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161話・打ち上げの大亀鍋


 俺が滞在先のホテルに帰ると、宴会はすでに始まっていた。


「大将! 先にやらせてもらってますぜ」

「遅いぞ直行ッ! 何をやっていたんだッ!」

「直行様! お先にいただいています! 大亀鍋はやっぱり最高です~」

「ウシシシ。これは直行殿。お待ちしておりましたぞ」


挿絵(By みてみん)


 アンナとスライシャーは大亀鍋をつつきながら上機嫌だ。

 可愛い見習い騎士ドンゴボルトも美味しそうに亀肉を頬張っている。

 聖騎士ジュントスは、女性陣を眺めながらウナギの串焼きを頬張る。

 そして白ワインを結構なハイペースで飲んでいる。

 まさに生臭坊主を絵に描いたような姿だ。


「ロンレア伯爵家やレモリーと、今後のことについて話していたんだ」


 俺は、今後の方針つまりロンレア領の直轄運営について、簡単に状況を説明した。

 

「ご結婚おめでとうございます! エルマさんと直行殿。とってもお似合いですよ」


 ドンゴボルトは可愛い顔をして辛辣なことを言うものだ。

 俺は苦笑いするしかなかった。


「では、あの金髪の別嬪(べっぴん)さんは2号さんですかな。お盛んなことで、拙僧もあやかりたいものですな」

「いや、結婚じゃなくて共同経営な。知里さんも何か言ってくれよ」

「歳の差婚おめ。いくら何でも愛人2人は調子に乗りすぎだと思うけど」

「チョット知里サン、ワタシ愛人じゃないですヨ。傘下です、傘下で用心棒」

「まあ、いいけど」


 知里と魚面(うおづら)は、賑やかな一団からは少し距離を置いていた。

 2人は部屋の片隅で合い向かいに座り、赤ワインを飲んでいる。


「直行、今回の打ち上げ、知里が全額持つそうだッ! ただ酒だぞッ」

「いよっ、知里(ねえ)さん、太っ腹! 大将もまずは1杯いかがです?」


 そんな知里を、アンナとスライシャーが囃し立てた。

 彼女のおごりって、どういうことだ?

 

「俺も払うよ」

「いい。あたしがヘマをした罪滅ぼしをさせてよ」

「意地を張るなよ」

「知里サン。そんな事言ったら、ワタシなんか裏切り者ダし……立場がナイ」

「あたしが出場できていたら、魚ちゃんは独り勝ちなんて狙わなかったでしょ。今回の戦犯はあたし。一応ケジメはつけさせてよ」

「イヤ。知里サンが参加しててもワタシは裏切ったカモ。あの時は舞い上がっていたカラ。だからワタシの方こそケジメをつけさせテ欲しイ」

「魚ちゃん、ケジメはつけたじゃん。悪いのは、あたし」

「いや、ワタシ」


 魚面(うおづら)が差し出した金貨の袋を、知里がつき返す。

 何度もそんなことが繰り返された。

 お互いに後には引けなくなって口論のような雰囲気になっている。


「まあまあ、最善の結果になったんだから、ノーサイドだ!」


 俺は2人をなだめつつ、皆に向かって言った。


「改めて乾杯しよう。ここにいる誰一人を欠いても、エルマの無罪は勝ち取れなかった。皆には感謝している。おかげで、現状、考え得るベストの結果となった。ロンレア伯には気の毒だけどな」


 そんなことを言いながら、俺が空手であるのに気づいたドンゴボルトがグラスを運んできてくれた。

 手慣れた様子でワインを注いでくれて、何とも気が利く少年だ。


「あたしは出場できなくて足引っ張ったし」

「ワタシは、裏切った」

「まだ言ってるのか。知里さんがいなければロンレア伯は説得できなかったし、魚面がいなければリーザの部下4人は落とせなかった。だからこれでいいの!」


 2人の間に割って入り強引に幕を引いた。


「へい。それではあっしが乾杯の音頭をとらせていただきやすぜ。大将のご結婚、魚(ねえ)さんとお嬢さんの無罪放免をお祝いして! カンパーイ!」

「カンパ……」


 俺や知里はうっかり打ち付けそうになり、グラスをひっこめた。

 こちらでの乾杯は、酒器を打ち付けず、自分の顔のあたりに掲げるようにして行う。


「ふむ。こうしてみると、些細なところに異界人を見分ける方法があるのですな」

「意外と法王庁にも異界人が紛れているかもしれませんね」

 

 ジュントスとドンゴボルトは顔を見合わせて感心している。

 なまじ言葉が通じるだけに、ちょっとした動作で出自が分かる点は気をつけないといけない。


「転生者なんかは、こちらで生まれ育ってるからボロが出ないだろうけど、ね」


 知里がグラスを傾けながら言った。

 そう言われてみればエルマは、ちょっとした仕草なんかもこちら側の人間っぽい。

 本当にささいな違いなのだが、分かる人には分かるのだろう。


「そういえば、これは勇者自治区で聞いた話だけど、現地人が転生者に成りすますのを仲介するブローカーがいるらしい」


 確かヒナちゃんの部下の被召喚者神田治(かんだはる)いぶきが言っていた。


「おお! 勇者自治区の話がきました! ほうほう」

「解放奴隷や、新天地を目指す者たちが転生者に成りすまして自治区に入ってくるみたいだ。あそこは身分制度もないし、実力があれば出世しやすいらしいから」

「ふむ! それで」


 俺の話に、ジュントスは顔を近づけて食いついてくる。

 ドンゴボルトは、その様子を少しだけ冷ややかに見ているようだ。


「ブローカーっていうのには会ったことないから詳しくは分からない。ただ、勇者自治区はとんでもないところだった」


 ほんの10日ほど前に一泊しただけだが、その時の様子を俺は話した。


 ・街全体がテーマパークのようになっていること。

 ・『複製』能力で服を生産する仕立て屋ティティの話。

 ・お湯の出るシャワーとバスタブ。タオルなどのアメニティが充実していること。

 ・枯れない花ブリザーブドフラワーやレストランの豪華グルメ等……。


 知里以外の、その場にいる全員が勇者自治区での話を興味深そうに聞いていた。


「遊園地って、何ダロウ? 街中が遊び場なのカ? サーカスある? 虎飼っても良いのカナ」

「枯れない花が作れるなら、不死人も作れるのかッ? なァ」

「ふむ。自治区の女性の多くは、袖のない服を着て生肩や腋を出しているのですか? 素晴らしい!」

「僕はフワフワのパンが気になりますね。美味しそう」

「ドアの鍵がカードなんて、針金じゃ鍵開けが無理じゃねぇすか?」


 皆、思い思いに未だ見ぬ勇者自治区に想像をたくましくしている。

 俺は、ここにいる者たちが今後、何かしらの形で勇者自治区と深く関わることになるような予感がしていた。


 俺たちは夜更けまで大いに飲んで、大いに食べた。

 最後は皆酔っぱらってしまって、男女とも一緒に部屋で雑魚寝なんてしてしまった。



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