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188話・新天地ロンレア領へ!


「よーし。ストーップ!」


 ロンレア伯爵家の邸宅前に、2台の馬車を停める。

 俺たちはエルマの家財道具を馬車に積み込んで、引っ越しの準備を進めている。


 御者を務めるのは、従者レモリーと盗賊スライシャー。

 冒険者仲間の術師ネリーと戦士ボンゴロは、引っ越しの荷物の積み下ろしを手伝ってくれている。


「へい、ネリー。そっちを持ってくれ」

「魔道の探究者である吾輩に力仕事をさせるとは……」

「ソッチ、持ちマス」


挿絵(By みてみん)


 召喚師、魚面(うおづら)も手伝ってくれた。

 トレードマークだった魚の仮面を外し、ゆるふわ黒髪美人に化けて俺と一緒に家具を運ぶ。

 決闘裁判での裏切りを気にしているのか、必要以上に頑張っている。

 もっとも、元殺し屋といっても肉体的には普通の女の子なので力仕事は苦しそうだ。


「魚面、無理するなよ。俺ひとりで十分だ」

「でもワタシ、罪滅ぼし……」

「いいえ直行さま。(わたくし)が持ちます」


 俺と魚面の間に、レモリーが割って入る。


「レモリーは御者をやってもらうんだから、出発まで休んでいろよ」

「いいえ。お手伝いさせてください」


 レモリーは当面の間、ロンレア家の従者を務めてもらうことになっていた。

 だが今回、1週間の休暇という形で、ロンレア領への往復の御者を頼んだ。

 伯爵夫妻の食事などは、ディンドラッド商会経由で臨時の従者を紹介してもらった。

 日当1万ゼニルは俺が持つ。


「今回、あたしは見送りだ」

 

 知里はホバーボードで見送りに来てくれた。

 彼女とは、ここで別行動だ。


 日夜研究に忙しい錬金術師アンナ・ハイムの依頼で、魔法王国時代の遺跡を探索するという。

 珍しく他の凄腕冒険者とパーティを組んだので、日程が合わず、今日の見送りがやっとだった。


 彼女の持つ特殊スキル『他心通(たしんつう)』は他人の思考を読むことができる。

 本当ならば知里にはディンドラッド商会との交渉に付き合ってもらいたかったが、やむを得ない。


 ロンレア領に向かう面子は総勢8人。


 俺、エルマ、レモリー、ボンゴロ、ネリー、スライシャー。

 魚面とペットの虎も、同行する。


「おまたせー!」


 そして今回のキーパーソンである、小夜子。

 今回、彼女には無理を言って同行してもらう。

 日課の炊き出しは、カーチャら孤児院の人たちに任せてある。


「小夜子さん、来てくれてありがとう。荷物は後ろの馬車に積んで」


 朝の炊き出しをしてから、俺たちに合流してくれた。

 両手に大きなカバンが2つ、背中にも大きな荷物を背負って走ってきた。

 もちろん大きな胸は、揺れに揺れた。


 小夜子といえばビキニアーマーだが、今日はなぜかタンクトップにパーカーをはおった姿だ。

 下はパッツンパッツンのホットパンツと、スニーカー。いずれもピカピカの新品だった。


「お小夜、その服どうしたの?」


 見送りに来ていた知里が話に入ってきた。

 勇者パーティを追放された彼女だが、小夜子とは親友といってもいい間柄だった。


「ヒナちゃんが送ってくれたの。今回はあまり危険はなさそうなので、ビキニはやめたんだ。でもパーカーを脱げば恥ずかしい格好だから、障壁(バリア)は張れるわ」


 小夜子のスキル『乙女の恥じらい』は、本人の恥じらいと連動して障壁(バリア)が張れる。


 勇者トシヒコによって付与された特殊スキルだ。

 本人が恥ずかしければ恥ずかしいほど物理防御力・魔法耐性が上がるため、いつもビキニ鎧などのあられもない格好をしている。


 俺としてはビキニ姿が見られないのは少々残念ではあるが、ホットパンツのお尻と生足が見られたので良しとしよう。


「万が一の時は知里の代わりに皆を守れると思う。刀も持ってきたしね」

「小夜子さん、頼りにしてる。今回は一緒に来てくれてありがとう」

「直行君。これは、わたしの目的とも合致するんだもんね」


 俺にはどうしても小夜子の力が必要だった。

 何しろ彼女は魔王討伐軍の勇者パーティで、英雄のひとりだ。

 勇者自治区ナンバー2の転生者ヒナ・メルトエヴァレンスの前世の母親でもある。


 オッパイも素晴らしいが、誰からも好かれる人望に加え、勇者自治区とのコネもあり、比類なき人材だ。

 俺とエルマの社会的な信用はハッキリ言って(ゼロ)だから、彼女の社会的信用は欠かせない。


 彼女の望みは、この世界から貧困と飢餓を根絶すること。

 俺は、小夜子のコネを起点として農産物を勇者自治区へ売り込むことを画策している。

 お互いの利害は一致する……はずだ。


「でも、まさか直行君とエルマちゃんが結婚なんてねー。レモリーさんの気持ちはどうなの?」


 小夜子は俺と会うたびに、その話を切り出す。

 そのたびにレモリーがピクンと反応し、それとなくこちらを伺う。

 

「もちろんレモリーは大切だ。ロンレア家従者の引き継ぎができ次第、俺のところに来てもらう」


 俺と小夜子の会話を気にしていたレモリーが、涼しい顔で作業に戻った。

 心なしか、スキップをしているような気がする。


「エルマはあくまでもビジネスパートナー。俺は未成年に手を出すつもりはないよ。たとえ異世界でも、俺は日本の社会通念に従うつもり」

「社会通念も大事なんだろうけど、2人の気持ちはもっと大事にしてあげてよ」

「分かってる」


 レモリーのことは大切だ。

 エルマは何を考えているのか、全く分からないけど……。


「ピプー♪ 良いですわねえレモリー♪ 本当に直行さんが大好きですのね。で・す・が・残念ながら直行さんは妻帯者です。あ・た・く・し・が妻ですわ♪ 正妻と愛人の差ですわ」


 エルマは相変わらずというか、レモリーの隣の御者台に陣取って、茶化している。

 そして首に下げた(召喚した?)プラエコー笛を意味もなく吹き鳴らしていた。


 ──ピッピッピッーッ! ピィーッ! ピィーッ!──


 プラスチック製のホイッスルの、安っぽい音が鳴り響く。


「さあ、直行さん出発しましょう♪」

「おう! 新天地ロンレア領を目指して!」

「新天地といっても、あたくしの先祖代々が治めてきた土地なんですけどね♪」


 先頭の馬車は、レモリーが御者を務める。

 積んだ荷物は着替えなどの比較的軽いものだ。

 そこに俺とエルマ、小夜子、魚面が乗る。


 後方、2台目の馬車はスライシャーが御者を務めている。

 こちらには食器などの荷物や家具を積んでいる。檻に入れた虎も乗せた。

 ネリーとボンゴロが積み荷を抑えながら同乗する。


 朝が過ぎた午前の日差しを受けて、2台の馬車は動き出す。


 この旧王都の貴族街も当分の間、見納めとなるだろう。


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― 新着の感想 ―
[良い点] わたくしもビキニアーマーが見られないのは残念です…。
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