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306話・黄泉ガール

「そんな……知里に限って! まさか」

「いいえ。直行さま。嘘だと言ってください。知里さまが亡くなられたなんて!」


 ミウラサキに伴われて、仲間たちが息を切らして駆けつけてきた。

 小夜子、レモリーは心底驚いた様子だった。


「冒険者ギルドには確認したのかお?」

「知里姐さんが逝ったなんて、あっしには信じられねえです」

「吾輩はラボにかかりきりだったので、分からなかったが、ギルドからの確かな情報なのか?」


 次いで現れた冒険者3人組は、同業者だけあって情報の信頼性をギルドに求めている。

 S級の知里とはだいぶ隔たりのあるC級だが、彼らは比較的冷静に事を受け止めているようだった。


「アタシはその知里って娘とは面識がないワ。あくまで噂ヨ。S級の女冒険者が『時空の宮殿』で消息を絶ったって」


 今ここにいる者たちで、知里を知らないのはキャメルだけだった。


 回復術師のネンちゃんも、マナポーション横流し事件の際に知里が勇者自治区から旧王都まで送り届けた縁がある。


「怖そうなお姉ちゃんだったけど、うんと美味しい飴玉2個もくれたの。ネンが2個欲しいのわかってくれたの」

「直行さん。知里さんの葬儀は当家が執り行うとして、参列者への通知はどうしましょうね?」


 知里の葬儀に誰を呼ぶか。

 俺は冒険者としての知里の人間関係はまったく分からない。

 本人もあまり語らなかった。


「まあ、普通冒険者の葬儀なんて、仲間内で夜まで酒飲んでおしまいってのが常ですがね」


 しかし、これはロンレア領にとっての一大事とも密接に関わってくる。


「冒険者ギルドの長に通知を送る。知里さんと組んだことがある凄腕の冒険者が参列してくれたら、傭兵として雇うつもりだ」

「葬儀の席で戦闘員の勧誘なんて感心できませんわね……当家の名に傷がつかなければいいですが」 


 エルマの反対意見は至極まっとうだ。

 俺だって正直、このやり方は気が進まないけれど、背に腹は代えられない。


「戦力ならボクもいるよ?」

「ごめん。ミウラサキ君をクロノ王国と戦わせるわけにはいかない。勇者自治区の要人は巻き込めない。だから君は、葬儀当日は旧王都か自治区にいてほしい」

「ラ……了解(ラジャー)……」


 ミウラサキは寂しそうに肩を落とした。


「直行くん。ロンレア領が大変なのは分かるけど、いまは皆で知里を、心を込めて送ってあげることを優先しようよ」

「胸囲メガネの言うとおりだッ」


 小夜子は目の周りを赤く腫らしている。

 アンナも真面目な顔で頷いた。

 その時ドアが開いて、奇妙な帽子を被った少女(?)が部屋に入って来た。

 

「ただいま。相変わらずお小夜は優しいね」


挿絵(By みてみん)


 ゴーグルのついたスチームパンク風の山高帽を被っている。

 ローランドジャケット姿の小柄なシルエット。


「誰、アナタ。今は取り込み中ヨ。用があるなら後にして」

「…………」


 入ってきたのは、死んだはずの零乃瀬(ぜろのせ) 知里(ちさと)だった。

 キャメル以外の皆、呆気にとられた。

 信じられないといった面持ちで、彼女を見ていた。

 彼女もまた、呆れたように俺たちを眺めていた。


「……あのさあ。……いや、心からの追悼ありがとう」


 知里は困ったように首の後ろをかいていた。


「知里?」

「ちーちゃん?」

「知里(ねえ)さん?」

「ネリーが呼び出したのかお?」

「わ……吾輩は降霊術などやってはいない」

「……知里サン」


 ようやく状況を理解した仲間たちが、口々に声を上げた。

 そしてエルマは一歩を踏み出し、恭しく礼をした。


「この際ゾンビでも死霊でも構いませんわ♪ 知里さん、クロノ王国と全面戦争になります♪ どうか力をお貸しください♪」


 知里は困惑しながらも、俺たち一人ひとりに目線を送って状況を分析しているようだ。

 彼女のレアスキル『他心通(たしんつう)』で、心を読んでいるのだろう。


 しかし、俺と目が合った時……厳密には、俺と魚面が融合している姿を見たとき、彼女の表情は一変した。


「ちょwwwおまwwww! なんで魚ちゃんと合体してんの? 誰の仕業? まさかアンナ……」

「違うッ! わたしは治療する側だッ」

「知里サン、これには事情があっテ……」


 俺たちは思い思いに、これまでの経緯を思い浮かべている。

 そのひとつひとつを『他心通』で読み取り、頷く。


「……だいたいOK。そっか〝鵺〟ね。厄介なのに目をつけられた」

「やはり知っていタか、知里サン」

「相棒とシティー・アドベンチャー稼業をやっていた頃に何度かやり合った暗殺者集団。えげつない連中よね。まさか魚ちゃんも一員だったとは知らなかったよ」

「ワタシも6年くらい前から〝鵺〟の一員だった」

「あたしはその頃はもう街なかでは仕事やらなくなってたから……。でも、厄介な相手だね」


 クロノ王国と、暗殺者集団との接点は明らかにはなっていない。

 最悪、2方面から狙われている可能性もある。


「OKエルマお嬢。あの国の奴らには、キッチリと落とし前をつけさせてもらう」


 そう言って知里は山高帽を手に取り、胸にあてる。

 彼女の瞳からは燃えるような深紅のオーラが浮かび上がっていた。


 何があったのかは俺には分からないが、知里からは強い決意と、凄まじいばかりの魔力を感じる。


 次回予告。


 ネンです。

 亡くなったって聞いてた怖そうなお姉さんが無事に帰ってきました。


 なんでかは知らないけど、生きててよかったです。


 前に、うんと美味しい飴玉を2個も貰いました。ネンがお父さんの分も合わせて2個欲しいのわかってくれたの、すごく嬉しかった。

 1個お父さんにあげたら、「なんでもっともらってこなかったんだ!」って怒られました。


 次回の更新は、7月3日だそうです。

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