表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
166/726

164話・怒りの小夜子ちゃん


「直行くん! 知里! これは一体どういうことか、説明してよね!」


 数日ぶりに戻った旧王都のアジト。

 小夜子はカンカンに怒っていた。


挿絵(By みてみん)


 無事の帰還を喜ぶ暇もなく、俺と知里は気をつけの姿勢で、廊下に立たされている。


 旧王都の下町にある閉店した冒険者の店の宿屋が、俺たちのアジトだった。

 1階部分の調理場は、元々小夜子たちが炊き出しの準備に使っている場所でもある。

 2階部分に、俺や盗賊スライシャー、術師ネリー、戦士ボンゴロが間借りしている。


 問題は酒場だった広間だ。

 (おり)に入れられた虎がいる。

 召喚士・魚面(うおづら)が愛してやまないペットだ。


「聞いてる? 知里、直行くん」


 小夜子が怒っているのは、何も言わずに勝手に虎を住まわせたことだ。

 当時は敵対していた魚面を法王庁に連れて行くため、人質(虎質?)として預かった。

 戦士ボンゴロに世話を頼んだ。

 その経緯の言付けも頼んだはずだった。

 それがどうしてこうなったのか。


「朝、炊き出しの支度に来たら虎が炊き出し用の食材を食べてるのよ! 信じられない。〝犬はつないで飼いましょう〟って言うでしょう? 虎だよ? 猛獣をつないでないんだよ」

「つないだよ。檻にもいれた。なあ知里さん?」

「うんうん。絶対絶対」

「スライシャー、鍵かけたよな?」

「へい。確かにかけやしたぜ。たぶんかけたと思いやす。かけたんじゃないかな」


 ……お前か。


「いや、ボンゴロっすよ。お前さん、あっしの鍵のかけ忘れに気づかなかったのかよ」


 責任転嫁が早すぎだろ。


「おいら疲れて寝てたんだお。そしたら、お小夜さんが猫をつまむみたいに虎を引いてきて檻に戻してくれたんだお」 

「わたしの障壁(バリア)がなかったら、あやうく虎が市井(しせい)に放たれるところだったのよ」

「俺の管理不足だな。ホント悪かった。ゴメン小夜子さん」

「今度、こんなことがある場合はキチンと事前に連絡してよ!」


 虎を放り出していなくなるなんてレアケースは、残りの人生でもう二度とないような気がするけれども。

 それにしても、猛獣を猫のように扱うなんて、彼女は凄いな。

 さすが〝勇者トシヒコの仲間たち〟として魔王を倒して世界を救ったメンバーだけのことはある。


「……お小夜ごめんね」

「反省してま~す!」

「ごめんお……」


 俺たちが平謝りすると、小夜子はニッコリ笑って許してくれた。

 スライシャーの口ぶりだけはあまり反省している様子はなかったけれど……。


「OK! じゃあこの話はこれでおしまい。じゃあ改めて、おかえりみんな! 無事でよかったわ。エルマちゃんは助かったのよね?」

「直行と結婚したけどね」

「はい?」


 さっきまで怒っていた小夜子は、ニッコリ笑ったかと思うと、今度は唖然とした。


「エルマちゃんいくつだと思ってるのよ! 直行くん、そういう趣味があったの?」

「決闘裁判で事を丸く収めるためにエルマが言い出したことなんだ。実際に結婚するわけじゃないよ」

「そうそう。コイツには愛人が2人もいるし」

「ええええっ?」


 小夜子は驚いて目が点になっている。


「チョット待って! ワタシ愛人じゃなくて傘下」


 魚面(うおづら)が慌てて訂正するけれども、小夜子はキョトンとしたまま首をかしげている。


「あのぉ……失礼ですが、どちらさまですか?」

「そういえば初対面だったっけ。紹介するよ。こちら魚面(うおづら)さん。凄腕の召喚士で、その(トレバー)の飼い主でもある」

「ドウも……」

「あっ。はじめまして被召喚者の八十島(やそじま) 小夜子(さよこ)と申します」 

「ハジメマシテ。名乗る名がないのデ〝魚面(うおづら)〟と呼んでくだサイ」

「分かったわ。魚面さん。どうかよろしくね」


 小夜子は満面の笑みを浮かべて魚面の手を取った。

 彼女は少しぎこちない笑顔で頭を下げる。


「ワタシの虎が迷惑をかけタ。スマナイ」

「気にしないで。猛獣だから怖かったけど、吠えたりしないし、良い子ね」

「アリガトウ」


 魚面は小夜子に一礼すると、愛虎の元に寄っていった。

 虎は主人が分かるのか、檻の中で小さく喉を鳴らす。


「トレバー、良かっタ。毛並みも良いし、大事にされていたんダな。良かっタ!」

「虎は肉をいっぱい食べるから大変だったお。おいら食べられるんじゃないかと心配したお」 

「それはそうと直行くん!」


 改まって小夜子が俺に詰め寄った。


「状況が動きすぎて、よく分からないのだけど。魚面さんは愛人じゃないのね?」

「知里が変なことを言ってるけど、愛人じゃない」

「愛人は従者のレモリー(ねえ)さんだよね。お小夜も会ったことあるでしょ? クールな感じの美人さん」

「あの精霊術師の!」

「これから直行の逆玉婚(ぎゃくたまこん)と愛人ゲットのお祝いも兼ねて異界風(いかいかぜ)で打ち上げをやるんだけど、お小夜アンタも来なよね?」


 小夜子が再び怒りモードになって、俺を睨む。


「直行くーん? そういうの不潔だよ」

「違うんだ。これも話せば長くなるんだよ。知里さんが変なことを言うから……」

「事実じゃん。結婚も愛人も。それともより正確にレモリー(ねえ)さんを服従させたというべきかな?」

「服従~?」

「アッハッハッハッ! 魚ちゃんに知里もッ。すっかり打ち解けて楽しそうだなオイッ」


 先ほどまで一人取り残されたアンナが楽しそうに茶々を入れてきた。

 知里の背中をバンバン叩いて、大笑いだった。


「大将、そろそろ異界風(いかいかぜ)に行きましょうぜ。奥様と愛人が待ちくたびれてますぜ」

「それとネリーも。おいらも、お腹すいたお」


 スライシャーまで、そんなことを言う。

 

 俺たちはそろってアジトを後にしてBAR(バー)異界風(いかいかぜ)へと向かう。

 虎の檻はもちろん、酒場の入り口にも鍵をかけるのを忘れなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 神速の責任転嫁(笑) タイトル変わったんですね~( ´艸`) これは状況説明大変そう(-_-;)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ