308話・副官の才能
「キャメル、クロノ王国に降伏文書を送ったとして、領地の引き渡しにはどの程度の時間がかかるかな?」
まずは敵が攻め込んでくる際のタイムリミットを見極める。
どんな戦術を組み込むとしても、時間内に最低限の戦支度を済ませておく必要がある。
「最短で2カ月ってとこかしら。今度は馬でゆっくり行って5日かけましょう。で、陛下に文書を渡して……兵を動かすにしても兵站の確保やらで時間がかかるでしょうからネェ……」
「いいえ。直行さま。私はそうは思いません。1カ月以内……最短で10日と考えます」
レモリーがキャメルの言葉を遮った。
「ほう、レモリー。根拠を聞こう」
「はい。私は勇者自治区に2度もお供させていただいて、かの地の繁栄ぶりに驚かされました」
「あら? 正妻のあたくしは一度しか行ってないというのに、愛人のあなたが2度もというのは聞き捨てなりませんわね♪」
「茶化すなよエルマ。続けてくれ、レモリー」
俺はエルマを制して、レモリーの話に注視した。
「はい。ヒナ様が中心となり、異世界よりもたらされた技術は、私たちの生活を一変させようとしています」
技術革新がすさまじいスピードで起こっている。
俺は頷いた。
「はい。クロノ王国については全く存じ上げませんが、わざわざ都を法王庁から離れた地に新造したという事実から、革新的な国づくりを目論んでいると推察されます」
「なるほど……」
ほんの数年前までは、旧王都がクロノ王国の都だった。
保守的な国だったら、わざわざ都を移したりなんかしない。
「新王都へはボクも何度か行ったことがある。現に勇者自治区が、相当な数の技術者がインフラ整備の仕事を請け負っているよ」
「やはりそうですか。ミウラサキさま、キャメル。新王都は自治区のような街ですか? それとも法王庁のようなところですか?」
レモリーはミウラサキとキャメルに話を振った。
「どちらとも似てないなぁ。ボクが行ったのは、華やかな場所ばかりだけど」
「先日アタシが案内された王宮も、貴族街も、独自の都市計画を急速に進めているって感じだったワ」
2人はつい先日も新王都に行ってきたばかりだ。
町の様子や、王宮の雰囲気なども知っておきたい。
「それで、ミウラサキさま。新王都にあの〝自動車〟という乗り物はありましたか?」
「ないと思う。ヒナっちが専門家を召喚しても、内燃機関をつくるのに何年もかかってる。単純なパーツの精度にも苦労したんだ」
「はい。敵が自動車を持っている可能性は低そうですが、念のため防衛戦の準備を急ぎましょう」
レモリーの面白いところは、異文化に対して、主観が入らず、あくまでも客観的に語るところだ。
自身もドルイド出身という、この世界の主流ではない層で生まれている。
それが不幸にして、幼い頃に魔王軍によってコミュニティが滅ぼされ、孤児になってしまった。
彼女は精霊術が使える奴隷として再教育され、この世界の価値観を叩き込まれた。
その価値観をさらに揺るがすように、巡り巡って今は俺たち異世界人の中で生きている。
レモリーの視点はフラットだ。
自分が拠って立つべき基盤が、何度も崩されているからなのか、彼女は考え方の軸を持たない。
「クロノ王国が新技術を取り入れている以上、兵站、輜重などの後方支援は行き届いているモノとして対処しよう」
「実際、奴らスキル結晶に関する新しい技術を持ってるしね」
知里がボソリと怖いことを言った。
「な、何だってぇーー!」
「ええっ? 新しい技術って何ですか知里さん」
俺とエルマは驚いたが、アンナをはじめ他の者は大して驚きもしなかった。
「クロノ王国新王都には公認錬金術師どもがウジャウジャいるッ。くそっ! いまいましい奴らめッ!」
「それでアンナ。折り入って今回の冒険の報告と、聞きたいことがある。後で少し話そう……」
「知里わかったッ。ラボに来いッ」
「直行の耳にも入れといた方がいいかな。敵の情報は多い方がいい」
知里は思いつめた表情で言った。
「それで直行さん♪ 準備を急ごうという話は分かりましたが、具体的に何をどう準備するのです? 油断させて国王を暗殺する以外に、何をするのですか……?」
相変わらずエルマの鼻息は荒い。
俺は順を追って〝対クロノ王国、ロンレア領防衛計画〟を話すことにした。
皆様ごきげんよう♪
本編の主人公兼ヒロインを務めているエルマですわ♪
直行さんのレモリー評って、いやらしいですわよね。
まるで中小企業のワンマン経営者が、愛人を役職に就けるときの言い訳みたいな感じがしますわ♪
大人って汚いですわねえ♪
さて、次回は7月7日くらいに更新予定です♪




