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210話・測量士を探しに勇者自治区に行こう

挿絵(By みてみん)

 翌朝。

 俺たちは勇者自治区を目指して出発の準備を整える。


 自治区に行く目的は、主に二つ。

 まず、ロンレア領の特産品の売り込みだ。

 そしてもう一つが、測量。

 間に入るディンドラッド商会が、収益を改ざんしている疑惑がある。

 俺たちの元いた世界のやり方で、ロンレア領の領土と石高(こくだか)を検地、測量し直してもらう必要があった。


「勇者自治区には一度行ってみたいと思っていたんですのよ♪」 

「観光じゃないんだからな。それに要人にも会う。ヒナちゃんさんはちょっと怖いところがあるから、気をつけないとダメだぞエルマ」

「ピッピッピー♪」


 エルマはふてくされて笛を鳴らしている。

 昨夜の修行では、魔物召喚に成功、犬頭妖精(コボルト)と契約を交わし、配下に加えた。

 魚面(うおづら)からは得たものは大きく、面白い師弟関係だと思う。


 だが、今回の自治区行きに魚面(うおづら)は同行しない。


「ワタシは顔ハ知られていナイが、札付きダ……」


 ついこの間まで殺し屋をやっていた魚面(うおづら)の存在が、勇者トシヒコやヒナちゃんたちに知られているかは分からない。


「勇者自治区の関係者は手にかけたことはナイが、魚面(うおづら)という名はお偉イさんには筒抜けカモ知れなイ。ソレに……直行サンがロンレア領の連中や商会に信用されていない以上、誰か戦える者がココに残る必要がアル」


 魚面(うおづら)がロンレア領の方も心配してくれたのはありがたい。

 確かにこの屋敷を空にしておくのは俺も不安だ。


「道中いろいろと教えてもらおうとしたのに残念ですわね♪」

「ワタシは留守番をしながラ、手持ちの召喚魔物を増やしテおくヨ」

「頼む」

 

 俺は、魚面の肩を叩き、屋敷の鍵を手渡した。

 

(さかな)姐さんに留守番してもらえるなら、あっしらも動き出せやすね」

「吾輩たちは旧王都の冒険者ギルドに顔を出す用事がある。難攻不落の遺跡『時空の宮殿』に挑んだ知里さんの続報も気になる」

「おいらは虎の世話をしようと思ってたけど、お前たちが行くならおいらも行くお」


 冒険者三人組とは、途中までは一緒だが別行動をとる。

 今回は大がかりな輸送もないし、問題はないだろう。


「ヒナちゃんに会うなら、わたしは同行しないとね」


 小夜子が自ら申し出てくれた。

 確かに知見があるとはいえ、勇者自治区のナンバーツーが、俺とエルマだけで会ってくれるとは限らない。

 

「ありがとう小夜子さん、助かる」

「ううん。わたしも実は、ヒナちゃんに自治区に来るように言われてるんだ」

「でも、大臣の話は断ったんでしょう?」

「健康診断を受けろって言われていて……」

「小夜子さんどこか悪いの?」


 元気ハツラツ、はち切れそうなほど健康的なボディの彼女が健康診断とは、意外過ぎる。


「ヒナちゃんもトシちゃんも皆やってるから来いって」

「はい。ひょっとしたら魔王討伐戦の影響なのでしょうか……?」

「ううん……」


 小夜子の顔が少しだけ曇った。

 俺はそれ以上詮索するのを止めて、話題を変える。


「ネリー。さっき言ってた『時空の宮殿』って?」


 知里は「遺跡を探索する」としか言わなかったので特に俺も聞かなかったが……。

 『時空の宮殿』とは物々しい名前だ。


「不死人の砂漠地帯にある、前人未到のダンジョンだ。S級の冒険者パーティでさえ最深部にたどり着いた者はいない。吾輩らCランク冒険者などお呼びではない」

「一攫千金ですげぇんでしょうが、あっしら瞬殺レベルっす」

「知里ったら、またそんな危ないところに潜ってるんだ。怪我したらどうするつもりなのよ!」


 小夜子が怒っているが、怪我で済めば良いレベルの危険地帯ではないのか。

 

「古代魔法王国時代の遺跡は数あれど、守護システムや侵入者用の迎撃プログラムが無傷で残っている例外的な遺跡だな。魔王領の対岸にあって、瘴気の濃い地域だったために近年まで発見されてはいなかったのだ」


 ネリーは術師だけあって、三人組の中では結構しっかりした情報を持っていた。

 ゾンビみたいな顔をしている割に影が薄いが、なかなか侮れない男だ。


「これも魔王討伐の恩恵ですわね♪ 知里さんが遺物を持ち帰ったら、おすそ分けをいただきましょう♪ あたくしホバーボードに乗ってみたいですわ~♪」

「はい。ですが(わたくし)は少しだけ心配です」


 エルマが話に乗ってきて、図々しいことを言う。

 レモリーは「少しだけ」と言ったものの、結構深刻に心配しているようだ。


「レモリー。知里さんは凄腕の冒険者だ。無茶をするような(ひと)でもない。大丈夫だ」

「知里サンはワタシの知る限り、最強の魔法使いだヨ。従者サン、心配ないヨ」


 見送りに来ていた魚面がレモリーの手を取り、言った。


「レモリーさんも魚さんも直行くんも、皆、知里の心配してくれてありがとう。わたし、前のパーティであの()を守ってあげることができなかったから、今すっごく嬉しいんだ……うう」


 そんな俺たちのやり取りに、声を詰まらせた小夜子が入ってきた。

 涙でメガネを曇らせて、レモリーと魚面の肩を抱いた。


「小夜子サン?」

「知里は本当に純粋で心がキレイな()。なのに他人の心なんて読めちゃうから、いつも傷ついてる。皆、知里の事を大切にしてあげてね。あの子、照れ屋だからハッキリ言わないけど、きっとみんなの事が大好きだと思うわ」

「そウ! ワタシまた知里に会いたイ」


 魚面と小夜子は泣きながら抱き合っていた。

 少し困ったようなレモリー。

 俺はどう反応したら良いのか分からず、その場を行ったり来たりしている。


「盛大にフラグ立ててますわねえ♪ 知里さんの。ねえ直行さん。知里さん無事だと良いですけど……」

「エルマ。お前、いい加減な事を言うなよ。知里さんなら必ず戻る」


 俺は気を取り直して一足先に馬車に乗り込んだ。

 心配しても、時は待ってはくれない。


「さあ出発だ! レモリー、頼むぞ」

「はい! ご主人様の仰せのままに! 一路、勇者自治区へ!」

「直行サン、皆も気をつけテ!」

「おう! 留守中頼むぞ」

「魚姐さんも元気で!」

「またね、魚さん。お土産買って、知里連れてくるからね」

「ピッピッピッピッピー♪」


 俺たちは勇者自治区を目指して、馬車を出した。

 湖からの南風に吹かれながら、旧王都までの街道を進む。

 

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