300話・魚面の前世と顔
うっかり外伝21話を本編の方にアップロードしてしまいました。
該当話だけ削除するのに手間取ってしまいました。
全話消えなくて良かった……
「魚面、何の迷いもなく、死を選ぶなよ」
「……アノ状況では、ワタシは万に一つモ助からナイ。ダカラ有意義な情報ヲ伝えられたラ、それデ十分だと思っタ」
死の呪いをかけられ、敵の〝情報を漏らせば即・死亡〟の状態で、何の躊躇もなく、敵の名を言う。
魚面が、あまりにも自分の命を軽視していることが、俺は悲しい。
「そんなに簡単に死を選ばないでくれ。エルマだってそう思うだろう」
「お魚先生……。先生からは、まだ教わる召喚術が山ほどあります」
エルマは珍しく、茶化しもしないで神妙に頷いた。
俺は、魚面の肩をつかんで言った。
彼女はまた、哀しそうに笑った。
「……ワタシは暗殺者だヨ。皆に言えなイ事をたくさんしてきた。皆、よくしてくれているケド、ワタシは日の光の下で生きちゃいけナイのは分カッてル……」
魚面は小さく震えていた。
「それは前にも言ってたな。でも、晴れて無罪だ。俺たちは決闘裁判を勝ち抜いた──」
「罪人と言うなら、直行さんは法王庁からもクロノ王国からも大罪人扱いされてますし♪ 子供でも知っているレベルの放蕩貴族のハレンチ漢ですわ♪」
俺の言葉を遮り、エルマが飄々と言ってのけた。
「こちらにいるアンナ女史も札付きですし♪ お魚先生の居場所としては、けっこうお似合いなところだと思いますわ♪」
「……ソウカな?」
のっぺらぼうの魚面は、顔の筋肉を弛緩させた。
少しだけ、安らいだように見える。
「決闘裁判で無罪を勝ち取ったんだし、堂々としていろよ。魚面、お前の居場所はここだよ。これからもエルマの面倒を見てやってくれ……」
「アリガトウ。コレからは自分の命も大切にしてみるヨ」
彼女は記憶を奪われているが、元々転生者なのだ。
人殺しのハードルがさほど高くないこの世界で、暗殺稼業への後ろめたさを語る。
ひょっとしたら、心の奥底に前世の記憶が残っているのかもしれない。
「魚面……。ひょっとしてお前、前世の記憶が戻っているのか……?」
「……死の呪いに包まれた際ニ……少しダケ、思い出しタ」
「あの時か……」
呪いによって膨張した魚面が、破裂しそうになった時だ。
魚面は思い出そうとして、何度も首を傾げながら唸っている。
「ワタシの前世は、人殺しとハ縁のない、とても穏やかナものだッタ……」
魚面は遠い目をして微笑んだ。
「……テレビ……を見テ、友達と買い物シテ……コンサート行って……花が好きダッタ……」
前世ということは魚面も何歳かの時に亡くなっているのだろう。
記憶があいまいなのか、番組の内容や好きな歌手など、具体的な話は出てこないようだ。
けれど、魚面の前世が穏やかなものだったことに、俺は少しホッとしている。
エルマは嫌そうな顔をしているが。
「お魚先生、思いっきり普通の人ですわね……。少し話しにくいですわ」
「……ソウだ、顔ヲ奪われる前のワタシの顔……誰カニ似てタ……誰かニ……」
「お魚ちゃん、わたしかッ?」
「お魚先生、この中に近い顔がありますか?」
エルマとアンナは、錬成した〝魚面〟の顔を並べて指し示す。
しかし魚面は、首を振って苦しそうに呟いた。
「違ウ。よく知ってル人なんダ。髪型は違うケド……」
──結局、魚面はそれ以上思い出せないようだった。
「スマナイ……」
「お魚先生。気にすることはありませんわ♪ 仮にあたくしに顔が似てたとしたら、キャラが被って困りますわ♪ なので、よろしければあたくしの力作から顔をお選びいただければと♪」
「そうだッ! やるぞッ! 人体錬成だッ! お魚ちゃん、好きな顔を選んでくれッ! 顔ができたら体も錬成するッ!」
「いや待てよ。前世の記憶があるなら、それに基づいて顔を再錬成してやれよ」
俺のツッコミも空しく、エルマとアンナは俄然やる気だ。
フラスコとビーカーを手に、何やら怪しげな人体錬成をはじめようとしていた。
いつもありがとうございます。
次回の投稿は6月16日になります。
「なにとぞ、よろしくお願いいたしますわね♪」




