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207話・魔物召喚とレモリーの過去

 夕食後、入浴までの合間に、魚面(うおづら)によるエルマへの召喚術指南が行われた。

 場所は屋敷の地下にある拷問部屋。

 先々代によって改装されたこの部屋で、レモリーは奴隷としての〝教育〟を受けたことになる。


 周囲はすっかり夜になっていた。

 室内はキャンドルが灯されているが、うす暗い。


「私が先を照らしますので続いて下さい」


 古いカンテラを持ったレモリーが、地下室へと先導する。


「どうですか♪ 直行さんもあたくしの修行を見学なさいませんか?」

「レモリーは地下室にまで入って行くのか」

「はい。直行さまはいかがなさいますか?」

 

 レモリーの過去、奴隷時代を思い出させてしまうのではと、俺は二の足を踏んでしまうが、当の本人はさほど意に介していないようだ。


「……そうだな。召喚術が見られるって事は、どうやって俺が呼び出されたかにもつながるよな。行ってみよう。小夜子さんはどうする?」

「わたしはボンゴロくんたちと夕食の後片付けをしたら皆のベッドメイクをするから」

「いいえ。小夜子さま。雑用は従者である(わたくし)にお任せください」

「何言ってるのよ、レモリーさんは休暇中でしょ。直行くんと一緒にいてあげなよ」

「はい。申し訳ありません」


 こうして、俺とエルマと魚面(うおづら)とレモリーの4人で地下への階段を降りていく。


 ◇ ◆ ◇


 石造りの拷問部屋には、X字の磔台と古びた革の鞭、拘束具が置かれている。

 命を奪うような鉄の処女やら三角木馬、巨大のこぎりやペンチなどのおぞましい拷問器具は置いてなかった。

 

「直行サンと従者サンは入り口のところに待機してくださイ。呼ぶのは犬頭妖精(コボルト)なのデ、それほどの危険はありませんガ、逃げられないよう二結界を張りマス」


 そう言って魚面は結界魔法の術式を発動させ、部屋の真ん中に円形の魔法の力場を発生させる。

 呼び出した魔物は、この円より外に出ることはできないという。

 犬頭妖精(コボルト)は大体RPGなどでは弱い部類の魔物になるが、ゴブリンやオークほど知名度はない。


「さてお嬢サン。始めましょうカ?」

「!」


 魚面は表皮仮面(スキンマスク)によるゆるふわ黒髪美人の変装を解き、のっぺらぼうの素顔を出現させた。

 エルマはその姿を決闘裁判で一瞬見たとはいえ、驚いた様子で言葉に詰まる。


「ワタシの知る召喚術は〝(ゲート)〟と呼ばれル魔法の出入り口を発生させ、目当てノ魔物ヲこちら側に呼び込むことデス。まずは〝(ゲート)〟を開く」


 魚面は、宙に魔方陣を描いて見せる。

 以前エルマがやっていたが、より円が大きく、形が複雑だ。

 

「あの魔方陣をあたくしの『複製』スキルでコピーしたらどうでしょう?」

「ズルしなイ! まずは基本の形ヲちゃんと覚えないト、応用が効かないヨ!」


 魚面は術式を解いて、部屋に落ちていた鞭でエルマを叩いた。


「ぎゃぺっ!」

「魔力を抑えテ! 魔力を放出しタままで魔方陣ヲ描くかラすぐMP切れを起こス!」


 魚面の鞭で押さえているところから、エルマの魔力が流れている。

 彼女が精神を集中させると、流れは止まる。


「魔力は普段から出さなイ。練り上げてコントロールする。意識シテ!」

「ぎゃぺっ! 叩くの止めてくださいよ~。体罰は犯罪ですわ~」

「魔力を込めて叩いてマス。叩かれた時の魔力の強さを覚えていテ、自分でも再現しなサイ」


 エルマが弟子をやっている光景は新鮮だった。

 しかも魚面は意外と厳しい。


 俺とレモリーは、並んで奴の修行を眺めている。


「……なあレモリー。こんな事を聞くのは何なんだけど、この部屋に入ることに抵抗や、過去の……嫌な思い出が蘇ったりしなかったのか?」


 訊きにくい事だが思い切ってレモリーに尋ねてみた。


「いいえ。確かに私は奴隷としてお屋敷に買われましたが、比較的従順でしたので、過度な〝教育〟は受けずに済みました……」

「……そっか」


 何となくそれ以上は俺からは聞けなかった。

 しかしレモリーは奴隷だった頃の話を、聞かせてくれた。


「はい。(わたくし)の故郷は、おそらく西の果ての森。ドルイドの集落だと思われます」

「おそらく~って?」

「はい。私が12歳の時分に、魔物たちの襲来を受けて集落は滅ぼされました。皆、散り散りになってしまい、以来、両親ともそれきりです」


挿絵(By みてみん)


 レモリーは何の感慨も無さそうにサラリと述べた。


「ご両親は健在なのか?」

「いいえ。分かりません。元々ドルイドは独自の生活様式を持つため、生きていたとしても人里では暮らしていないでしょう」

「いつか、会いに行こう。手立てを尽くして、探してみよう」


 俺はレモリーの眼をまっすぐに見て言った。

 しかし彼女は微笑みと共に首を振った。


「いいえ。(わたくし)は従者としての生き方、都市での生活が沁みついてしまいました。今さら両親に会ったところで、温かく迎えてくれるとは思えません。(わたくし)の居場所は、直行さまのお傍です……」


 俺は、レモリーの頭をなで、次いで肩を抱いた。

 彼女はすがるように身を寄せてくる。

 そこに、刺すような視線と、上空から熱湯が降り注いでくる。


「直行さーん! 人の修行中に愛人とイチャつくのやめてくださいます事!」

「熱っ! 熱っ! 危ないだろお前! ウチに回復役いないんだから()()()したら詰むんだよ!」


 幸い、エルマが召喚したお湯は、魚面の結界によって阻まれた。

 俺とレモリーは難を逃れたが、地下室の石床は水浸しになってしまった。

  

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