表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
161/726

159話・それからのこと、これからのこと3

「レモリーは愛人にすればいいってお前……」


 俺はロンレア夫妻に聞かれないように声をひそめた。

 さすがに込み入った話になりそうだ。

 それを察したレモリーが風の精霊術で、見えない障壁をつくる。

 俺たちの会話が夫妻に届かないようにするためだ。


挿絵(By みてみん)

 

「直行さんの元いた世界では、社会通念上、13歳の女児とは結婚はもちろん、関係するだけで犯罪ですからね♪ あたくしが成人するまでの5年くらい、レモリーを可愛がってあげれば良いじゃないですか♪」

「いいえ、お嬢様。それはあまりにもご無体な仕打ちではありませんか……」


 レモリーは切なそうに唇を尖らせた。


「あたくしに気兼ねせずに、中年同士の禁断の愛を盛り上げても良いですわよと、言っているのですわよ♪」

「いいえ。それでは道ならぬ恋になってしまいます……」

「待ってくれよ。そもそも俺とエルマはビジネスパートナーだ。結婚は裁判を円満に終わらせるための方便、領地経営を円滑に進めるための手段だろ?」


 あくまでも俺はそう認識している。

 そもそもエルマと俺に、恋愛を予感させるような出来事は一片もなかった。


「あら直行さん、あたくしに対して、あんまりな言い方じゃありませんの?」

「いいえ、お嬢様。やはり直行さまへの想いがあるのですね」

「さあ、どうでしょうね♪」

「あー、何だよもう」


 俺たちのやりとりも、収拾がつかなくなってきた。

 その様子を、ロンレア伯爵夫人は遠くを見るような目で見ていた。

 会話は聞こえていないはずだが、輪の外から見守るような不思議な表情をしていた。


 ◇ ◆ ◇


「失礼します」


 不意に、階段の方から声がした。

 おかっぱ頭の聖騎士ジュントスとお付きの騎士見習いドンゴボルトだ。


「……」


 ロンレア伯が軽く会釈をしたのを受けて、聖騎士とその見習いも敬礼する。

 しかし彼らは言葉を交わすことなく、ジュントスは俺の方へと足を進めた。


「いやァ直行殿。何からナニまで、お見事でした!」

「いえいえ。ジュントス殿のご助力がなければ、決闘裁判にたどり着くこともできませんでした。改めて感謝申し上げます」


 俺たちは拳の裏側を合わせて、ニヤリと笑い合った。


「ところで、先ほどはご挨拶し損ねましたが、そちらの別嬪(べっぴん)……いや、従者の方のお名前を伺ってもよろしいですかな? 拙僧はジュントス・ミヒャエラ・バルド・コッパイ。聖騎士です。ウシシシ」


「はい。(わたくし)は直行さまの従者レモリーと申します。先ほどは、伯爵さま、お嬢様のご案内をありがとうございました」


 ジュントスは挨拶がてら、顔を近づけてレモリーの匂いをかいでいる。

 おそらくはロンレア伯の手前、彼女の名前を聞きそびれたのだろう。

 鼻を膨らませて嬉しそうな様子は、性欲が強い男の面目躍如といってもいいかも知れない。


「しかし直行さんの周りには、お綺麗な女性が多くて実に羨ましいですな」


 彼は俺の方に寄ってきて、声をひそめる。

 今度は真面目な顔だった。


「……実は折り入ってお話があるのですが、よろしいですかな?」


 この男はまた、野心家でもある。

 勇者自治区との接点を持ちたがっている。

 だが今は、その話をするべきではない。

 俺は、部屋の奥にいるロンレア伯に目をやった後、ジュントスを見る。


「この後、宿屋で打ち上げをやります。よかったらご一緒にどうでしょう?」

「ほう? ということはアンナ様もネコチ様も魚ちゃんさんも、ご一緒ですかな? あのお小姓さんも! 素晴らしい! 拙僧もぜひ、ご相伴にあずからせていただきましょう」


 ジュントスは鼻の下を伸ばしてニンマリしている。

 従者のドンゴボルトも、目を輝かせている。


「従者どのもご一緒にどうです? 大亀鍋をつつく予定です」

「はい! うれしいですぅ」

「ジュントス殿は大亀は苦手と伺っていますが、ウナギの白焼きなどはお好きでしょうか?」

「拙僧はウナギが大好物です! 特にゼリー寄せなどが好物ですな」


 その答えに俺はひきつった笑顔を浮かべざるを得なかった。

 うなぎゼリーで腹を壊したことがある俺としては、微妙な気持ちだ。


「直行さん直行さん♪ 何だか楽しそうですわね♪ 打ち上げですの?」

「ああ。お前も来るか? 亀がさ、すげえ美味いんだよ」

「……遠慮しておきますわ」

「亀ってゲテモノじゃないんだぞ。ウナギの串焼きも美味いんだ」


 しかしエルマは神妙な面持ちで首を横に振った。


「せっかくですけど。あたくしは両親のそばに、いさせてもらいますわ」


 軽く会釈をして、彼女は部屋の隅にいる両親の元に駆けていく。

 この一件で、彼女なりに思うところがあるのだろう。


 領地の運営に本格的に乗り出すとなると、ロンレア領に滞在することになるだろう。

 両親と過ごす時間も当然、少なくなる。

 俺とエルマが、本当に夫婦になるかどうかは置いておいて、それは確かなことだ。


 新しい生活が始まろうとしている。


 もう一つ、肝心なことを見落とすところだった。

 俺はレモリーに歩み寄った。


「これからのことを、レモリーに話しておこうと思う」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ