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恥知らずと鬼畜令嬢~ラスボスが倒された後の世界で~  作者: サトミ☆ン
幕間・勇者トシヒコと法王ラー・スノールをめぐる世界情勢
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182話・ガルガの親政

 クロノ王国・前国王が急死した。

 6年前の出来事だった。


挿絵(By みてみん)


 皇太子ガルガが16歳。

 第二王子であり新法王のラーは14歳。

 アニマ王女が10歳の時のことだ。


 国史には執務中に突然倒れ、そのまま息を引き取ったと記されている。


 父王は45歳と壮年期で、持病もなく、大酒飲みでも極端な偏食家でもなかった。


 当然、暗殺が疑われたが、現在のところ何ひとつ証拠はない。

 医師の見立てでは、心臓の発作とされている。

 呪いをかけられた形跡もなかった。


「お父様が身罷(みまか)られた時、あまりにも突然のことで、その時はわたくし、泣くこともできませんでした」


 今、アニマの目には大粒の涙が浮かんでいる。


「法王庁までお送り下さったのが、今生の別れになるとは。父上の魂よ、安らかならんことを……」


 ラーは(まぶた)を閉じて、亡き父の魂に哀悼を捧げた。


 当時のことは、昨日のことのように思い出すことができる。

 即位したばかりの法王ラー・スノールは父の逝去に際して、大規模な祭祀を執り行うと発表した。

 喪主は兄で皇太子のガルガ・スノール。


 奇しくも祭司と喪主が兄弟という、異例の葬儀が王都で執り行われた。

 ラーにとっては法王として初めて執り行う王侯貴族の葬儀でもあった。

 それがまさか実の父親とは、考えもしなかったことだ。


 この世界において、国王にそこまでの権限はない。

 各地を実質的に支配するのは貴族たちで、中には商人が領地運営をしているケースもあった。


 宗教上の権威は法王庁が保っている。


 葬儀には地方領主の貴族たちや政商たちも参列する。

 その中には、魔王討伐軍の者もいた。


 もっとも、転生者トシヒコをはじめとする主力組は、未だ銀の海を越えた先の魔王領だ。

 後方支援組を率いていたグレン・メルトエヴァレンス師範もすでに亡く、兵站を担当する事務方がトシヒコの名代として参列した。


 この葬儀の最中に、魔王討伐成功の一報が入った。


「式典の際に何事か!」

「申し上げます! 〝勇者〟トシヒコ様! 魔王討伐に成功いたしました!」


 情報通信の未発達なこの世界で、正確な情報を得ることは難しい。

 葬儀は何事もなかったように続けられたが、参列者も群衆も、浮足立っていた。 


「父上の葬儀で、魔王討伐の一報が入り、正直儀式どころではなかったな」

「お兄さま方はおふたりともご立派にお勤めを果たしておられました……」


 歴史の転換点だった。

 1000年間続いた魔王領が陥落したことで、人々の生活は変わった。


 魔物の数は劇的に減り、街道を護衛なしでも行き来できるようになった。

 子供たちが魔物にさらわれ、いなくなることもなくなった。

 

 畑が荒らされなくなったことで、農作物の収穫量も各段に増えた。

 家畜なども、魔物に殺されることがなくなり、たくさん育つようになった。乳もよく出た。


 それらに加え、人や物の移動の際に、魔物に襲われるリスクが減ったことで、都市間の交易が盛んになった。


 魔王討伐軍の活躍時から、その傾向は見られたものの、魔王を倒したことは決定打となった。


 世界中を覆っていた、禍々しい瘴気が跡形もなく消え去ったのだ。

 毎年のように人々を苦しめていた流行り病も、その年を境に激減した。


 6年前のあの日を境に、急速に世の中が明るくなっていく。


 しばらくして、皇太子のガルガは国王に即位した。

 就任した彼の初めての勅令は、「親政を行う」というものだった。

 国政を大臣たちに全て任せていた先代の父王までとは異なり、自らの手で政治を取り仕切るという。


「まさか16歳で即位したばかりの兄上が、自ら政治を取り仕切ると宣言したのは意外だった」


 政治の経験がない年少者の国王が自ら政治を取り仕切ることは、まず考えられない。

 保守派の大臣はもちろん、周囲の承認が得られるはずがない。

 廃太子の陰謀さえ企てた宮廷魔術師ならば、絶対に異を唱えたはずだ。


 それが通ったのは、騎士団を中心とする武人たちがガルガを祭り上げ、武力を背景に周囲を黙らせたためだった。

 そしてガルガの親政のもとに、様々な改革が推し進められた。


 王都は新王都と改められて北方へ遷都し、魔王討伐の功績により、トシヒコには正式に「勇者」の称号が与えられた。

 それに伴い、ヒナ・メルトエヴァレンスをはじめとする主力メンバーには一代侯爵の地位が与えられ、領地も拝領した。


 どこまでが兄の裁量で決まったのか、実際のところは分からない。

 ラーは今でも、形だけの親政だと思っている。


「ガルガお兄さまは、たぶんラーお兄さまに対抗心があったのですわ」 


 アニマは無邪気に笑うが、ラーは内心複雑な思いだ。

 兄に権力の座を譲るため出家までしたにもかかわらず、対抗心を燃やされてしまったとは。

 

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