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121話・ロンレア伯に告ぐ1


 ロンレア伯は促された椅子に渋々と腰かけた。

 俺は、向かい合う椅子を動かして、横並びになるように位置を調整した。


 向かい合いと横並びでは緊張感が異なる。

 親密になりたいなら相手が右利きなら左斜め前に座れ!

 これは利き腕と反対側のほうが、非日常的で感性が敏感になるとかならないとか……。


 そんな記事を書いたことがある。

 ネットで調べた情報を元に、婚活サイトにつなげる無責任なアフィリエイト記事だ。


 俺は、取引や交渉に向くらしいという相手の右斜め前に座った。


「ロンレア伯。不本意でしょうが、我々は手を携えてエルマお嬢さまの釈放に向けて協力し合わなければなりません」

「…………」

「『なぜだ……どうしてこうなった』みたいな思考のエンドレスだね」


 ロンレア伯が黙っていようと、知里が特殊スキル『他心通(たしんつう)』で心を読み取り、通訳してくれる。

 

「あなたには決闘裁判の原告として、神聖騎士団・飛竜部隊のリーザ・クリシュバルト子爵を訴えてもらう」

「そんなバカなこと、できるわけがない!」

「できる、できない、じゃなくて、するんです」

「……」

「『この男は何をバカなことを言っているんだ』ですって」 


 知里のテレパシー通訳に、ロンレア伯は憤怒のまなざしを向けている。

 俺はそれを無視して、カーテンの奥に向かい、パチンと指を鳴らした。


 カーテンが揺れ、現れたのは魚の仮面を被ったローブの人物。 

 ロンレア伯は、平静を装ったまま固まってしまった。


挿絵(By みてみん)


「こちらの仮面の人は『魚面(うおづら)』さん。ご存じかと思いますが……」

「な……な……バカな……どうして……」

「『何でこれらが一緒にいる? どういうことだ?』だってさ……」


 おそらく彼の人生の中で、今がもっとも驚いた瞬間だろう。

 椅子から転げ落ちるほど体を傾け、口からは泡のようなものが噴き出している。

 

 少しだけ哀れみは感じるが、俺は話を続けた。


「マナポーション襲撃事件の全貌は把握しました」

「……」

「あなたの依頼で、当初から俺を痛めつけるつもりだったのですね」

「……だから何だ?」

「自分で借金をこしらえておいて、問題を解決しようと奮闘する被召喚者の俺を消そうとする。そちらの行動こそ、まったく意味が分かりませんが、それはこの際置いておきます」


 がっくりとうなだれたままのロンレア伯。

 さらに俺は、話を続けた。

 

「いくら貴族でも、殺し屋を雇ったことが世間に明るみに出たら不都合もあるでしょう。構わないというならば、お好きになさってください」

「ワタシにとっては秘密を守れない依頼人は不都合ダ」


 突然、『魚面』が話に割り込んできた。

 それは暗に、ロンレア伯の命を狙うということだ。

 彼に伝わったかどうかは分からないけれども。

 

「私を脅迫して、どうするつもりだ? 金が欲しいのか?」


 ロンレア伯は肩を怒らせて俺を睨みつける。

 さすがに俺も呆れてしまった。


「何を言ってるんですか、エルマお嬢さまを助けるんですよ。この状態を打破するには決闘裁判で勝つしかない。あなたとエルマお嬢さまでは戦力的に不安かも知れませんが、俺たちが参戦すれば絶対に勝てます。飛竜部隊のリーザだろうと!」


 ……もっとも、俺も大した戦力じゃないけどな。

 チラリと「最強の用心棒」知里の方を見る。

 ──先生、その際にはお願いします──


 知里は面倒くさそうにそっぽを向いた。


「何を言われようとも、法王庁を訴えることはできない。私は貴族である前に信徒だ。ましてやおぞましき異界人どもの姦計に加担するなぞ、虫唾が走る」

「分からない人だな。法王猊下だって『異界人と共存する道はある』って言ってたでしょう。俺も演説を聞いてましたから」

「…………」

「ふぅん。ロンレア伯にとって、法王の演説はショックだったみたいね」


 うなだれていたロンレア伯が、今度は天を仰いだ。

 どうしていいか分からないようで、拳を握りしめたり肩をゆすったりと忙しない様子だ。


 彼の反応がどうであろうと、このまま話を進める。

 俺は、びっしりと文字が書き込まれた外套を取り出した。 


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