227話・推定50億の取り引き2
ヒナの目的は勇者自治区の軍事力の強化。
英雄の超人的な能力に頼らない、普通の国家をつくること。
そのために錬金術師を抱き込んで、スキル結晶の量産化を画策している。
俺の知り合いの錬金術師アンナ・ハイムへの紹介料は1億ゼニル。
ヒナが交渉に成功したら、ボーナスでもう1億の計2億の取り引き。
エルマは目をゼニルにしているが、俺はここから、ひと勝負仕掛けるつもりだ。
「分かった。でも、紹介はできない」
「なぜ? まさか直行君も、ママみたいな平和主義者ってことはないでしょう」
ヒナは信じられないといった面持ちだ。
ここからが勝負どころだ。
ただの紹介者で終わっては、面白くない。
俺は、もっともらしい理由を考えてみる。
「ヒナちゃんさんの計画は、錬金術師あってのものだ。アンナに承認されないと詰むよね」
「そうね。でも、ヒナが絶対に何とかしてみせる。これは自治区の国防の要だから」
ヒナの自信は、おそらく圧倒的な魔力での「力づく」「脅し」という選択肢も入っていると思われる。
だけど、それではアンナは動かない……と、思う。
「アンナは独特の倫理観と感性で生きている。ヒナちゃんさんの言い方だと、まず間違いなく彼女を説得できない。十中八九ケンカ別れだ」
「本当に?」
「絶対にムリだな。怒らせて法王庁に報告されたらマズいよ」
これは半分、俺のハッタリでもある。
たぶんアンナは金で動く。
法王庁に報告するような人でもない。
それをヒナに悟られてもいけない。
俺に2億も用意できるという事は、少なくともその数十倍、50億からの予算は用意してあるはずだ。
何しろスキル結晶の量産化のためには、それなりの設備が必要となる。
俺は頭をフル回転させて、ヒナの計画にガッツリと食い込んで金儲けをする策を考える。
「ママはどう思う? 彼女とは会ったことあるんでしょ? 本当にヒナじゃ説得できないと思う?」
「う~ん。独特な価値観の人だからねー。わたしなんか初対面の時に変な薬品かけられたし……。ハッキリ言って、厳しいと思う。直行くんに任せるのもアリだと思うわ」
小夜子の答え(ナイスアシスト!)に、ヒナは考えあぐねている様子だった。
「……直行君はどう思う?」
「アンナの説得は、俺に一任してほしい。そして施設はロンレア領に建設させてほしい。その方がリスクを軽減できる」
俺は、不敵に笑って見せた。
ヒナも同じように笑う。
「自治区に建てさせてはくれないわけ?」
「勇者自治区でスキル結晶を量産化するのは悪手だと思う。下手したら法王庁とクロノ王国の両方が動き出す世界大戦ものだ」
「だけど、あなたのところで量産して、別のところに横流ししないとも限らないでしょう」
「前科あるもんねー。直行クン」
アイカに痛いところを突かれて、俺は苦笑いだ。
「だったら専属契約を結ばないか? 料金はその分割増しになるけど。ヒナちゃんさんは、欲しいスキル結晶をリストに入れてくれたら、俺たちの領地で生産して取引しよう。野菜のように定額制でもいいよ」
思い切って俺は吹っ掛けてみる。
ヒナは一瞬、してやられた! という表情になったが、すぐに冷静な顔で提案する。
「建設の経費はヒナたちが持つ。というか、ロンレア領を借りて自治区の施設を建てるというのはどう? 専属契約の代わりとして」
「ハコの件はそれで良いとしても、アンナはマジで超がつく変人だ。そちらが手配した人員ではアンナの御眼鏡にかなうとは限らない」
「ふーん。直行君には錬金術師の助手が務まるほどの人材を手配できると?」
「ああ。一人だけど、心当たりがある。その人物を、中間管理職として間に入れてほしい」
……心当たりなどないが。
俺としては人材云々というより、誰かクッションが入ればそれでいい。
うまくすれば、ロンレア家直属の錬金術師を抱え込む布石になるかも知れない。




