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201話・ドキッ! はじめての温泉回3

挿絵(By みてみん)


「熱っ!」

「ぐおおおお! 水の精霊術か!」


 衝立(ついたて)にしがみついていた二人は弾かれ、宙に投げ出された。

 裸の男たちが、星空の下に投げ出され、舞う。

 それを照らし出す()()()()の明かりが、宙の二人を鮮やか照らしていた。


 秘薬によって感覚がマヒした俺には、それらのいっさいがスローモーションのように見えた。

 

「落ちたら怪我するお!」


 俺と相撲を取っていた戦士ボンゴロが、落下する二人を受け止めようと駆けだす。

 だが勢い余って衝立にタックルしてしまい、衝立は倒れていく。


「おい! 大丈夫か皆、怪我はないか?」


 俺も皆を助けようと駆けだしたが、倒れた衝立をピンク色の障壁(バリア)が食い止める。


「もう! 皆ケガしたら治す人がいないんだからね!」


 そこには頬を赤らめた小夜子の姿があった。

 キョトンとする魚面。

 精霊術で防御態勢を取ろうとしたレモリー。

 皆、ピンク色の障壁(バリア)に守られている。


 その中には、スライシャーとネリーの姿もあった。


「うんしょ、うんしょ、重いお……」


 倒れた衝立を、ボンゴロが何事もなかったように立て直そうとしている。

 その様子を、俺たちは立ち尽くして見ていた。

 女性陣も同様だった。


 あまりの突然の出来事に、恥ずかしさが追いついて行かない。

 いや、ひょっとしたら秘薬の効果なのかもしれない。

 目の前には、あまりにも豪華絢爛な景色が広がっている。

 彼女たちも、上気した顔で俺たちの姿を見ていた。


「いいえ。直行さま……」


 レモリーが切なそうに身を寄せてくる。

 俺は、彼女を抱き寄せた。

 愛しい気持ちが心からあふれてくるが、問題を解決しなければならない。


「この状況を、エルマがどこかで見ているだろう。悪趣味な奴だ」

「は、はい? ……エルマお嬢さま……が?」


 エルマは基本的には傍観者で、人を茶化すのが何よりも好きな性格だ。

 この状況を、どこかから見ているに違いない。


「レモリー。かがり火を消せるか」

「は、はい……」


 岩風呂を照らすかがり火はそこそこ大きな火だ。レモリーは精霊術の水流操作で、鎮火を図る。

 しかし、媚薬によって集中力を乱されているため、思うように水の精霊が操れない。


「いいえ……申し訳……ありません……直行さま。(わたくし)もうどうにかなってしまいそうで……」


 レモリーは俺の胸にしがみつき、うつろな瞳でこちらの顔を覗き込む。


「エルマ! どこかで見てるんだろ! 大人たちをからかうのも大概(たいがい)にしろ!」


 しびれを切らした俺は、声を荒げた。

 とはいえ俺自身も、薬の効果で妙に気持ちが(たかぶ)って仕方がない。


 単純に風呂から上がって屋敷まで戻ればいいだけの話なのに、風呂場に縛られたようにここから動きたくない。

 それは冒険者三人組も、女性陣も同様だった。

 手で隠すこともなく、湯船に身を沈めることもなく、トロンとした目つきでその場に立ち尽くしている。

 何かの拍子で理性のタガが外れたら、どうなってしまうのか見当もつかないようなギリギリの状態に追い込まれている。

 

「……魚さん。どうしたの?」


 小夜子と魚面が怪しげな雰囲気で見つめ合っている。

 ネリーとスライシャーは、大真面目な顔でお互いを見ていた。


 このままではまずい。

 打開策を考えなければならない。

 俺は、知らないうちにレモリーの肩に手を回していることに気づいてハッとなった。


「すまないレモリー」

「いいえ。良いのです。直行さま。いかようにもなさって下さい……」

「レモリー、水の精霊術で冷水を俺に打ちかけてくれ」

「はい? それは……どうしてでございますか?」

「……火照った体と、頭を冷ます……このままでは」


 秘薬の効果で、それだけでは済まなくなる恐れもある。

 俺たちの理性が崩壊したら、ここにいる面子で〝大いなる性の乱れ〟に走らないとも限らない。

 見ているのはエルマだけとは限らない。

 どこかで領民が見ているかも知れない。


「はい……承知……しました」


 レモリーは俺に寄り添いながらも、精霊術でお湯を宙に打ち上げ、冷めさせる。

 そして冷やした水を、頭から俺に打ちかける。


「冷てええええっ!」

「ヒャッ!」


 覚悟はしていたが、思いのほか冷たい刺激だったので、俺とレモリーは抱き合ったまま飛び上がってしまった。

 この感覚を、先日覚醒した俺のスキル「逆流(バックフロー)」で、他のメンバーにも流す。


「キャアアア冷たぁい!」

「冷たぁイ!」

「ひっ!」

「……冷たいーお」


 ところどころで男女が魚のように飛び上がった。


「皆、目が醒めたか!」

「はい。私は直行さまのお傍に」

「キャー! エッチエッチぃ!」

「?」


 女性陣の反応は様々だ。

 表情一つ変えないで俺の隣で臨戦態勢を取るレモリー。

 状況が呑み込めず、立ち尽くす魚面(うおづら)

 手で胸を隠して湯船に沈み込む小夜子。


 彼女のスキル「乙女の恥じらい」が極限まで発動し、障壁(バリア)が岩風呂全体を包み込む。


「大将! あれ見てくだせえ!」

「む……」


 スライシャーの指差した先には、脱衣所の小屋から、ずり落ちそうになっているエルマの姿が見えた。

 光学迷彩のローブを身にまとっていたので分からなかったが、やはり近くにいたのか!

 

 彼女は猿のような体勢で、辛うじてぶら下がっている。


「直行さーん! たーすーけーてー♪」

「イタズラが過ぎたお嬢様には、お仕置きをしないとな。魚面、電撃(ライトニング)(ボルト)をケガをさせない程度で!」

 

 俺が指を鳴らすと、威力を弱めた電撃がエルマに直撃する。


「ぎゃぺっ!」


 エルマは小屋から落っこちるが、小夜子の障壁(バリア)内でもあるため、怪我はしなかった。

 それでも電撃の直撃を受けて、彼女は気絶したようだ。


「レモリー、悪いがエルマを寝室まで運んでやってくれるか」

「はい。ご主人様」


 レモリーはエルマを抱えたまま、脱衣所に歩いて行った。

 あまりにも堂々としているので神々しくも思えた。


「見られてしまったものは仕方がありません。ですが、(わたくし)の身体に触れて良い異性は、直行さまだけです」


 好奇の目で見るスライシャーとネリーを逆にガン見し、釘を刺す。

 改めて思うが、レモリーは重い……。


「皆、起きられるか? 俺たちももう上がろう。悪い夢は醒めた」


 俺たちもそれぞれ頃合いをみて、男女別に脱衣所に向かった。

 小夜子は最後まで恥ずかしがってモジモジしていたようだ。


 こうして、ロンレア領での最初の夜は過ぎていった。

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