215話・ラーメン☆銀河天国物語2
「この豚骨スープが美味しいですわぁ~♪」
「お、おう。普通に美味いな……」
俺とエルマは出されたラーメンのスープを一口すすり、思わずつぶやいてしまった。
勇者自治区のオシャレな飲食店街の中で、ラーメン☆銀河天国物語はひときわ異彩を放っていた。
タオルを巻いた店主は、まるで三国志に登場する魏の猛将、曹仁を思わせる風貌で威風堂々。
見事な偉丈夫ぶりに俺は気圧されっぱなしだった。
「いや。ウチのラーメン普通じゃないんで。気合いが違うんで」
俺の感想が気に障ったのか、銀河天国物語の店主はぶっきらぼうに言った。
「表の看板のポエムは、大将が書いたんですか?『いっしょうけんめいだから、旨いんだなァ。いっしょうけんめいだから、たべるんだなァ』ステキですわね~♪」
エルマはフォローのつもりで言ったのかもしれないが、俺には茶化したようにしか聞こえない。
俺は血の気が引いたのだが、店主は存外、嬉しそうだった。
「お嬢さんは若いのによく分かってるんですね」
「もちろんですわ♪ こんなに美味しいラーメン、あたくし初めていただきました♪」
「すごい再現率ですよね。ひょっとしたら、被召喚者の方ですか?」
店主とエルマが妙に打ち解けているので、俺も話に参加してみた。
「いや。自分は転生者なんで。前世の記憶があんまりないんで、気合いで旨いラーメンいっしょうけんめい考えたんすよ」
「マジで最高のラーメンですよ」
「いや。自分的にはまだ高みがあるかなって思ってるんすけど……」
「屋号が良いですわよね♪ 『ラーメン☆銀河天国物語』スケールが大きくてカッコ良いですわ~♪」
俺の問いかけをことごとく「いや」で返すのに、茶化してるとしか思えないエルマの問いには嬉しそうに返す。
仕方がないので、会話はエルマに任せて俺はラーメンを味わうことにする。
「自分、前世の名前が『アマノ・ギンガ』っていうんですよ。だから銀河天国なんすよ。これ、勇者トシヒコ様にもめっちゃ褒められたんすよ。お嬢さんもセンスありますよね」
エルマの関心に応えるように、店主は壁のパネルを指さした。
そこには、タオルを巻いて腕組みをする店主と並んで、細くて飄々とした青年が腕組みをする姿が映っていた。
店主の隣には腕組みをしているヒナちゃんの姿もある。
写真写りがやたら良くて、芸能人みたいだけれど、明らかに顔が引きつっていた。
だとすると、あの男が勇者トシヒコという事になる。
思っていたよりも、細くてつかみどころのない印象だ。
「素晴らしいですわ~。ミウラサキ一代侯爵様もいますわね。で、こちらの方が勇者トシヒコ様。素晴らしいですわ~。大将はお知り合いなのですか~?」
レーシングスーツの青年にも見覚えがある。
来たばかりの頃に、チンピラに絡まれていたところを助けてもらった。
確かミウラサキという名前だった。
魔王討伐軍の主力メンバー。錚々たる面々……。
「まさか、大将は勇者パーティの戦士役とか……」
なるほど、だとしたら納得だ。
元・魔王討伐軍の重戦士が、現在ラーメン屋店主。
「いや。自分、討伐軍には参加してないんで」
俺は椅子から転げ落ちそうになるほど、大きく仰け反ってしまった。
…………。
その後は、私語もなく俺たちは黙々とラーメンを完食し、銀河天国物語を後にした。




