256話・ミウラサキの酒
「ああ、このソースをかけて食べると美味いですねー! 」
「この味、前世で食べた居酒屋チェーン店っぽい味だー」
「ジャンクっぽい味だけど、癖になる感じですねー」
測量士たちにも好評だ。
「遠路お疲れ様です。どうですか、もう1杯」
レモリーに続いて、俺もお酌をして回る。
「このソースのお陰で、料理もお酒も進みますね」
徐々に笑顔の者が多くなってきた。
「いやー、領主さまも気苦労が多いですね」
「波風を立てるやり方もあるとは思うんですけど、着任したばかりなので穏便にいこうと思っています」
「そういえば領主さまは被召喚者だそうですが、所在地が勇者自治区ではなかったのですね」
「ええ、そうなんですよ~。ただ、その辺りの記憶がちょっとあいまいでして……」
誰に召喚されたとか、聞かれるとマズそうだったので、先回りして言葉を濁しておく。
「この世界の原住民って、やっぱりちょっと物騒ですから、領主さまも、お気をつけください」
「ありがとうございます。どうぞもう1杯」
俺は測量士さんたちにお酌をして回りながら、世間話をする。
6人全員が転生者とのことだった。
「ミウラサキさんもいかがですか?」
飲み食いまで高速な速度の王ミウラサキに圧倒されつつ、葡萄酒を注ぐ。
「味付けは……どうです?」
気になっていたことを、おそるおそる聞いてみた。
「いやあ~、皆さんで協力して、見事な手さばきで料理を作ってくれたところを見ていたので、僕も嬉しいやら楽しいやらで」
どうやら味のことは気にせず、宴会の雰囲気だけで食べてくれていたようだ。
「葡萄酒、これだけは間違いなくうまいですよ」
彼がちょうど一息ついて、高速でお腹をさすっている合間を見て、俺は葡萄酒を差し出した。
「ろうも~」
ミウラサキは、注がれた葡萄酒を一瞬で飲み干した。
すでに顔が真っ赤になっていて、ろれつが回ってない感じだが、大丈夫なのだろうか。
「ミウラサキ一代侯爵♪ もう1杯いかがです?」
その様子を見ていたエルマが、面白がって葡萄酒をつぐ。
「ろうも~」
ミウラサキはまた一気に飲み干した。
注がれた直後に、真顔で飲み干している。
「さあどうぞ♪ もう1杯♪」
エルマが面白がって、飲んですぐに葡萄酒を注ぐ。
ミウラサキは、すぐまた飲み干す。
「ろうもぉ~」
さすがに立て続けに一気飲みしすぎだろう。
面白がって、さらに葡萄酒を注ごうとしているエルマ。
「エルマ、危険だからその辺でやめとけよ」
「だって直行さん。ミウラサキ一代侯爵は魔王を討伐した英雄ですわ♪ その彼が、葡萄酒ごときで酔いつぶれるなんてありえないでしょう。ねえ一代侯爵?」
「……ろ、うもぉ~……」
……ミウラサキは目を回して昏倒した。
「エルマお前。さすがに鬼畜すぎるだろう」
「直行さんだって注いでたじゃないですか。ミウラサキ一代侯爵だって面白いように飲んでしまうし」
「一気飲みは危険だ。お前、あっちで大学生だったんだから分かってるだろ。命にかかわるぞ」
倒れたミウラサキを、レモリーがすぐさま介抱した。
その間、俺は測量士たちに、回復か浄化魔法の使い手がいるか聞いて回った。
「あちゃ~。カレムさま、またやっちゃいましたか……」
「ウチのボス、お酒、めっちゃ弱いのに勧められると気をよくして、せっかちなんで一気に飲む悪い癖があるんですよ」
「えっ、お酒、飲めないんですか?!」
何であんなにがぶ飲みしたんだ?
そうか、宴会の雰囲気だけで飲み食いしちゃう人だったのか。
「回復は自分ができます。トシヒコ様から力を与えてもらったので!」
幸い、測量士の中に回復役がいたので助かった。
どうやらミウラサキはあきれるほど気のいい人のようだった。
アルコール飲料の強制は、命にも関わる危険な行為です。たとえ相手の同意があったとしても、絶対にマネしないでください。




