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273話・勇者との邂逅

挿絵(By みてみん)


「……よう、色男」


 すれ違いざま、男が俺を見てニヤッと笑った。

 俺はハッとして振り向いたが、男はすでに白いリムジンに乗り込むところだった。


 見るからにゴージャスな女性たちがリムジンに乗っている。

 そこへ、いぶきの車と入れ違いに、ワーゲンバスを模したミウラサキの車が到着した。


「ヤッホー! 直行くん3日ぶり?」


 降りてくるミウラサキと小夜子。


 小夜子はスーツ姿で、女教師風のスタイル。

 とてもよく似合っているのだが、巨大な胸のせいかどこかグラビア風というか、実際の教師には見えない。


「あ、今のトシちゃんじゃない?」

「やっぱり、あれが……」


 実物は初めて見た。

 写真で見たときのような、勇者のサークレットは付けていなかった。


 向こうは俺を見て一言だが声をかけてきた。

 俺は軽く会釈をするくらいで、何も言えなかったけど。

 

 白いリムジンの長い車体のドアは跳ね上げ式で、カモメが翼を広げたような形状になっている。

 翼をたたみ、リムジンが発車する。


「トシ君の趣味はゼンゼン理解できない! ガルウイングっていったらスポーツカーでしょ。ねえ直行君もそう思わない?」

「いや、俺そういうのよく分からない」


 ミウラサキの興味は、どこまでも車のことだ。


「ママ、カレム君、ちょうど来たのね、よかった」


 俺がいつまでもここにいるので、ヒナとアンナが階段を上がって呼びに来た。


「あの細っこいのが勇者トシヒコかッ? なんであんなにガリガリなんだ? まわりの女たちは皆、胸囲があったが……。栄養を吸い取られているのかッ?」


 錬金術師アンナ・ハイムが独特の感性で評した。


「あんなのでも、いずれ会う機会もあるでしょうね。さ、そんな事よりもみんな、ディナーを楽しみましょうよ!」


 ヒナは「次いこう、次!」みたいな感じで、勇者トシヒコの話題を流した。

 そしてレストランの中へ案内しようと手招きをする。


 ……あれが、魔王を倒した男。

 しばらく走り去るリムジンを眺めていた俺は、最後に皆の後に続いた。


 地下1階半といったらいいのか、低い階段を降りたところにある、シックな外観の入り口。


 扉を開けると、ヘッド・ウェイターを務める初老の紳士が、ていねいな物腰で挨拶した。


「お待ちしておりました、皆様」


 ヒナがプロデュースした勇者自治区最高のレストラン。


 会食メンバーのうち3人は魔王を討伐した勇者パーティだ。

 自治区の執政官で賢者のヒナ・メルトエヴァレンス、戦士の八十島小夜子、商人のカレム・ミウラサキ。


 さっきすれ違ったのが勇者トシヒコだ。

 この世界の魔王を倒し、生きた伝説となったパーティ「導かれし転生者たち」。


 俺は正直、身震いがした。

 軍需産業に関わることで、この世界の一角を担う彼らの命運を握っている……。


「これが直行の言っていた〝枯れない花〟かッ……。しかも青い薔薇とは悪趣味だなッ」

「そういうこと言うな、アンナよ」

 

 緊張する俺の隣で、アンナは意に介さずフラワーアレンジメントを眺めている。

 着色液で淡いブルーやグリーンに色づけられた花々は、シックな店内によく映えていた。


「アンナ女史はプリザーブドフラワーに興味があるのね。今度製作者を紹介しましょうか。気が合うかも」

「ああ頼むッ。これを人間に応用すれば、不死人が作れそうだッ」

「…………」

「青や緑に色が着くかもなッ。フハハハハハ!」


 どっちが悪趣味だよ、というツッコミは誰も入れなかったが……。

 アンナは自分の発言に何の疑問も持っておらず、俺たちは引き気味だ。


「お席へご案内いたします」


 ヘッド・ウェイターは顔色一つ変えずに俺たちを案内する。

 さすがプロ。


 ◇ ◆ ◇


 前回と同じVIPルーム。

 ヒナちゃんがベルを鳴らすと、スパークリングワインなどの食前酒や、前菜を乗せたキッチンワゴンがやってきた。

 冷たいものと温かいものが並び、好きなものを選ぶスタイル。


 豆類にパルミジャーノチーズをまぶしたものや、トマトやアボカドなどカラフルな野菜を重ねた前菜ミルフィーユ。


 俺の好物の生ハムとトマトとモツァレラチーズのカプレーゼもあった。


 しかしアンナはお気に召さないようで、料理には手を付けず、ワゴンを睨みつけている。


「何だッ、このふざけた料理はッ?」

「あら? アンナ女史にはお気に召さなかったかしら? 参考までにお好みの料理を教えていただけたら、次の副菜やメインディッシュに反映させるけれど……」


 ヒナは大人の対応を見せたが、アンナの興奮は収まらない。


「お気に召すも召さないも無いッ! 特権階級ぶって必要以上に料理を飾り立てるなッ! ……と、言いたいところだがッ! 美味いッ! 畜生めぇッ! くぅぅぅ! 美味いッ!」


 アンナは毒づきながらも、ワゴンに乗った前菜をひとりで平らげてしまった。

 そしてスパークリングワインを飲むと、今度はいたって上機嫌だ。


「このシュワシュワな泡の白葡萄酒は憎たらしいくらいに美味いなッ!」


 まさにアンナの独壇場といった感じで、俺たちは呆気にとられていた。


「この空けてない瓶を1本もらえるか? 知里が帰ったら飲ませてやりたいッ!」


 アンナが知里の話をすると、場の空気が凍った。


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