表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
295/734

293話・交渉役は誰に?

 俺たちの置かれた状況は最悪だった。

 ていうか、けっこう詰んでいる。


 クロノ王国からの「領地返還」の知らせ。

 出頭期限は2日後。


 クロノ王国の新王都へは、馬車で3日の距離だ。

 自動車を使わないと間に合わない。

 車で行けば約半日。


 徹夜明けの俺たちには休養が必要だ。

 今から眠ったとして、実質残り時間は1日弱と考えるべきか。


 その間に、クロノ王国との交渉の段取りを決めなければならない。

 正式な領主であるロンレア伯は問題外。

 長女のエルマに行かせたら舌禍事件を起こして逮捕か、人質に取られる可能性がある。


 俺もグロテスクな姿で国王に謁見するわけにもいかない。

 外交特使を誰にするかも難しい問題だ。


 事態はそれだけではない。

 腐敗竜を呼び出し、堤防を決壊させ、魚面を襲った暗殺者集団〝(ぬえ)〟の〝(ましら)〟。

 これらが、いつ襲撃をかけてくるかも分かったものじゃない。


 一連の妨害工作に、ディンドラッド商会がどこまで関与しているかも分からず不安要素だ。


 もろもろのことを考えると、頭が痛くなってきた。


 最悪なのは、山積みの諸問題に対して、俺が肉体的に動けないことだ。 

 魚面にかけられた呪いを、スキル『逆流』で自分に流し込んだため、俺たちは予想外の結果として融合してしまった。


 回復術師ネンちゃんの尽力により、どうにか一命はとりとめたものの、腰から下は肉塊となり果てて、歩くこともままならない有様だ。

 しかもその先には融合した魚面があるという、グロテスクな姿だ。


「まずは、皆。帰って休もう。特に小夜子さんとミウラサキ君。こんなことになってすまない」

「気にしないで! こんなの慣れっこよ」

「ひとまず屋敷へ戻りましょう♪ 一代侯爵と小夜子さんは夫とお魚先生を運んでくださいませ」

「了解!」


 事実、俺は魚面(うおづら)と融合していて、ほぼ自力では行動不能なのだ。

 どうにか一命をとりとめた魚面も、まだ意識が戻らない。


「車は1台しかないので、何度か往復しましょう」

「一代侯爵、速度の王(スピード・キング)の二つ名に恥じぬよう、秒速で戻ってきてくださいね♪」


 エルマの言い方はアレだが、時間を無駄にできないのは確かだ。

 車でロンレアの屋敷に向かう途中……。

 ネンちゃんは小夜子に言いつけられた通り、俺たちの治療に当たってくれていた。


 俺は、外交特使についてキャメルに相談してみた。


「クロノ王国への使者の件だけど、キャメルかレモリーに行ってもらおうと思う」

「アタシ一択ヨ。面子を重んじるクロノ王国にとってレモリーちゃんは()()がバレたら処刑対象だもの」


 使者を立てるとすれば、レモリーかキャメルが適任か。

 そう思ったが、キャメルには即答で却下された。


 レモリーの出自……。

 ドルイドの村に生まれ、孤児になった元奴隷。

 出自だけを見たら、捨てゴマだと思われても仕方がない。


 面子を重んじる国家であれば、尚更だ。


「運転手はボクで決まりですね。飛ばしますよ」 

「うん。でも、ミウラサキ君には変装してもらうか、隠れていてもらうかも」


 勇者パーティを外交に引っ張り出すのは危険だ。

 ロンレア領はあくまでも中立国として振る舞いたい。


 勇者自治区との密貿易を感づかれたら、問答無用の戦争案件だろう。


「隠密行動ですね。了解!」

「万が一、キャメルに命の危機が迫ったら、助けてあげて欲しい」

「あら、お優しいのね若旦那」


 ちょうど、魚面が使っている表皮仮面がある。


「それに、ドン・パッティの御曹司って、よく見るととっても可愛い顔してるワ。ウフフフ。死出の旅路だとしても、アタシは満足ヨ」

「滅多なことを言うもんじゃないぞ、キャメル」

「外交交渉は命がけよ。武器を使わない戦争ですもの」


挿絵(By みてみん)


 キャメルは不敵に笑って、俺にウインクをした。


「事情通の上に、そこまでの自覚があるなら頼もしいな」

「クロノ王国の新王都って、どうにも情報がつかめないのよネ。ついでに市井の様子も見ておくわ」

「とりあえず、キャメルにこれまでの経緯を説明しよう」


 俺は、ロンレア邸まで戻る道すがら、工場の落成式後に起こった諸々の出来事を語った。

 勇者自治区との軍事物資(スキル結晶)の密貿易については、言わなかった。

 

 キャメルが信頼できないわけではない。

 俺が恐れたのは虚偽感知(センス・ライ)魔法だ。


 向こうがスキル結晶生産に気づいていた場合、キャメルの嘘がバレる。

 逆に知らせないでおけば、嘘をついたことにならない。


「なるほど。承知したワ」

「くれぐれも気をつけてくれ」

「……それで、若旦那としてはこの件にどう対処するつもり? 領地を差し出すの? それとも、戦争?」


 キャメルは眉をひそめた。

 その二者択一を迫られることは、俺たちにとって絶対にあってはならないことだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ