303話・ナレーションに死す
女冒険者、零乃瀬知里は死んだ――。
「知里が死んだだとッ? そんなこと、あってたまるかッ!」
「アり得なイ……」
「まさか……あれほどのチートキャラが〝ナレ死〟なんて……」
アンナと魚面は、愕然としていた。
エルマも顔面蒼白だった。
「……キャメル。まずは知里さんに何があったか、順を追って話してくれるか……?」
最悪のニュースが重なる。
外交交渉は失敗し、このままではロンレア領は戦場となる。
加えて、知里が亡くなったという一報。
俺はまだ信じられない気持ちでいっぱいだった。
「本当に……本当のことなんだな?」
「残念ながらネ。ワタシはアナタのお友達とは面識がないけど……。レモリーから話は聞いていたワ。凄腕の冒険者でしょう?」
「……ああ」
「〝時空の宮殿〟に挑んだS級認証の女性冒険者が死亡したという噂を聞いてピンと来たの」
「……直行さん。知里さんは、そこに行くと言ってましたよね」
エルマが神妙な面持ちで言葉を継いだ。
「デモ知里サンを殺せる魔物ナんて、コノ世界に何種類もいなイ。アノ人、本当に強いカラ……」
魚面は信じられないといった面持ちだ。
「そもそも、〝時空の宮殿〟の調査はわたしが出した依頼だぞッ! 誰かが死んだならギルドが連絡をよこすッ。そんなことがあってたまるかッ!」
アンナは早口にまくし立てた。
「いや、アンナ……お前、拠点を移したって冒険者ギルドに報告したか?」
「見くびるな直行ッ。連絡先の変更は届け出たわッ」
「待て。お前この3カ月ラボにこもりきりだろう」
「だから使いをやったッ!」
「まさかスライシャー?」
「そうだが何かッ……?」
俺とアンナはあんぐりと口を開けたまま顔を見合わせた。
「あいつまた忘れたんじゃ……」
「……!!……」
アンナは髪の毛をかきむしりながら何かを叫んでいる。
「しかしキャメル。そもそも信頼できる筋の情報なのか……?」
この世界にはマスメディアがあるわけじゃない。
流言飛語が乱れ飛ぶ社会だ。
現に、エルマが法王庁に捕まった際に死刑判決が出たと聞いたがデマだった。
「……その話、裏は取れたんだろうな?」
俺はもう一度、キャメルに念を押して聞いてみた。
キャメルは腕を組んで首を傾げている。
「旧王都の冒険者ギルドで確認したけど、いかんせん冒険者なんて閉じた世界の話。彼らは非合法な仕事も請け負う場合もあるから、いくつも名前を持っていたりして、本人が何者か特定するのは難しいワ。ただ……」
「……ただ?」
「……知里という異界人の名前は出てないけど、暗号名ネコチと呼ばれる女性が死亡したパーティにいたのは確かみたい」
それは、知里が変装する際に使った名前だ。
「……ネコチ」
俺は魚面と顔を見合わせた。
その名前は、間違いなく知里の呼び名だ。
「……知里サン」
魚面は悔しそうに顔をゆがめた。
のっぺらぼうだった顔に人体錬成で顔を復元させた。
表情筋も錬成したので、表情に変化がつけられるようになった矢先に、酷な話だ。
「確かに出かける前に散々死亡フラグ立ててましたけど、まさかこんなことになるなんて……」
「ああっ! どうしテ! どうしテ!」
「……パーティ編成は寄せ集めだったと聞いているッ。連携ができていなかったのか。わたしにも責任があるなッ……」
「知里さんって、怖そうなお姉ちゃんだけどネンに飴玉2つもくれました……」
その場にいる者たちは、口々に知里のことを話していた。
「ボクは小夜ちゃんを呼んできます……」
ミウラサキは唇をかみしめて、部屋を出ていった。
俺はまだ実感がわかない。
しかも、最悪の状況はこれだけにとどまらないのだ。
クロノ王国がロンレア領征服に乗り出す。
どうしてこうなった……?
俺は、頭を抱えざるをえなかった。
次回予告
「義賊スライシャーでやす。あっし、絶対ギルドに届け出たっすよ。たぶん届けやした。……届けたんじゃないかな。そっすね忘れやした。次回の更新は……26日頃だと思いますぜ」




