240話・効率的な移動手段
「小夜子ちゃんのお知り合いですか! ご存じかもしれませんが、ボクらは仲間だったんですよ」
ミウラサキは嬉しそうに言った。
決して魔王討伐軍だったことをひけらかすような意味では言っていない、自然な印象だった。
「小夜子さんには俺もお世話になってます。今回はヒナちゃんさんに会いに一緒に来たんですけど、彼女は?」
「いいえ。小夜子さまはお戻りになられませんでした」
レモリーによれば、夜遅くにフロントから連絡があり、小夜子はヒナちゃんのところに泊まる旨を伝えたそうだ。
「ボクが昨夜ヒナっちから電話もらった時、小夜子ちゃんの超ノリノリの歌が聞こえたから、たぶんカラオケ行ってたんでしょう」
「超ノリノリ……ですか?」
俺とエルマは顔を見合わせた。
いつも朗らかな小夜子だが、弾け切った姿は想像できない。
特にヒナちゃんにはいつも遠慮がちな印象も受ける。
カラオケが好きなのだろうか。
意外な一面を聞いてしまった。
それはともかく……。
小夜子は現在サンドリヨン城にいるようだ。
「小夜子さんはしばらくヒナちゃんさんに任せよう。俺たちは旧王都で錬金術師のアンナを説得しないとならないし」
レモリーの休暇もそろそろ明ける頃だったよな。
「はい。片道3日となると、今日中には出発せねばなりませんね」
俺たちの話を、ミウラサキは首を傾げながら聞いていた。
「車で飛ばしたら半日くらいで行けますよ。ボクも旧王都の実家に寄りますので、乗り合わせて行きませんか?」
「いいんですか! ありがたいです」
馬車での移動で生じる3日のロスが車なら半日で済むとなると、メリットは大きい。
「ただ、ここまで乗ってきた馬車はどうします? 一度旧王都の実家に置いてから、ミウラサキ一代侯爵に車で拾ってもらいますか?」
「それだとミウラサキ氏を半日待たせちゃうよ。時間のロスだし、彼にも申し訳ない」
「じゃあ、ボクが先に行って現場を見ちゃいましょうか?」
せっかちな提案に、俺は驚いた。
「ありがたい話ですが、俺が一緒に行かないと、測量していただく土地をお伝えすることができないので……。移動プランの提案なんですけど、いいですかね?」
「了解!」
俺がミウラサキに伺いを立てると、まるで戦隊ヒーローのような威勢のいい掛け声を返してきた。
「……ええと、まず俺たち全員で車で旧王都に向かいます。乗ってきた馬車はこのまま自治区のホテルに預けておく」
「ほう?」
「旧王都では、アンナの説得も含めた、それぞれの用を済ませる」
「なるほど♪」
「で、また皆して乗り合わせてロンレア領に入る。ミウラサキさんには現場を視察してもらう」
「了解!」
「ミウラサキさんが車で帰るときに、馬車を扱えるレモリーを一緒に乗せて行ってもらい、レモリーは馬車を回収して再び旧王都へ向かう」
「はい。承知しました」
レモリーは休暇が終わるので、馬車と一緒に伯爵邸に帰れるというわけだ。
「──この方法だと、測量の下見に1日しかかけられないけど、1泊2日で往復できませんか?」
「ナァィイィスアイディイア! 直行くん」
ミウラサキの英語、発音はデタラメなんだけど、照れがない分、ホンモノっぽく聞こえる。
「今回は事前調査ですが、領地の測量となると、ウチのスタッフ6人にも出てもらうので車2台での移動ですね。車ならいくらでも出しますのでボクらを足代わりに使ってください」
「それはさすがに悪いですよ~」
「お気遣いなく。自動車の走行テストも兼ねているので。大人数で乗った時のデータとかも取りたいんです。ヒナっちの考えでは、ゆくゆくは街道に路線バスを走らせる計画もあるんです」
「なるほど。そういう事なら遠慮なくご一緒させてもらいます」
それにしても、随分と気さくな人だ。
なるほど街道で魔物に襲われたとき、知里が助っ人として小夜子と並んで名前を出しただけの事はある。
「よし決まった! そんじゃ小夜子ちゃんにはフロントからヒナっちの執務室まで電話をつないでもらって下さい。じゃボク、車の準備してくるから!」
ミウラサキは早口でまくし立てると、あれよと言う間にその場を立ち去ってしまった。
「相変わらず、せっかちな方ですわね……」
「はい。慌ただしいお方です」
ホテルのラウンジに残された俺たちは、しばらく呆然と彼の消えた後を眺めていた。




