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290話・長い夜


 俺と魚面(うおづら)は呪いの影響を受け、グロテスクな姿へと変貌していた。

 気を抜くと、体が膨張して破裂する。


「司祭どの。塩梅はいかがでしょうなァ」

「高度な『呪殺系魔法』ですね」

「生きておられるのが不思議なくらいです」


 クバラ翁が連れてきたのは、冴えない感じの初老の聖職者と、助手っぽい男だ。

 白い僧衣には見覚えがある。

 聖龍法王教会の司祭と聖騎士だ。


「おお聖なる龍の大いなるご加護よ。この者から(よこしま)なる瘴気(しょうき)を取り除きたまえ」

以下同文(いかどうぶん)……取り除きたまえ」


 2人の聖職者は、回復魔法を重ねがけする。


挿絵(By みてみん)


 しかし……。

 この状態で〝以下同文〟って、大丈夫なのか?


 魚面と融合した俺は、ミウラサキの時間遅延と小夜子の障壁(バリア)によって、どうにか生かされている。

 2人がいなかったら、俺も魚面も破裂して絶命するか、身体に重大な欠損を受けていたところだ。


 いや、まだ状況は改善していない。

 意識はハッキリしているものの、話すことはできない。

 口の大半が肉塊によって塞がっているためだ。


 …………。

 …………。


 俺は不安に思ったけれど、以下同文の回復術は効いたようだ。 

 気を抜くと、体が膨張して破裂するほどの逼迫した状況は脱したと思う。


「相当に強い『呪い』です。私たちの回復術では、現状維持で精いっぱいです」

「とりあえず精神力が続く限り、司祭様と交代で治療を続けます」


 司祭と助手は、そう言ってくれた。

 俺としては回復魔法を施してもらえると楽になるので、ありがたい提案だ。


 しかし、レモリーは首を振り、変わり果てた俺を抱きしめた。

 ちょうど小夜子とサンドイッチのような状態だ。

 

「レモリーさん……」

「……直行さま。聞こえていますか? 『逆流』で、呪いを(わたくし)に流してはどうでしょう? 代われるものならば、私が代わって差し上げます……」


 俺(と魚面のようなモノ)にすがりついてむせび泣くレモリー。

 重くじめじめした空気に押しつぶされそうだ。

 ギッドを始め、クバラ翁や農業ギルドの人たちが、不安げに俺を見つめている。


「レモリー! 妻が落ち着いているというのに、愛人が取り乱してどうするのですか!」


 気まずい空気を、エルマが一喝する。


「クバラお爺ちゃま、夜更かしは体に毒ですわ♪ ここはあたくしたちに任せて、皆様はお休みください♪」


 そして、いつもの口調で、その場に残ったクバラ翁や農業ギルドの人たちを諭した。

 だが……。


「そうはいきやせん。我々は領主どのに仁義を欠いた振る舞いをしやした」

「ボスの言う通りでさ。それなのに、直行どのは俺らを救って下さった」

「転送させたのは、あたくしですけどねー♪」

「何かできることはねえですかい?」

「最悪、身代わりになるくらいの事はしねぇといけやせん」

「小夜子姐さん、指示をくだせえ」 

「え、わたし?」


 農業ギルドの強面から急に話を振られて、小夜子は固まってしまった。


「……そうねえ。この中でマナポーションか魔晶石を持っている人、いる?」

「はい? マナ……何ですかい?」


 マナポーションは、МP回復アイテム。

 魔晶石は魔力補助、増強の使い切りアイテム。


 冒険者ではない、農業ギルドの人たちには初めて聞く言葉だったろう。


「いま、スラくんたちが、とびっきりの回復術師を呼んできてくれている。それまでは、わたしたちで持たせるわ! だから皆は休んでいて! お願い」

「ボクからもお願いします」

「……分かりました。では、われわれディンドラッド出向組は上がらせていただきます。お先に失礼します」


 小夜子とミウラサキの説得に応じて、ギッド率いるディンドラッド出向組と、勇者自治区からの関係者は引き上げていった。


 これで治療関係者以外で残ったのは、クバラ翁と農業ギルドの面々だけになった。


「さあ! 農業ギルドの皆さんも、ここはわたしたちに任せて!」

「そうは言ったってよう。領主さまを放って、寝るなんてできねえよう」


 農業ギルドの連中は、理屈では分かっていても、気持ちがついていかないようだ。

 そんな彼らに、エルマは思いもよらない提案をした。


「分かりましたわ♪ ではこうしましょう♪ 夜は長いですからね。闘犬でも見物しながら過ごすのはいかがですか?」


 エルマはコボルトを2体呼び出した。

 ……闘犬だと?

 パンツ一丁でグローブをはめた白と黒のコボルトは、シャドウボクシングをしている。

 フットワークも軽く、まるで本物のボクサーのようだ。

 顔は、犬だけど……。


「一口1000ゼニルから受け付けましょう。白いのが勝つか、黒いのが勝つか♪」 

「エルマちゃん、何を考えているの!」


 あまりの突破な話に、俺は言葉が出なかった。

 いや、こんな状態では元々しゃべれないのだが……。


「小夜子さん。じたばたしたって仕方がないですわ。あたくしたちにできる事はありませんもの」

「だからって非常識じゃない? 直行くんが大変な時に賭け事なんて……?」

「エルマちゃん、ボクもよくないと思うよ!」

「承知していますわ♪ なので、常識人の皆様はどうぞ明日に備えてお休みください」


 エルマなりに場の雰囲気を考えたのだろうが、どう考えても悪趣味な提案だ。


「スラが戻るまで、どうせ眠れないのなら気を紛らわせましょうと思いました……」


 俺は何となく理解したのだが、気丈に振る舞っているエルマは、実はものすごく取り乱しているのではないだろうか。

 レモリーのように泣き崩れてしまえばいいのに、領主としてそれもできないのだろう。


「一口1000ですかい。乗りやしょう」

「あ、自分も」

「俺は白いのに1万」


 ……そう思っていたが、どうやら本当にやるようだ。


「彼らはトレーニングを積んだプロですわ♪ 殺し合いではなく、ボクシングのルール内でやりますからご心配なく♪」


 治療を続ける回復術師たちを尻目に、向こうでは闘犬大会が始まってしまった……。


「さあ第1回エルマ(カップ)・開催ですわ~♪」

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