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恥知らずと鬼畜令嬢~ラスボスが倒された後の世界で~  作者: サトミ☆ン
幕間・勇者トシヒコと法王ラー・スノールをめぐる世界情勢
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177話・法王と王女のティータイム


 聖龍法王庁で最も高い塔が、法王の住まう場所だった。

 外壁は純白の大理石で、窓枠の黄金が映えている。

 窓には透明度の高いファーデン水晶よりも澄んだ石材が使われていた。


 内装も白大理石だが、天井には瑠璃色のラピスラズリのタイルが張られ、紋様が鮮やかに映えている。 

 中庭には魔法によって調整されたハーブガーデンがある。

 タイムやローズマリーなどに似たハーブや、ラベンダーやエキナセアに似た花々も咲いている。


 ある昼下がりの中庭。

 第67代法王・ラー・スノールは大理石のガーデンテーブルに特別な女性を招き入れた。

 それは、実の妹であるクロノ王国のアニマ・スノール王女である。


「お兄さま、お久しゅうございます」

「大きくなったなあアニマ。しかし、そんな格好で寒くはないかい」


挿絵(By みてみん)


 アニマ王女は16歳。

 ゆるくウェーブが掛かった長い桃色の髪と、猫のように大きな緑色の瞳で、顔立ちはひときわ整っている。

 肌はきめが細かく、はちきれんばかりに豊かな胸と、それとは対照的に折れそうなほどくびれた胴に、すらりと長い手足がアンバランスな魅力を醸し出していた。


 その身を飾るのはギリシア神話の女神のような衣装。

 かなりきわどい装いで、あどけない表情でほほ笑むアニマ王女に、兄としては戸惑うばかりだ。


「異界の女神風セレブリティドレスですってよ、お兄さま」


 ラーが出家して法王庁に来たのが6年前だから、そのときアニマはまだ10歳だった。

 以来、父の命日などの節目に年に1、2度ていど、こうして法王庁に会いにきている。


 久しぶりに会うと積もる話もあった気もするが、妹の成長につれ何を話したらいいか分からなくもあった。


「乳房が見えそうじゃないか。異界趣味も良いが、慎みを持つべきだと思う」


 妹のために自ら茶を淹れながら、ラーは真面目な顔で諭した。

 普段であれば、法王お付きの神官が給仕を行うところではあるが、人払いも兼ねての相席である。


「異界の宴席では、女性がこのような格好で赤絨毯の上を練り歩いても、周囲の殿方は指一本触れないとか。そういう意味では、異界の殿方は慎み深いとも言えますわ」

「何を聞きかじったか知らないが、ここは異界じゃない。私たちを育んできた土地には私たちがつくってきた規範がある……」


 カップに注がれたのは薔薇の果実(ローズ・ヒップ)で作られたハーブティー。

 お茶うけには二度焼きしたという意味のイタリアの伝統菓子ビスコッティに似た菓子が並ぶ。

 具材には種実類(ナッツ)やドライフルーツが入っている。


「つまらないことを言ってすまない」

「お兄さま。わたくしの方こそ」


 黙ってしまった妹を気遣い、兄は詫びた。

 アニマは微笑み、優しい兄を気遣った。


 第67代法王・ラー・スノールの出自はクロノ王国の第二王子。

 幼少時から聡明さで知られ、魔道についても不世出の才能に恵まれた。

 また、子供ながら人を惹きつけるカリスマ性の持ち主でもあり、将来を嘱望されていた。


 このふたりにはもうひとり、一番上の兄がいる。

 ラーより2歳年上の長兄は、現クロノ国王のガルガ・スノール。

 ガルガも知勇に優れた人物であり、一国の王としての資質は申し分なかった。

 だが、武勇はともかくとして、王弟はその上を行き過ぎた。


 この世界の魔法は生まれ持った魔力によるところが大きい。

 魔力に恵まれた者ならば、10歳に満たない年齢でも独学で魔法を使うことができる。

 逆に魔力に恵まれなければ、たとえ英才教育を受けても魔法の発動、術式の起動さえままならない。


 兄ガルガは魔法の才能には恵まれなかった。

 それはどうすることもできない。


 一方、天才的な魔法の才能を持ったラーは、12歳の時にはすでに、師である宮廷魔術師長からすべてを学び終えてしまった。


 師が40年かかって会得した属性魔法・神聖魔法・精霊術を一通り習得したのみならず、術式の省略・同時使用など、より実戦的な魔法の応用や発展形も会得した。


 ラーは柔軟な発想を持った、研究熱心な少年魔道士として、そしてクロノ王国・宮廷魔術師のサロンの中心的な存在として、王子時代は魔術師や錬金術師たちと日夜研究や議論に勤しんでいた。


「弟と比べて、俺は無能だ」


 兄ガルガは弟に対して劣等感を抱くようになっていた。

 魔法が使えない負い目を、武芸に励むことで晴らそうとした。

 皇太子ながら騎士としての修練も積み、騎士団からの信望も厚かった。


「僕はお兄さまと親しくなりたい」


 弟ラーは、兄の劣等感は理解していた。


 幼い頃は、本当に仲が良い兄弟だった。

 青年になろうとしている現在も、表面的には仲が良さそうに見える。

 だが、心から打ち解ける関係ではなかった。


 この兄弟の関係は相当な遠慮と緊張感に満ちていた。

 ラーは常に兄に遠慮をしている。

 それが少し息苦しいとも感じていた。


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