20話・売りさばくには?
◇◆◇
レモリーには暖炉の薪などを削ってもらって削りくずを作ることにする。
彼女は特殊スキル『几帳面』を持っているため、かなり精度が良い。
しかし精霊術師のはずなのに、レモリーにはつい大工仕事ばかりさせてしまうな。
ラベルになりそうな、紙っぽい削りくずを選別する。
薄すぎたものは重ねて糊で貼り付ける。
それを、エルマの複製スキルで俺の書いた羊皮紙のラベルをかんなくずに転写する。
羊皮紙の独特な質感まで写せたので、出来上がったおがくずのラベルは、思ったよりもオシャレな感じに仕上がった。
ただ、エルマの現在のレベルでは一日で生産できる枚数には200枚が限度だった。
「……と、ザックリ計算してみると」
俺はエルマが召喚してくれたそろばんをはじいて、計算してみた。
24×600箱でマナポーションは14400本。
72日もかかってしまう。
このペースではゲームオーバーだ。
仕方がないので売り物のマナポに手を付けながら、まずは半分の約7000本の生産を目指す。
これで生産体制は確保できた……かな?
ところがここでひとつ問題が生じた。
「……で、問題はそれをどこで売りさばくか、ですわね」
「化粧品ならアフィリエイトブログで散々売ったことはあるけども……ネット前提だからなあ」
「そうですわ! あたくしたちのような貴族は専属の髪結い師を抱えています。口紅やアイシャドウなどはそこを通じて分けてもらうんですの」
「それだ! さっそく話をつけてもらおう」
しかし、これが全くお話にならなかった。
エルマも社交界の前などに何度もお世話になっているというロンレア伯爵家お抱えの髪結い師に来てもらったが、俺たちの言い分など1ミリも聞くそぶりを見せなかった。
「美容の専門家である私たち髪結い師を差し置いて、門外漢がうさんくさい化粧品を取り扱おうなどとはお戯れもいいところではありませんか?」
一方的にまくしたてられた挙句、鼻で笑われる始末。
伯爵家も伝統はあるが、その髪結い師にも伝統と誇りがあるという。
これはダメだ。
「この世界において、化粧品は祭祀や神事とも密接なアイテムですからね♪ コンビニで買える日本とは意味合いからして違うのですわ」
「別の方法を探さないといけないな。単純に風呂用品で当たってみるか」
「はい、石鹸などの日用品なら雑貨屋がありますけど」
◇◆◇
試しに雑貨屋に連れて行ってもらうことにした。
貴族街にしては雑然とした店構えに、何に使うのかわからないような雑貨が所狭しと並んでいる。
分かるものとしては、日常用の傷薬やザル、ござ、木の食器やスプーン。
お風呂用品としてはヘチマのような植物で作ったタワシ、麻のような素材のタオルなどが売られている。
「タワシ1個80ゼニル、タオル1枚300ゼニル」
「4800ゼニルのマナポーションは浮いてしまいますわね♪」
「はい。しかもこれだけモノがあると埋もれてしまいます」
営業するのは俺の役目だとして、どこで売ったらいいのか分からない。
その日も3人で街を歩いたけれども、はかばかしい成果は得られなかった。
夕方近くまで歩いて回ったので、とりあえず異界風BARで一杯やることにした。
もちろん言い出しっぺはエルマだ。
さすがに俺も疲れていたので反対しなかった。
「ツケで飲むのには抵抗があるけどな」
「返す手立てはできたじゃありませんか。後は売れれば問題ありませんわ」
「そうだな。じゃあ獣肉バル追加で」
チュードムドムドム……。
エルマはタピオカ風ミルクティーを一心に飲んでいる。
俺は獣肉をドライ風麦酒で流し込む。
レモリーは鶏肉っぽいグリルとマー茶だ。
「汗かいちまったから、帰ったらひとっ風呂浴びたいところだな」
「はい。直行さま、すぐに湯を沸かしますよ」
「そういや前に言ってたよな? 公衆浴場があるって」
今から帰ってレモリーに風呂を沸かしてもらうのも悪いからな。
出先で済ませられたらそれもいい。
「公衆浴場♪ 良いアイデアですわね、直行さん。皆して行きましょうか♪」
「はい? 良いのですか、お嬢様?」
「もちろん♪ 皆で公衆浴場なんて、人生はじめてですもの♪」