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127話・虚偽感知 

 俺たちへの罵声はやまない。


 ここまで明確に悪役(ヒール)なのは、俺としてはむしろスッキリして良い感じさえするのだが。

 味方の連中はそうでもなさそうだ。


「ちっ……」 

「ワタシ少し傷ついタ……」

「あー、もう好き勝手言いますわね♪」


 知里も魚面(うおづら)もあからさまに敵地の雰囲気に飲まれているようだ。

 あのエルマでさえ苛立ちを隠せないでいる。


「これはいったい……。どういう風に話が伝わったんですか。司祭殿、説明してくれませぬか!」


 ロンレア伯はすごい剣幕で、壇上にいる司祭に詰め寄っている。

 聖騎士たちは慌てて彼を止め、羽交(はが)()めにしていた。


「言い分があるなら勝利した後、堂々と宣言すれば良いでしょう!」

「事実の相違などは、勝者の権利で正統性を得られます」

「そのための決闘裁判ではないですか、伯爵?」

「……そうです」


 ロンレア伯を抑え込み、司祭から引き離す。

 伯爵も渋々それに従い、うなだれたように立ち尽くした。

 レモリーは、その後ろでうつむいたまま、伯爵に付き従っている。


「おーい直行ッ、うじゃうじゃと人がいっぱいいて、大変な賑わいじゃないかッ」

「大将! 頑張ってくだせえ!」


 観客席の最前列から、錬金術師アンナと盗賊スライシャーがやたら景気のいい声をかけてくる。

 2人は立会人ということで、リングサイドに陣取ることが許された。

 言うまでもなく錬金術師という特権階級だから話が通ったのだろう。


 アンナたちから少し離れたところに、見覚えがある中年女性がいた。

 ロンレア伯爵夫人。エルマの母親だ。

 彼女は俺と目が合うと、すぐに視線をそらした。


「いいかッ直行! チャチャっと決めて来いッ」


 アンナがピント外れな檄を飛ばす。

 歓声と罵詈雑言が渦巻く観客席からでも、アンナの声はよく通った。


「それは俺の仕事じゃなくて知里さんの……」

「ゴニョゴニョ言うなッ! しっかりしろッ!」


 そんな俺たちの騒ぎとは対照的に、知里とリーザ、両軍のエース同士は対峙し、静かに視線を合わせていた。


「その仮面をつけたまま、決闘裁判に臨むつもり?」

「ん? どちら様でしたっけにゃ?」

「とぼけるのも構わないが、せいぜい真面目にやることだ。でないと、吠え面かくことになる」

「猫は吠えたりしないにゃ」


挿絵(By みてみん)


 お互いに火花を散らしている。

 この2人には、街道沿いの積み荷防衛戦での因縁がある。

 たとえキャットマスクで変装していようとも、リーザの記憶に知里は拭い難い屈辱を与えている。

 

「以上、決闘裁判の参加者たちが出揃いましたー!」


 声援と罵声が混ざり合って、何だか闘技場は内も外も大混乱になりつつあった。

 そんな喧騒などおかまいなしに、メガホンのようなものを持った騎士が決闘裁判を進行する。


「さあ、皆さん。裁判の参加者は、まず〝宣誓の台座〟に上がり、名乗りを上げなければなりません。真実の名前、貴族であれば爵位(しゃくい)家門名(かもんめい)。この事件の当事者であることを宣誓してください。虚偽(きょぎ)は許されません。もし、虚偽が判明した場合は、原告・被告を問わず退場していただきます」

 

 壇上にいる司祭が、大きな天秤をかたどった杖を振り上げた。

 どうやら彼が裁判長のような役割を担うようだ。

 もっとも、決闘なので審判長といった方がいいかもしれない。


 司祭の杖が複雑に入り組んだ魔方陣を描き出した。

 それとともに、宣誓台の周辺に淡い光の力場が発生する。


「ちっ……虚偽感知(センス・ライ)だ。最悪にマズい」


 知里が舌打ちをした。


「何がマズいんだい、知里さん」


 俺は何だか不安になった。

 

「嘘を感知する魔法……だよ?」


 知里の顔から血の気が引くのを見た。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これは早速まずいことに!
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