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271話・スキル結晶工場建設計画・覚書2

挿絵(By みてみん)


「……アンナよ。ちょっと聞きにくいことなんだけど」


 俺は前から気になっていたことをアンナに聞いた。


「なんだッ」

「人体錬成をするのが夢って言ってたじゃないか」


 そんな研究のせいでアンナは〝倫理破壊(モラルハザード)〟の烙印を押され、協会から鼻つまみ者になっている。


「じ、人体錬成……?」


 仕立て屋ティティがうろたえた。


「人の体は、神のつくりしもの。そのような禁忌を犯せば、たちまち悪魔のような瘴気を放つようになり、聖龍さまに食べられてしまいますよ」


 このティティの反応が普通なのだとしたら、なぜそうまでしてアンナは研究にこだわるのだろう。


「誰か、甦らせたい人でもいるのか?」

「どういう意味だッ」

「だから、大切な人を亡くしているとか……。たとえば、幼い頃に母を亡くしていて、もう一度会いたいとか」

「……その気持ちなら、ヒナにもよく分かる」


 ヒナが頷いた。

 母である小夜子のことを思っているのだろう。

 

「両親は健在だッ」

「じゃあ、最愛の恋人を亡くしたとか……?」

「そんなものはいないッ」

「じゃあなんで?」

「どうもこうもないッ。やってみたいだけだッ」

「……」

「……お、おう」


 聞くんじゃなかった。

 たぶんヒナちゃんも同じ気持ちだろう。


「……問題がないようなら、取り交わした覚書をこの素材に『複製』しましょう」


 ヒナは話を契約に戻し、念力(テレキネシス)の魔法で無造作にまとめてあった紙束から2枚を抜き、机の上に広げた。

 

「ティティ。よろしく」

「では、参ります!」

 

 紙束を素材に、原本を模した2枚の覚書が出来上がった。

 紙質までしっかり再現されている。

 文字通りの『複製』だ。


「この世界の法の事は知らないが、トラブル防止の面でも、契約を書面に残しておくのは有効だよな」

「クロノ王国の法律なんて、あって無いようなもの」


 ヒナの言葉には実感がこもっている。


「でも、ヒナたちは約束を守りましょう」

「アンナも頼むぞ」

「無論だッ」


 倫理破壊の錬金術師に、法も道徳もあったものではないが、彼女の信念に基づいて、きっと約束は守ってくれるだろう。

 そう俺は確信している。


「この覚書は各自厳重に保管しておいてね」


 そう、アンナは約束は守るだろう。

 ただ、心配なのは保管場所だ。


「アンナよ。その辺に放っておいたら大問題だぞ」

「一言多いぞ直行ッ! そんな事は分かってるッ」

「公認錬金術師の証の懐中時計だって、その辺にしまいこんでたじゃないか!」

「……うるさいッ」

「……それじゃあこうしましょう。ヒナがその書状に『制約』の魔法をかける。本人以外が読もうとしたら緊縛魔法がかかる」

「こわ……エルマに見せられないのは残念だが、読んで聞かせればいいか」

「直行君、エルマさんに読ませたいときは本人を連れてきてくれたら制約をかけ直すよ」

「OKありがとう」


 覚書の内容は以下の通りだ。


 スキル結晶のオーダー1個につき500万。

 自治区で軍務につく人は800人。

 800人分のスキル結晶の対価として、40億ゼニル。


 ロンレア側は専属契約料として10%のマージンを受け取り、1回の取り引きにつき4億ゼニル。

 その他、土地や水の使用量として1億ゼニル。


 計5億ゼニルの不労所得だ。悪くない。


「2人とも、この先の予定は決まってる? もしよければ、この後ママも呼んでディナーでも一緒にどう?」


 螺旋階段を下りながらヒナが言った。

 俺はアンナの顔を見る。


「わたしは構わないッ。こないだ食べた異界の料理は悪くなかったッ」

「じゃあ、俺もご相伴にあずからせてもらいましょう。例の店?」

「そう。例の店」

「何の話だッ?」 


 俺たちは高級レストラン・アエミリアについて、ザックリとアンナに説明する。


「よく分からんが、食えば分かるのだろうッ」

「! これはヒナ様、お疲れ様です。直行さんも、ご無沙汰してます」


 サンドリヨン城のエントランスホールに出たところで、馴染みのあるメガネ姿の青年と出くわした。


 神田治(かんだはる)いぶき。

 俺がこの世界で人脈を得て、成り上がるためのキッカケとなった男だ。


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