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281話・エルマのひらめき

挿絵(By みてみん)


「瞬間移動を……やるつもりか」


 エルマは空間転移魔法を発動させようとしていた。

 それは、賢者ヒナ・メルトエヴァレンスが使った転移魔法の応用だ。


 ヒナは視界内に魔力による2つの(ゲート)を召喚して、俺たちをまとめて転移させた。

 彼女は前世からの特技であるダンスと掛け声で魔方陣と術式の起動を大幅に省略していた。

 エルマの魔法陣も、前世の自分らしさを反映している。


 見た目はまるで神経細胞を模した図式のような術式。

 CGのような光の環が俺たちの目の前と向かいの丘の上に出現した。


「皆さん、この門をくぐってあの丘に避難してください!」 


 エルマは叫んだが、周囲の者はざわついたまま。

 その場を離れようとする者はいなかった。

 

「領主の娘さんは何をやったんだ?」 

「知らねえよそんなの」

「あれぁ召喚魔法だな。お嬢チャン魔物を呼び出して運ばせるつもりか?」


 ディンドラッド商会や農業ギルドの連中は、はじめて見るタイプの魔法にピンと来ていないようだ。

 クバラ翁も首を傾げている。


「なんと、召喚魔法による空間転移なんて、大技を……」


 一方、勇者自治区からの出向組は、エルマの術式が空間転移魔法であることを看破したようだ。


「いや待て、向こう側の(ゲート)が不安定に見える。こりゃ危険だぞ」


 ただ、なまじ理解している分、術式の不安定さを指摘している。

 確かによく見ると魔方陣は不安定で、時折揺らぎが見える。


「揺らいでいるのはマズいですよね。くぐるのが怖いです」

「テープカットが……」


 マイハサミを持った技術官僚と仕立て屋ティティは固まっている。


 いずれにしても二の足を踏む関係者たち。

 失敗したら全滅だ。

 しかし、動かなければじきにここは決壊した堤の水に呑まれる。

 ミウラサキの時間操作も、いつまでもつか分からない。


「ワタシが一足早く行っテ、向こうデモ術式を安定させル」


 魚面はそう申し出るや、一足先に門に飛び込んでいった。

 向こう側から補助し、転移用の門を安定させる。

 不安定な門に飛び込んでいくなんて、魚面も命がけだ。


「さすがお魚先生ですわ♪」


 向こうの丘に移った魚面は、魔力を放出して出口側の魔方陣に働きかけたようだ。

 揺らいでいた魔方陣が安定した。


 その様子に、周囲の空気が変わった。


「いやなに凄いのはお嬢チャンさね。さァ野郎ども! 我らが先鞭をつける! 命あっての物種だ。とっととずらかるぞ!」


 まず行動を起こしたのはクバラ翁以下、農業ギルドの者たちだ。

 堂々と魔方陣をくぐり、向こうの丘の上に転移していった。


「よぉし! おれらも続け!」


 続いて勇者自治区側から技師たちが転移していった。

 以降、次々に自治区からの出向組や地元住民が門をくぐった。


 その様子を腕を組んで見守っていたギッドは、静かに右手を挙げた。


「わがディンドラッド商会も続こう」


 こうして式典に集まった人たちの避難がほぼ完了した。


「エルマ、俺は工場へ行く。小夜子さんの障壁で地下室を守る。お前は丘へ避難しろ」


 俺と小夜子、アンナの助手ネリーと魔方陣を維持しているエルマが最後に残ったきりだ。


「ネリー?」

「吾輩も工場が気になる。連れて行ってくれ……」


 ネリーが沈痛な面持ちで俺を見詰めていた。


「よし! 分かったネリー。エルマ、お前は早く逃げろ」

「直行さん、ネリー、工場は頼みましたわ♪」


 エルマは親指を立てて微笑んだ後、魔方陣に飛び込んでいった。


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