げる。


「何ですか?」

「商会からの連絡があれば、また俺たちの邪魔をする気か?」

「…………」


 人質を取られている可能性がある以上、彼らは商会からの命令があれば敵にならざるを得ない。

 

「ご心配は無用です。直行どの。商会からそのような命令があったら報告します。そうしたら我々を捕えて、牢にでも入れておいてください」


 ギッドは意外な提案をしてきた。


「私たちはあなた方の邪魔はしない」

「そいつは実に助かるけど……」

「敵が誰かも分からない中で、我々は生き残りと身の置き所を模索しています。保身のようですが、命がかかっていますから」


 ギッドがそう言うのは、自分だけのためではない。

 商会からの出向組の責任者としての立場もあるだろう。


「分かってるよ、ギッド」

「……旧王都の家族を人質に取られている以上、商会から命令が来たら動かないわけにはいきません」

「分かった。仮にそうなったら、フィンフからの命令を俺が先に知ったことにして、お前たちを牢に入れよう。そうすれば出向組はディンドラッドの〝裏切り者〟ではなくなる」

「まあ自分たちも〝出し抜かれた〟という点で、商会に処分されるかもしれませんが……」


 ギッドは肩をすくめてみせた。

 そして多少の自嘲を込めて口元をゆがめた。


「……仮にそうなっても、お前たちの面倒は俺が見るよ。全員ロンレアが雇用する。賃金も弾むぜ? すべてうまくいったらの話だけどな」

「獲物を目の前にした山賊でもあるまいし。そんな安易な目論見は、外れるのが道理ですよ。予算もないでしょう? せめて勝ってから言ってください」


 ギッドは無表情にメガネをクイッと押し上げた。

 …………。


「……だ、そうだ。ネコチ先生」


 俺はカーテンの裏に隠れてもらっていた知里を呼んだ。


「初めまして。あたしの名前はネコチ。嘘はお見通しにゃ」


 颯爽とカーテンから現れた彼女は、キャットマスク姿だ。

 しかし彼女のお馴染みのそれは微妙にデザインが変わっていた。

 以前のモノよりも、ショボい。

 アイマスクから目の部分を切り取って、耳をつけて縁取りをしただけのようだ。


「…………」

「……誰?」


 室内は失笑とともに、珍妙なものを見たような雰囲気に包まれた。


 基本的にカタギである人たちには、いかに一部で名の知られたS級冒険者といえど知名度はまるで無いに等しい。


「……ちっ。……前のマスクは破れちゃったのよ。まあいいにゃ。直行、この官僚系の兄さんの言葉に嘘はないにゃ」

「……嘘を見抜く? まさか」


 ギッドは失笑した。  


「兄さんは直行のことを買いかぶりすぎにゃ。それとお仲間を信頼しすぎ。クールに見えて、意外と熱くて正義感の強い兄さんにゃ……」


 知里の言にギッドから失笑が消えた。

 彼女はギッドには目もくれず、事務方の女性の前まで歩いていく。

 二十代後半くらいで、髪を後ろで束ねている生真面目そうな女性だ。

 外見の通り、キチンと仕事をしてくれている人だ。


「問題なのは、アンタだにゃ。嘘つきさん」

「はぁ? あなた何様? いきなり出てきて何を言ってるの?」


 事務方の女性は露骨に取り乱し、知里を指さして声を荒げた。


「まさか、この(ひと)がフィンフとの内通者か?」

「違います! 言いがかりです!」


 ……そういえば彼女、落成式にいなかったような気がする。


次回予告


知里です。BAR異界風のツケ、払いました。

先日マスターがここでバラしたから、あたしがツケで飲んでいたことがバレちゃったじゃない。

 ……ちっ。まあいいけど。

冒険者なんて命知らずの根無し草。

ツケを払ってもらっただけ有難いと思いなさいよ。

まあ、生きてたから払えたんだけどさ。


次回は、たぶん7月13日ごろに更新する予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ