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307話・なんとか★ロックシューター

挿絵(By みてみん)


「クロノ王国が相手なら、あたしも手を貸すよ……」


 思いつめた表情で知里が言った。

 その顔はいつになく暗く、重い。


「知里さん。瞳が燃えていますわ♪ なんとか★ロックシューターみたいでカッコいいですわ~♪」

「ああ。あの山高帽と相まって、強キャラ感を醸しだしているよな」

「知里サン、闇ヲまとっタ……」

「…………」


 知里は俺たちの話に、小さく笑って応えた。


 間違いなく人生観を揺さぶるような何かがあったのだろう。

 知りたいところだが、不用意に相手の内面に立ち入るのは野暮というものだ。


「知里さん、その帽子カッコイイな。遺跡でゲットしたのか?」


 俺は故意に話題を変えたつもりだったが、知里の表情はさらに曇ってしまった。

 ……地雷、だったのか。


「これは友達から借りたんだ。いつか返しにいく」


 知里は指で帽子をクルクルと回し、再び被った。

 スチームパンク風のゴーグルのついた山高帽。


 冒険者3人組には見覚えがあるようで、何か言いたそうな表情をしていた。

 そんな彼らに、知里は優しく微笑んだ。


「知里、おかえり」


 小夜子はそれだけ言って知里を抱きしめた。

 身長差があるのでまるで母親と娘だが、気心の知れた感じが、俺にもよくわかった。


「ちーちゃん。……久しぶり」


 ミウラサキは、おそるおそる声をかけた。


「久しぶりカレム。元気そうじゃん。アンタも1枚噛んでるの?」

「ボクは協力したいけど、直行君からは止められているんだ」

「ああ。彼は勇者自治区の要人だし、クロノと事を構えるとしても、自治区との接点はできるだけ隠したい」


 俺は、ざっくりとこれまでの経緯を頭に思い浮かべた。

 他人の心が読める知里には、それだけで伝わる。


「懸命だと思うわ。で、具体的にはどう()る?」

「ガルガ国王の暗殺を狙っていますわ♪ 知里さんが力を貸してくれるなら楽勝ですわ♪」

「ワタシも手ヲ貸すヨ!」

「却下だ。知里さん、こいつらの言うことは真に受けないでくれ」


 どうもエルマは血の気が多くていけない。

 魚面も、いつまでも暗殺者の発想なのはよくない。


「俺としては、平身低頭で相手を油断させたところで、視察に来た国王を拉致する方法を取りたい」

「直行さんだって大体同じ戦法じゃないですか♪」

「あたしは、どう動けばいい?」

「素朴な村娘か何かに変装して、国王に花束を渡す係とか?」


 知里は腕を組んで考えている。


「クロノ王国は、あたしたちが思っているよりヤバいかもしれない」

「へぇ、気になるワ」


 初対面にもかかわらず、キャメルが優雅に相づちを打った。


「国家が冒険者の仕事に土足で踏み込んできた。長年の暗黙の了解を破った。奴らはルールを守る気がない」


 知里は険しい顔つきで言った。


「……暗黙の了解?」

「へい。単純に、お上は冒険者に依頼を出す側。遺跡からの出土品を買い取る側でさあ」


 スライシャーは簡単に説明した。

 要するに、知里の冒険に関して、国家がらみの干渉があったということか。


「……最悪の場合、この地を焼き払うなんてこともやりかねない」 

「まさか! アタシ、ガルガ国王陛下と直接お会いしたけど、王様なのにアタシの目を見て話してくれた。そんなことをする人には見えないワ」

「6年前の印象だけど、わたしもそう思う」


 キャメルと小夜子は楽観的に言うけれども、領地を召し上げられるのは確定事項だ。

 それに俺たちが徹底抗戦なのも決まっている。


「国王がどうであれ、領民の命が最優先なのは領主としての責務だ」

「さすが直行さん♪ ですが、どうやって」

「勇者自治区に一時的に避難してもらうなら、ヒナっちに掛け合うけど?」


 ミウラサキの厚意はありがたいし、実際それが最も安全策だが……。

 政治的にそれは問題が多い。


「地下にシェルターを造る。知里さんには悪いけど、敵の目を誤魔化すためにも葬儀はやらせてくれ」

「なるほどねぇ……」


 知里は何かを考えているようだった。


「直行さん。数千人が避難できるシェルターって、大がかりじゃないですか!」

「シェルターって何ダ?」


 魚面が首を傾げた。

 キャメルもピンと来ない様子だ。

 そこに、すかさず小夜子が説明を入れた。


「防空壕のことよね! 戦争の空襲から町の人たちを守るのよ!」

「さすが小夜子さん♪ 竹やりとモンペで第二次世界大戦を生き抜いただけのことはありますね!」

「もう! 学校で習ったのよ! わたしそんな年じゃないわ」


 エルマが茶化し、小夜子が反論する。

 そんないつもの光景を、知里は微笑みながら見つめていた。


「ともかく時間勝負の大事業になる。エルマにも素材の調達なんかで協力してもらうからな」

「建材なんかは勇者自治区が手配しましょう。工場の増設みたいな名目で」

「バレない範囲で、お願いする。本来なら俺がヒナちゃんさんに直接言うべきだが、この足では動けないからな」


 車で移動するにしても、魚面と融合したままヒナちゃんと会うのは気が引ける。

 治療にはもう少しかかりそうだが、できることはリモートで行っていこう。


次回予告


ヤッホー!

小夜子どぇーす!

確かにわたしは昭和生まれだけど、この世界に来たときはピチピチの17歳だったわ。

モンペなんてはいたことないモン。

ちゃんとカラーテレビも、ビデオだってあったんだから。

しかも最新式のβよ!


次回の更新は7月5日ごろです。


追伸:

直行です。

今の若い子にベータなんて言ったって分かんねーだろ。

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