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239話・早朝の訪問者

 翌朝。

 俺は、インターホンの音に起こされた。


 昨夜はエルマとレモリーと、月虹に3人の願いを誓った。

 その後はルームサービスをとり、彼女らは部屋へ戻って行った。


 俺は1人で冷蔵庫からビールを取り出し、ほろ酔い気分でこれからの計画をまとめた後、眠った。

 …………。





「ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン」

「どうせエルマだ。うるせえなあ」


 レモリーだったら、インターホンは鳴らさず、枕元に立っている。

 それもどうかと思うが、そういえばカードキーは俺が持っている。


 俺は下着にナイトガウンを羽織ったままで、無造作にドアを開けた。


「おはようございまーす!」

「え?」


挿絵(By みてみん)


 ドアの前にレーシングスーツのイケメンが立っている。

 見覚えがある男だ。

 しかし、とっさの事で名前が出てこない。


「ええと確か……ドンパッティ・ミウラサキ……さん?」

「ごっちゃになってるし両方苗字だけどOK! カレム・ミウラサキです。ヒナっちに言われたんで来ました」

「え、あ……」


 俺は突然の事で頭が真っ白になってしまった。


「俺に何か用……でしたっけ?」

「測量を頼まれたんで、現場を見に行きたいんだけど、聞いてないですか?」

「え、ああ! 測量! 分かりました」


 ようやく事態が呑み込めてきた。

 そして、この男は勇者パーティの一角。

 転生者ミウラサキ。

 ヒナや小夜子と一緒に世界を救った勇者トシヒコの魔王討伐軍の一員。


 それにしても、だ。

 どうしてこんな朝っぱらに訪ねてくるんだ。

 しかもフロントに言ってロビーで待っていればいいのに、どうして?


「すいませんミウラサキさん! こんな姿じゃ何なんで着替えてきます」


 俺は頭が混乱しながらも、慌てて部屋に戻った。

 ハンガーにかけておいたシャツを着て、昨日も履いていたズボンを履く。

 ベストのボタンは留めないまま、急いでドアの前に戻ると、彼の姿はなかった。


「え?」


 キツネにつままれたような表情の俺が、周囲をうかがうと廊下の向こうに彼はいた。

 いい笑顔で、ソファに腰かけて貧乏ゆすりをしていた。


 近づいてみると、貧乏ゆすりのあまりにも小刻みなことに驚く。

 テレビゲームのボタン連打のような、気合いの入った揺らし方だった。

 

「あのぉ」

「すいませんどうもー」


 おそるおそる、俺が声をかけると、彼は小走りでこちらに向かってきた。


「どうもどうも。すいませんねボク、のろまなのにせっかちなんで、テンポが合わせにくいと思うけど、どうか気にしないでください」

「ぜんぜん大丈夫ですよ。改めましておはようございます。九重(ここのえ) 直行(なおゆき)です」

「被召喚者の方ですか!」


 俺たちは元の世界の握手を交わす。


 それにしても……。

 勇者パーティの一角を担う彼のような青年が、わざわざ訪ねて来てくれるとは驚きだ。

 しかも彼はドンパッティ商会の御曹司でもある。

 2つの異なる立場を両立させている、かなり珍しい存在だ。

 

「で、現場はどちらでしょう?」

「遠いですよ。ロンレア領です。旧王都から新王都へ至る街道の中間地点。馬車で片道3日かかります」

「いいですね。車出しますよ。ボク、自治区で立体サーキットを建設中なんですよ」


 そういえば、以前会った時にも彼はそう言っていたな。


「九重さんは自動車関係のお仕事をされてませんでしたか?」

「……IT関係でした」


 ミウラサキは残念そうな顔をした。

 このやりとりは前にも経験があった。

 やはり英雄ともなれば、毎日色んな人に声をかけられるだろう。

 俺の事なんていちいち覚えているはずもないか……。


「あら? ミウラサキ一代侯爵。ごきげんよう」

「はい。直行さまのお部屋で呼び鈴を鳴らす音が聞こえたものですから、何事かと参りました」


 エルマとレモリーが部屋から出てくる。

 すでに2人は着替えを済ませ、ドレスと従者の格好をしていた。


「やあエルマちゃん。すっかり大きくなったねー」


 ミウラサキは懐かしそうに目を細めた。


「最後に会ったのは2カ月前だから、そこまでは大きくなっておりませんわ。ミウラサキ一代侯爵は、幼少期の頃のあたくしと比べてるのではありませんか?」

「あー。そうかも」

「はい。その節はお嬢様を助けていただいてありがとうございました」


 レモリーは丁寧に礼を言った。


「エルマちゃん、肥溜めに落ちて大丈夫だった?」

「7年くらい前のことを、昨日のことのように言うのやめてくださる? それに、落ちたのは用水路です。断じて肥溜めではありませんわ」

「そうかそうかゴメンゴメン」


 白い歯を見せて朗らかに笑うミウラサキは、悪い奴ではなさそうだ。

 しかし小夜子ともまた違う感じで、ちょっとズレてる人という印象はぬぐえない。


「立ち話も何だから、そこのラウンジで話しませんか?」

「大丈夫ですよ。現場はロンレア領ですね。車出しますよ。出発は何時がいいですか?」


 ミウラサキは矢継ぎ早にまくしたてた。

 早朝、突然ホテルを直撃され、スケジュールを決めろと言われても、さすがに対応しきれない。


「ちょっと待ってください。そういえばエルマ、小夜子さんは?」 

「あー小夜子ちゃん!」


 俺は困った顔でエルマに尋ねると、ここでもミウラサキが首を突っ込んでくる。

 

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