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295話・ガルガ国王の印象

「法王庁を噛ませる……ですってェ?」


 キャメルはことのほか驚いているようだ。


「直行さん正気ですか?」

「錬金術師を連れて法王庁に乗り込んでいって、決闘裁判で聖龍騎士団に大恥をかかせた(すけ)こましの悪党の話は、子供でも知ってるわヨ」


挿絵(By みてみん)


 す、女こましの悪党って、俺のことか……。


「でも、直行くん。王様に何て言うつもりなの?」


 小夜子は心配そうだ。


「ロンレアの土地は、法王庁の庇護のもとにあるから、法王猊下の許可なく国王に土地を返還できないと伝えればいい。単なる問題の先送りだけどな」


 事実、ロンレア伯から正式な嘆願書が出ている以上、必ず法王庁から返答があるはずだ。

 実質的な時間稼ぎだけど、その間に対策をとることができる。


「聖騎士ジュントスに相談するのもいいと思う。最近、彼は出世したという話だし」

「…………」

「…………」


 気まずい沈黙が訪れた。

 ジュントスは確かに性欲と煩悩の塊だが、そこまでドン引きされる存在なのか……?

 

「何だよ、ジュントスは悪い奴じゃないし。俺たちが間接的に恥をかかせた法王だって、みすみす庇護する領土を地上の権力者なんかに渡さないだろ」


 二十歳になる法王ラー・スノールは抜群のカリスマ性で知られている。

 若いが異世界人への態度も穏やかだ。

 法王庁と新王都の中間地点にあるロンレア領を、はいどうぞとクロノ王国にくれてやる理由がない。


「俺たちが憎かったとしたら尚更、自分たちで取りに来るんじゃないか」

「いいえ。それは……」

「だからさ、クロノ王国と法王庁を煽るだけ煽って、緩衝(かんしょう)地帯としての役割を強調して生き延びる道を探るのは、アリだと思うんだよ」


 俺は興奮気味に外交策を披露した。

 しかし、皆の顔色は曇るばかりだった。


「直行さん、肝心なことを忘れていませんか?」

「何だよ……」

「ラー・スノール法王と、ガルガ・スノール国王は血を分けた兄弟ヨ。若旦那、エルマお嬢チャンから聞いてませんでした?」

「……そういえば、そうだった」


 実の兄弟なんだった。


 この世界の権力構造は少しややこしい。

 各地の貴族は、法王庁かクロノ王国かのどちらかの後ろ盾のもと、領主の正統性を得ている。

 

 両者は対立することもあれば、わりと友好的な時代もあるとエルマから聞いていた。


 ところが、現法王ラー・スノールは王家の出身だ。

 クロノ王国は法王の兄に当たる現国王ガルガによる親政で、新王都に遷都したという。


「クロノ新王国に関する情報は少ないワ。でもネ、こないだ王女アニマ姫さまが法王庁入りしたのヨ」

「へぇ、アニマ姫さまが!」


 小夜子が目を輝かせた。


「旧王都を経由した際、見物したワ。絢爛豪華な輿に乗っていて、ふしぎな雰囲気のお姫さまだったワ~」

「そっかー、もう16歳くらいかー。大っきくなったんだろうなー」

「小夜子さん、お知り合いなんですか?」


 エルマが興味深そうに口を挟んできた。


「6年前に王宮でお話ししたの。とっても可愛い女の子だったなー。ねえカッちゃん?」

「そうだっけ、ボクあまり覚えてないけど、ガルガ国王は武人気質の少年だったよ。あのとき16歳だったかな」

「アタシには想像もつかない世界だワ~。ねェ、国王様やアニマ王女のこと、もっと教えてヨ、お願い!」

「そうねえ……」


 小夜子とミウラサキの話に、キャメルは食い入るように聞き入っている。

 話が思わぬ方向に転がってしまったが、貴重な情報を得られそうだ。


「会ったのは謁見式と、トシちゃんへの勇者の称号授与の式典、その後の晩餐会の3回だから、そこまで親しいわけじゃないけど……」


 小夜子はそう前置きしながら、続けた。


「ガルガ国王は、体育会系ね。ラグビーで言ったら、背番号15番のフルバック」

「は?」

「フルバックはチーム最後尾に陣取る役よ。最後尾で試合を見渡し味方に指示を出しながら……」

「直行さん、ラグビーって分かります?」

「ゴメン、俺は元野球少年なんで、ラグビーは分かんないんだ」


 元の世界のスポーツなんて、レモリーやキャメルには全くピンと来ないだろう。


「わたしは元の世界でラグビー部マネージャーだったんだ。不良で有名な高校だったんだけど、みんなガンバって全国4位になったの」

「どこかで聞いたような話だな……」

「何のことでしょう?」


 俺はエルマに話を振ってみたが、奴はピンと来ていないようだ。


「その話は置いといて、小夜子ちゃん、ガルガ国王の印象を動物に例えるとしたら何かしら?」

「鷹か獅子かなぁ。狩りが趣味だと言ってたし」

「なるほど、どこを切っても武闘派なのね。よく分かったワ」


 キャメルは勝手に納得したようで、ひとりで何度もうなずいていた。


「ねえエルマお嬢サマに若旦那。おねだりしてもイイかしら?」


 不意に、キャメルが尋ねてきた。


「何だよ唐突に……」

「その鷹獅子な国王陛下に、とびっきりな贈り物を用意しようと思って」

「なるほど、()()ですわね」

「はい。私がお持ちします」


 俺を置いてけぼりで、キャメルたちは話を進めていった。


「わがロンレア家に伝わる白虎の毛皮がありますの♪ 少々残念ですが、手土産に持たせましょう♪」


 白虎の毛皮か……。

 生きた(トレバー)でなくて良かった。


 俺は未だに意識の戻らない魚面を見て、そう思った。


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