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恥知らずと鬼畜令嬢~ラスボスが倒された後の世界で~  作者: サトミ☆ン
幕間・勇者トシヒコと法王ラー・スノールをめぐる世界情勢
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174話・転生者ヒナと魔王討伐軍

 転生者ヒナは、すがるような思いで召喚術具〝人間のアカシックレコード〟を使い、母親を召喚した。

 病に倒れる前の、元気だった母、小夜子の姿を思い浮かべて。

 それに回復魔法のあるこの世界なら、病の進行具合によっては、ある程度治療できるかもしれないと思ったからだ。


 ところが呼び出された小夜子は17歳の姿だった。


「ママ……?」

「ここはどこなの? あなたは?」


 ヒナは絶句する。

 彼女が陽菜(ヒナ)を授かる10年以上前の過去からやって来たのだ。

 当然、娘がいることなど全く想像できない、女子高生だった。


(ママには悪いことをしてしまった) 


 実際には回復魔法で病気は治せない。

 しかし当時のヒナは魔法を覚えたばかりで、そんな事実もよく分かってはいなかった。


「あなたがわたしの娘なの~? ウッソー、信じられなーい」


 一方、当の小夜子はヒナを娘だと受け入れることには躊躇(ちゅうちょ)しつつも、持ち前の人の良さから、有無を言わさずこの世界に呼びだしたヒナを恨んだりせずに行動を共にしてくれた。


 彼女は歌も踊りも今一つだったが、朗らかで愛想がよく、料理ができた。

 グレン一座時代は座付きの料理人として腕を振るった。


 女たちのグループとも極めて良好な人間関係を築いたので、ヒナへの風当たりも弱まった。


 その後2年ほど、ヒナと小夜子は旅芸人として平穏な日々を過ごしている。


 この結果について、ヒナは申し訳ないとは思いつつも、後悔していない。

 母、小夜子がこの世界で長生きしてくれたら、それでいい。

 もちろん帰りたいと言ったら帰る手助けを惜しまないつもりだ。

 

 若い姿であろうと、間違いなく大好きな母、小夜子と再び会えたことがヒナの人生の希望となった。


 ◇ ◆ ◇


 ところがある日、状況は一変する。

 グレン座長がトシヒコと名乗る青年と酒場で意気投合し、魔王討伐の檄に応じたのだ。


「おれはこの坊主と魔王を討伐し、世界を救うことにしたから!」

「よォカワイコちゃん。オレの名はトシヒコ。世界を変えてやるぜ」


 後に〝勇者〟の称号を与えられるトシヒコの第一印象は食えない男だった。

 前世ではニートで、40年もの間、無為な生活をしていたことを嬉々として語る。

 その際、ヒナは自分が転生者であることは打ち明けなかったが、トシヒコはすぐに感づいたようだ。

 それが彼の特殊スキル「天眼通(てんげんつう)」の効果であることは後になって知ることになる。


 当然、ヒナは猛反対してグレンに食って掛かった。


「グレン座長、ふざけないで!」

「……ふざけちゃいねぇよ。大真面目さ。おれの人生の集大成を派手にぶちかましてやろうと思ったんだ」

「人生の集大成って……」

「おれはもう長くねえ」


 グレンは肺を病んでいた。

 回復魔法では、病気を治療することはできない。

 彼は自分の命が長くないことを知り、残りの人生を戦いの中に置くことに決めたのだ。


 観客の目当てはヒナで、自分の剣舞の時は観客が白けてしまうことも遠因にあった。


「ヒナ、この一座はお前に譲るぜ。片腕のオッサンの剣舞なんか誰も見やしねえし、頃合いだ」


 看板芸人のヒナに座長を譲り、無名の転生者と魔王討伐という、壮大な夢に挑んで命を終えたいと言うのだ。

 とはいえ病に冒された片腕の元傭兵では、戦力にはならなかった。

 だが、剣術指南や戦術・兵站などの任務はこなせた。

 素人集団であったトシヒコ一行を、立派な魔王討伐軍に鍛え上げたのはグレンの功績だった。


 しかし、そんなグレンにも誤算があった。

 一座を託されたヒナと小夜子が、あろうことか一座を抜け出して勇者討伐軍に合流したのだ。

 ショーの演出やダンスの指導などは、比較的仲が良かった魔法芸人に丸投げして。


「てめぇ! 何て無責任な奴だ」

「ダメと言われてもヒナは付いていく。座長を独りで死なせたりしない」

「わたしはヒナちゃんを連れ戻すために来たんだけど聞かなくって。ゴメンなさい座長」

 

 ヒナは持ち前の正義感と、座長への思いから、魔王討伐軍に志願したのだ。

 小夜子には母親の自覚がなかったものの、無責任に一座を抜け出したヒナを連れ戻すために後を追ったら、逆に強引に討伐軍に引き入れられてしまった格好だった。


「ママはヒナが守るから、そばにいてね」


挿絵(By みてみん)


 ◇ ◆ ◇


 こうして2人は、トシヒコと共に魔王討伐戦を最後まで戦い抜いた。

 グレン座長は志半ばで息を引き取ったが、最期は満足そうだった。


「トシ、ヒナ、小夜……。お前らなら絶対にやり遂げるだろう。おれの遺志を託す。魔王なんてぶっ倒せ。そして親がいようといまいと、ガキどもが安心して暮らせる世の中をつくってくれ!」


 グレンの最期の言葉を、ヒナは片時も忘れたことはない。

 彼は生前、多くを語らなかった。

 だが、身寄りのない子供時代に傭兵団に入らざるを得なかったという経緯があったようだ。

 傭兵時代の話はヒナもほとんど知らない。

 一緒に過ごした年月はわずか数年ではあったが、ヒナにとっては実の父親以上に信頼していた人物だった。

 

「……グレン座長。ヒナはがんばります」


 小夜子への手紙を書きながら、ヒナは涙を流していた。


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