218話・レストラン・空白のアエミリアとアメリカンダイナー
勇者自治区の高級レストラン、アエミリア。
裏路地を行った先の地下に降りた先にある隠れ家的な店だ。
レモリーはおめかしして、前回と同じ背中の大きく開いた黒のドレスを着こんでいた。
小夜子もレトロポップな柄のワンピースに、珍しくハイヒールを履いている。
二人とも背が高いので、俺と同じくらいの身長で並んでいる。
その中では、まるでエルマが捕まった宇宙人のように小さく感じる。
緊張しているのか、口数も少なく、おどけたりもしない。
まるで別人のようだった。
「あれ? 営業してないじゃないですか?」
洒落た螺旋階段を下りた先にあるレストラン・アエミリアには「営業終了」のプレートが掲げられている。
ガラス戸から覗いてみると、店内はもぬけの殻で、スタッフの姿は一人もいない。
「まさか潰れたんですの?」
「ヒナちゃんさんのお気に入りの店が閉店って事はないだろう。謀叛とか起こしてれば別だけど……」
「あー、ゴメーン言い忘れてた。『晩餐会があるから、あの店は使えないよ』ってヒナちゃんが言ってたのは、ここの事だったんだ」
小夜子は申し訳なさそうに言った。
「いいえ。小夜子さま。どうかお気になさらずに」
「そうかー。どこで晩餐会をやるのかは知らないけど、まあ、料理を出すならこの店のスタッフが総動員されるよな」
俺としては、売り込む特産品(大海老やマンゴー)の料理をオーダーして味比べでもしようかと思ったが、仕方がない。
「直行さん。ホテルに帰ってルームサービスでも頼みません?」
「そう言うなエルマよ。せっかくおめかしして来たんだから、どこかで食べてこう。何かリクエストある?」
「昼間がラーメンでしたから、麺じゃなかったら何でも良いですわね」
「小夜子さんは?」
「今回はわたしのミスだから、皆の行きたいところについていくわ」
「レモリーは、何かある?」
「いいえ。私は直行さまと同じもので大丈夫です」
そんな時、ふと目に留まったのがハンバーガー屋の看板だった。
有名テーマパークをモチーフにしているだけあって、1950年代のアメリカのレストランが再現されている。古き良きアメリカンダイナーの雰囲気だ。
「そこのバーガーショップはどうかな」
「いいわねー。とってもオシャレ! ハリウッドの青春映画に出てきそう」
「ずいぶんと意識が高そうな、いけ好かないハンバーガー屋ですわね。あたくしは別にジャンクフードで構わないんですけど……」
「はい。直行さま、ところでハンバーガーとはどのような食べ物なのですか?」
「そっか、レモリーさんは知らないよね。ハンバーグをパンに挟んだ食べ物で、大口を開けてパクって食べるのよ。ねー直行くん?」
「厳密にはハンバーグはパティ、パンはバンズって言うんだけどな」
「大量生産・大量消費社会アメリカを象徴する食べ物としても知られていますわね」
「いいえ。まったく想像できません……」
俺たちの適当な説明に、レモリーは頭を抱えている。
「ちょうど帰り道だし、苦手な人がいないならハンバーガー食っていこう」
「はい。まったく想像できない食べ物なので興味がわきました。そんなに大きな口を開けないと食べられないような食べ物なんですか……」
「レモリーが乗り気なら、あたくしも付き合いますわよ。ハンバーガーなんて13年ぶりですし♪」
「わたしは7年ぶりかなー。部活帰りによく皆と食べたなー」
思ったよりも盛り上がっているので結果的にこれで良かったのかもしれない。
「じゃ、決まりだ。行こうぜ」
ハンバーガーを食べるには、俺たちはドレスアップしすぎている感じもするが、まあいいか。
来た道を引き返し、カラフルでアメリカンな看板の目立つバーガーショップに足を踏み入れる。
「いらっしゃいませ~」
アメリカ水兵さんの帽子を被ったウェイトレスは、赤×白の太いストライプのオープンシャツに赤いエプロンを身に着けている。
足元はローラースケートを履いていて、器用に店内を走り回っていた。
「すっごーい! アメリカーン」
「はい。タイヤのついている靴を履いていますね。なかなかの機動力です……」
小夜子が嬉しそうに歓声を上げた。
レモリーは唖然として、固まっている。
エルマは何となく居心地が悪そうに俺の後ろに隠れていた。
「4名様ご案内いたしまーす! カウンターかテーブル席、どちらをご利用なさいますか?」
「テーブルで良いかな」
ウェイトレスは弾けるようなアメリカンスマイルで、俺たちを案内していく。




