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296話・入念な下準備


 クロノ王国から、領地を召し上げられる知らせが届いた。

 それに対し、俺たちのおおよその外交政策が決まった。

 どうにかして現状維持と、先送りだ。


 動けない俺に代わって、出発の準備をするキャメルとミウラサキ。

 ミウラサキは魚面(うおづら)の表皮仮面でダンディな紳士に変装した。

 さらに彼は闘気を身にまとって体形もマッチョに変わっている。


「この虎皮をお土産にするのかお?」

 

 ボンゴロが車に荷物を載せる。

 ガルガ国王への献上品、ロンレア家宝の白虎の毛皮だ。


「こちらの要求は現状維持。ベストを尽くすワ」

「キャメルさんは、ボクが責任をもって守るよ」

「頼もしいワ~御・曹・司さま」


 2人は早くも打ち解けている、というかキャメルは嬉しそうだ。 


「エルマ、自動車のステルス化を頼む」

「少々お待ちくださいませ♪」


 花柄の車は目立ちすぎるので、エルマの『複写』能力で、グレーの迷彩柄に変更した。


「じゃあ、朗報を期待しててネ~」

「レッツゴー!」


 キャメルは俺たちに投げキッスとウインクを送った。

 ミウラサキはフロントドアガラスを開けて、ガッツポーズを決めた。

 街道と同化したなんちゃってステルス自動車は、走り去る。


「無事に戻れるといいですわね……」

「滅多なこと言うもんじゃないぞ、エルマ」


 ミウラサキとキャメルを見送った後、俺は小夜子に担がれて治療室に行った。


 治療室、といっても空き部屋をレモリーが急ごしらえで改装したモノだ。

 部屋の中央にベッドを置いて、白いシーツをかける。


 周囲を浄化魔法で清潔にして、回復術師のネンちゃん用の机と椅子を用意する。

 

 ガーゼや包帯、シーツなどは不足しているので、後で仕立て屋ティティに『複製』してもらおう。


「じゃあ、わたしはパトロールに行ってくるから、ネンちゃんお願いね!」


 ビキニ姿の小夜子は、俺たちに敬礼すると部屋を出ていった。


 彼女には工場周辺の警備とパトロールを頼んでいる。

 ママチャリに乗ったビキニ鎧の女戦士が領内を巡回する。

 エルマはなぜかポリスキャップを召喚して、彼女に渡す。


「わぁ! アメリケーンな婦警さんの帽子だー」

「その格好でパトロールに出たら、どちらが不審者だか分かりませんからね♪ 腕章もどうです?」

「うん! これならどう見ても警ら中ね!」


挿絵(By みてみん)

 

 彼女が何者かを知らない者にとっては、見た感じ変態そのものだが……。

 その実力を知る者にとっては頼もしいことこの上ない。


 魚面を襲った暗殺者〝(ぬえ)〟の〝(ましら)〟に対抗できるのは彼女しかいない。


 ちなみに、ママチャリは俺が勇者自治区で買ったものだ。


 レモリーは、勇者自治区からの出向組と共同で光の精霊による高速通信網の構築。

 その他、ギッドたちとの連絡役などを頼んでいる。

 テキパキと任務をこなす彼女がいてくれて、本当によかった。


 ◇ ◆ ◇


「おじさん、痛かったら言ってください」


 ベッドに寝かされた俺と魚面は、回復術師ネンちゃんの治療を受ける。

 まだ10歳の女の子だが、天才的な回復魔法の使い手だ。


 彼女が手をかざすと、膨れ上がった肉塊と化した部分が、ゆっくりと収束していく。

 

「おじさんは時間がかかるけど、だいじょうぶです」

「お、おう……」

「でも、のっぺらぼうのお姉さんは、むずかしいかもしれません……」 


 ネンちゃんは申し訳なさそうに言った。


「元の体と変わり果ててしまったので、むずかしいんです……」


 魚面は、どうにか命を取りとめている感じだが、いまだ意識は戻らない。

 俺の足だった部分の先から肉塊が生えて、その向こうに肩から頭がくっついている。


 表皮仮面もミウラサキに渡してあるので、のっぺらぼうの顔のままだ。


 それでも、命があってくれただけでも奇跡だと思った。


 ネンちゃんはけんめいに治療を続けてくれている。

 ときおり休憩を挟みながらも、驚異的な集中力で回復魔法をかけ続けている。

 はじめて会った時よりも、魔力量が増しているのか……。

 なるほど、天才だ。


 そうした治療室で、エルマは特にやることもなく俺の隣に座っている。

 足をバタバタさせたり、大あくびをしたり、所在なさそうに手遊びをしたり……。


「暇ですわー直行さん。第2回エルマ(カップ)でも開催しましょうか?」

「やりたかったら他所(よそ)でやってこい」

「おじさんの治療中は、静かにしてほしいのです」

「さっきから、わが夫をおじさん呼ばわりしないでくださいます? 確かに中身はおじさんではあるんですが、見た目はお兄さんですわ♪」

「エルマが俺をフォローしてくれるなんて珍しいな」

「夫を支えるのも妻の役目ですから♪ ああそうだ直行さん、あたくし、とても良いことを思いつきましたわ」


 そう言うとエルマは、一目散にどこかへ駆けて行った。


 

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