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恥知らずと鬼畜令嬢~ラスボスが倒された後の世界で~  作者: サトミ☆ン
幕間・勇者トシヒコと法王ラー・スノールをめぐる世界情勢
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179話・亀は意外とよく眠る1


「第二王子ラー・スノールを皇太子に!」


 宮廷魔術師のサロンでは、秘密裏に事が進んでいた。

 本人には知られないように、注意深く謀議(ぼうぎ)が重ねられていたのだ。


 ラーがそのことに感づいたのは、ほんの偶然からだった。

 サロンの日程表を眺めていたときのことだ。

 好奇心の塊である少年にとっては、自身に(えん)のない題目でさえ興味の対象となる。


 ふと目に留まった「女性のための日常用魔法講座」は、王子には無縁の講座だ。

 しかし違和感があることに気づいた。

 左上に、とても小さな印で「・」が打たれている箇所がある。

 書き損じか、インクの染みかとも思ったが、それにしては規則性がある。


(この日と……この日のところに印がある)


 講義に顔を出してみようかとも思ったが、ふしぎと日程が合わない。

 点が打たれた日時は、ほとんど例外なく父王や兄妹との会食が予定されている日なのだ。


(自分が不在の時に限って、印がつけられている……?)


 少々自意識過剰かと自分を疑ってみたが、気になるものは気になった。


 一度だけ、会食をキャンセルして「女性のための日常用魔法講座」を覗いてみた。


(……妙だな)


挿絵(By みてみん)


 いつもは開けっ放しのカーテンが閉ざされている。

 隙間から中の様子を覗くと、宮廷魔術師長のローブの端が見えた。


(女性向けの日常魔法講座で、宮廷魔術師長が講師をやっているのか?)


 宮廷魔術師長は独身の男性で、しかも高齢だ。

 魔導の研究一筋40年の、浮世離れした者に女性の日常生活が理解できるとは思えない。


(あの人は炊事洗濯はもちろん、机の掃除だって従者まかせなのに……)


 悪いとは思いつつも、ラーは透視魔法で中の様子を伺う。


 案の定、そこに女性の姿はなかった。

 高位の魔術師や召喚士、宮廷魔術師長が話していた。


 声が外に漏れないよう、沈黙魔法がかかっている。


 ラーは風の精霊術も同時に展開し、盗聴する。

 そこでは、思いもしなかった会話が繰り広げられていた。


「やはり暗殺の件はなしだ。やりすぎだ。廃太子が相応ではないか」


(暗殺? 廃太子?)


 ラーは自分の顔色が青ざめていくのが分かった。


「だとしても、ガルガ殿下とて問題のある御仁ではない」

「女絡みがよかろうよ」

「ほう?」

「殿下を夢中にさせるような女を仕立てよう」

「どこにそんな女がいる?」

「娼館から選りすぐりの女奴隷を買い上げて教育すれば良い」

「われわれが指導すれば、半年もあれば礼儀作法や教養は身に付く」

「特に優秀な一人を養女とし、社交界で王子と引き合わせよう」

「女には、うぶな王子の筆おろし役で、気に入られれば玉の輿も夢ではないと言い含めるのだ」

「後はガルガ殿下次第……」

「女の味を覚えさせたとて、ガルガ殿下も有能ではある。身を持ち崩されるとは限らんだろう。子ができたとて、父王の威光で母子ともに始末するなど、どうにでもなる」


 魔術師たちによるクーデターの計画に、ラーは戦慄を覚えた。

 話しているのは皆、特に親しかった者たちだ。

 ラーは唇をかみしめながら、話を聞き続けた。

 

「女に薬を用いさせよう。秘所に常習性の高い媚薬を塗り込ませておけば、有能な兄殿下とて愛欲に溺れよう。そうした女を代わる代わる何人か手配すれば、必ず身を持ち崩す」

「その後、女はいかようにも始末すればいい」

「兄の醜聞に、ラー王子は悲しまれよう。不憫ではある」

「我らの敬愛する王子……」


 自分の名前が急に出てきたことに、ラーは驚いた。

 それまで、どこか他人事だった陰謀が、途端に自分に直結する問題となった。


「これは国家の大事ぞ。王族の一個人の感情など、考慮するに値しない」

「ラー国王の治世が見たくはないか? あの方は千年に一人の逸材だ。間違いなく英傑の資質を持っている」

「いまトシヒコと名乗る異界人が銀の海を渡った。十中八九、魔王に返り討ちにされるだろう。しかしあの者が、千年の均衡を破ったことで、今度は魔王軍の報復が来るであろう」

「ガルガ殿下も決して凡庸ではないが、今後来るであろう魔王軍の侵略に、英傑の君主は必須だ。僭越ながら、ガルガ殿下は英傑には至らない」

「まあ、魔法を使えないのでは、我らとの距離も遠いしな」

「その点、ラー王子は違う」

「何よりも魔道に理解ある王子が国王になることで、我ら宮廷魔術師の受ける恩恵も計り知れないだろう」


 千年に一人の逸材、英傑、とまで言われたラーは、頬が紅潮し舞い上がる自分を感じた。

 だが、最後の「我ら宮廷魔術師の受ける恩恵が計り知れない」という含み笑いが、それを打ち消した。


 王国屈指の魔術師たちに評価されているのは知っていた。

 しかし、兄の廃太子まで画策されるほど評価されていたとは思いもしなかった。

 もちろん話に乗る気はない。

 結局、自分は彼らの欲のために利用されるに過ぎない。

 彼らの企てていることは、国家反逆罪なのだ。

 

 だがこれが兄弟、逆の立場なら、間違いなくガルガは乗るだろう。

 そう思ったとき、ラーの心は深く傷ついてしまった。


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