2話・俺、若返る
ランプの明かりで薄ぼんやりとしているが、鏡に映し出された俺の顔は20歳くらいだろうか。
現在32歳だが、明らかに若返っている。
「外見が若くなってる……」
「ナオユキさんって、20歳くらいだと思ってましたから」
「おかしくないか、俺32だぞ」
ちょっと待てどういうことだ。
いろいろおかしい。
明らかに!
「……」
「……」
気まずい雰囲気は、さらに重苦しい空気に変わっていた。
「いいえ。お嬢様も、お客様も。ここでは何ですので、上でお話しされてはいかがですか?」
とっさに空気を読んだ従者がついてくるように促す。
俺は不承不承、ついていく。
「ジャージなんて13年ぶりに見ましたわ。真っ赤なジャージなんて攻めたアイテムよく着ますよね♪」
エルマが他愛のない雑談を続けようとするのを、俺は止めた。
「話をはぐらかすなよ」
「アフィリエイターを召喚……自体は、たぶん成功していますから」
「死ぬとか何とか……」
「ああ、それはたぶん大丈夫ですわ♪」
声のトーンが鈍くなった。
こいつは、何かを隠している。
それとも、何かを間違えている?
ものすごく不安になった。
「帰る手立てはあるんだろうな? 強制的にこちらの世界に呼んで、帰る手段がないなんてことは言わせないからな」
俺は、不安のあまり混乱しているようだ。
「……被召喚者の帰還方法は確立していますわ♪」
「絶対だぞ。用が済んだら必ず生きて元の世界に帰してくれよ」
いや、そこは「今すぐ帰せ」と言うべきだったか……。
元の世界に帰ったところで、どん詰まりの人生だけど……。
「お約束いたします♪ 成功報酬として、少なからぬ謝礼もご用意させていただきますので」
「……有無を言わせず召喚して失敗したら死ぬだの……謝礼も何もあったもんじゃないだろう」
「その点に関しては弁解の余地もありませんね♪」
何にしてもこのエルマお嬢様は本当のことを言っているのか。
なんとなく胡散くさい。
アフィリエイターの俺が言うのも説得力はないけれど。
世間的には評判の悪いアフィリエイトブロガーだが、決して詐欺師というわけではない。
扱う商品は人によりけり千差万別だが、少なくとも俺は自分で使ってみて良さそうな物やサービスしか紹介していない。
中には怪しげな情報商材を売りつけたり大言壮語して有料セミナーに誘う「信者ビジネス」で大儲けをする連中もいる。
俺もあんな風にやれたらと思うが、どうも騙してるみたいで気乗りがしない。
結局、俺という人間は中途半端なのだ。
就職というレールにも乗れず、かといって悪人にもなり切れない。
駅のホームで絶望していたというのに、いざ〝死ぬ〟と言われたらビビってしまう。
彼女も友達もいないけど、プレイ途中のスマホゲーがいくつかあるし。
気になるマンガも最終回まで読みたい。
高齢の両親だって心配だ。
そんなことをつらつらと思いながら、長い階段を上がっていった。
「こちらです」
案内されたのは豪奢な応接室だった。
いかにも貴族です! といった年代物の調度品が並んでいる。
どちらかといえば西洋風の印象だろうか。
掃除が大変そうだけれど、手入れが行き届いている印象だ。
しかしよく見ると、どの家具や調度品にも『差し押さえ』と書かれた札が貼ってある。
知らない文字なのに……読めるんだ。
「『差し押さえ』……?」
「ええ♪ ですが、期限までは当家のものですので、気にせずおかけください♪」
「気にせずって、そこは気にするところだろ」
「いいえ。お気になさらず、どうぞ」
皆様ごきげんよう。
エルマですわ♪
現代日本からアフィリエイターを召喚して、抱えた在庫を売りさばいてもらおうと思ったのですが……。
出てきたのはとんだ朴念仁で、アテが外れてしまいました。
直行さんと言いましたっけ、何かリアクションが平坦で、ノリが悪いでしょう。
あれで主人公だって言うんだから、片腹痛いですわ♪
しかも屁理屈が多すぎませんこと、彼……。
物を売るのは、セールスマンの仕事ですって?
セールスマンでもアフィリエイターでも、稼いでもらわないと困るんですからね♪
次回からあたくしが主人公だと思って、お付き合いくださいませ♪