294話・男女混合 盛大な雑魚寝
「それはそうと、盛大な雑魚寝ですわね……」
俺たちは全員、大広間に集まって休む。
絨毯の上に布団を敷きつめて、男女合同の雑魚寝なのだが……。
ロンレア領に戻った皆は、簡単な食事を済ませ、風呂に入った。
魚面と体が融合してしまった俺は風呂に入れないので、レモリーに体を拭いてもらった。
俺と魚面に覆いかぶさるように、小夜子とネンちゃんが眠る。
その周りを取り囲むように、エルマとレモリー。
窓際にはミウラサキが眠る。
その内側には勇者自治区からの出向組が眠る。
いつ敵が攻めてくるか分からない以上、用心するに越したことはない。
小夜子はいつでも障壁を発動できるように、ビキニ鎧を装備して眠っている。
そういえば、こちらの世界に来てからというもの、日の出とともに起きていた。
完全徹夜後、朝に眠るのは初めてだった。
興奮して寝つけないと思ったが、誰かの睡眠魔法で、昼過ぎまでぐっすり休めた。
山積みの問題に対して、2日徹夜で挑むのは自殺行為だ。
判断力の低下は、即命取りだ。
◇ ◆ ◇
午後の陽ざしが、窓に差し込んでいる。
皆、敵の襲撃と徹夜で疲れ果てていたのか、寝ている者も少なくない。
「おはよう直行くん。大変だけど頑張ろうね! ガンバ!」
小夜子は満面の笑みで、俺の肩を叩いた。
「小夜子さん。俺を、執務室まで運んでくれるか? 今後の方針を決めたい」
「いいけど、敵襲もあるからここのがいいんじゃない?」
小夜子はそう言うが、ここでは人数が多すぎた。
自治区からの出向組を疑うわけではないが、今後の方針は主要関係者だけで話し合いたい。
「まだ寝てる人がいるから、休んでてほしいんだ」
俺は声を潜めて言った。
「そうだね。直行くん、優しいね」
小夜子はニッコリ笑って、軽々と俺(と魚面の融合物)を抱え上げると、忍び足で雑魚寝の人たちを抜けていく。
俺は特に何も言わなかったけど、エルマとレモリー、そしてキャメルとミウラサキが続いた。
◇ ◆ ◇
執務室で、作戦会議を行う。
ソファに寝かされた俺の周りを、主要関係者が椅子に腰かけて取り囲む。
「『領地の返還』に関して、回答はどうする?」
「あたくしは嫌ですわよ。徹底抗戦も辞さず、ですわ!」
エルマの鼻息は荒い。
「クロノ王国がナンボのモンだって言うんですの! 当家にはミウラサキ一代侯爵と小夜子さん、そして空間転移魔法を編み出したあたくしがおりますわ! 敵影撃滅ですわ!」
ハイテンションで、物騒な台詞を口に出している。
顔芸つきで……。
「戦争は論外として、領土はおいそれとは渡せない。それなら、〝書状は雨に濡れて読めなかった〟みたいな感じで、先延ばしできないか?」
「そんなこと言おうもんなら、国王の親書を雑に扱ったとして、アタシが殺されちゃうわよォ」
使者を務める予定のキャメルは両腕を抱えて震えていた。
「だったらボクが行って交渉しようか? 勇者自治区・運輸大臣ではなく、ドン・パッティ商会による代理人として」
「勇者パーティとの関連はリスクが高すぎる。っていうか、どの道、君には車を出してもらうことになるけど。表皮仮面で変装して別人に成りすましてもらう」
いまここで魚面の表皮仮面を外して渡すわけにもいかないが、後で渡しておこう。
「アタシが危なくなったら、助けてね。御・曹・司」
「は、ハイ了解……」
キャメルは色っぽいまなざしをミウラサキに向けた。
彼はどぎまぎしながら敬礼する。
「わたしはどうすればいい?」
「小夜子さんには、ロンレア領の守護を頼みたい」
「もちろん、承るけど……クロノ王国はいいの?」
「魚面をやった奴に対抗できるのは、英雄レベルじゃないと無理だ。だから、ここで皆を守ってほしい」
「任せて! 昭和の女のど根性で、絶対守ってみせるわ! おまんら許さんぜよ」
小夜子はキメポーズを取った。
たぶんセーラー服を着てヨーヨーを武器に戦う女刑事のドラマだろう。
32歳の俺は、もちろんリアルタイムでは知らない。
ともかく、小夜子に任せておけば安心だ。
「……で、クロノ王国への解答だが、現状維持が理想だ」
「直行さん。弱腰外交はなめられますわ。強気でいきましょう♪」
相変わらず、エルマの鼻息は荒い。
確かに先祖が武闘派で名を上げたのもうなずける。
「キャメル。ロンレア伯は法王庁に嘆願書を出しているな」
「ええ。それは間違いないわ」
「ロンレア伯爵家は代々、法王庁に寄進をし、庇護を受けてきた」
「はい。少なくともここ13年はそうです」
レモリーは静かにうなずいた。
クロノ王国と法王庁。
権力と権威の二重構造。
ここを、最大限利用するしかない。
「よぉし。法王庁もこの件に噛ませよう」
俺の提案に、皆驚いていた。




