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118話・再会! 鬼畜令嬢


 聖騎士ジュントスの使いの案内で、俺たちは法王庁の地下牢へ向かった。

 案内役の聖騎士見習いは、ジュントスの部下で15歳くらいの可愛らしい男の子だ。

 愛くるしい小動物のような外見に似合わないドンゴボルドという厳めしい名前だったけど。


「足元に気をつけてくださいねー」


 地下……とは言っても、法王庁は空に浮かぶ大岩の上に建てられている。

 なので、厳密には空中都市の残骸の内部だ。


 岩をくりぬいたような入り口を抜けて、縄文式土器を思わせる渦巻(うずまき)模様の描かれた階段を降りる。

 静謐(せいひつ)で均整の取れた表の聖龍神殿とはまるで違う世界が、そこにはあった。

 間違いなく、現法王庁とは異なる文明の遺物のように思えた。


 ひんやりと湿った空気は、まるで鍾乳洞(しょうにゅうどう)の中のようでもある。


「古代魔法王国時代の遺跡だったノカ?」

「これは(そそる)るぞッ。なァ知里よ」

「……ネコチにゃ。その名で……呼んだらダメにゃ。ううお腹痛いにゃ……」

 

 エルマに接見するメンバーは、俺と知里と『魚面』とアンナの4人。

  

 盗賊スライシャーには買い出しを頼んである。

 と、言うのも俺と知里の異世界組が、昨夜のウナギゼリーに当たったからだ。


 下痢止め薬の材料を買い出しに向かわせたのだ。

 錬金術師アンナといえども、素材がなければ薬は作れない。


「うえ……気持ち悪い……帰りたい……にゃ」

「ああ……でもスライシャーが戻るまで我慢してくれ、知里さん」

「……ネコチ……にゃ」


 知里も俺も、フラフラになりながら階段を降りていく。

 かなり長い距離を行ったところで、案内役は足を止めた。


「こちらが貴人用の牢になります」


 分かれ道があって、その一つは鉄格子で隔てられている。

 その奥が独房になっており、エルマが拘留(こうりゅう)されているという。


 もちろん、そこに至る前には屈強な牢番が2人組で控えている。

 2人とも頭を剃り上げているが、僧兵と言うよりもスキンヘッドの傭兵のようだ。

 手には大きな刺股(さすまた)を持っている。


「見ない顔ぶれだが?」

「ロンレア令嬢に、接見を。聖騎士ジュントス様より接見許可証が出ています」

「確かに! どうぞお通り下さい」


 騎士見習いが接見許可証を見せると、牢番たちはすぐに鍵を開けて通してくれた。 


 ……そういえば。

 俺は、出発前にスライシャーから聞いた話を思い出していた。


 この世界の牢屋は、罪人を一時的に拘留しておく場所だという。

 ほとんどの場合、罪人には鞭打ちの刑や財産没収、あるいは死刑などの刑がすぐに執行される。

 法王庁の場合だと死刑は祭祀の生贄の役割も担うので、執行まで閉じ込めておくようだ。


 俺たちの元いた世界のような懲役刑というものはないらしい。


「魔封じの結界が貼られてイルな……」 


 『魚面』が苦々しげに呟いた。

 エルマが『複製』スキル持ちであることは、法王庁に知られている。

 魔法使いは脱獄も容易なため、専用の牢獄に入れられているのだろう。


 ◇ ◆ ◇


 視線の先にはエルマがいた。

 鉄格子の向こうで、簡素なベッドの上に腰かけ、足を投げ出している。

 服は父親の差し入れで着がえたのか、別れた時の男装はしていない。

 机と椅子もあったりして、思っていたよりも待遇は悪くなさそうだ。

 だが、部屋の隅には、陶器の()()()のようなものが置かれている。

 それを見たとたん、不憫な気持ちが込み上げてきた。


 13歳の女の子が、看守のいる中で用を足すのは恥辱以外の何物でもない。

 

 実際、エルマはひどくやつれていた。

 ここまで憔悴しきった彼女を見るのは初めてだ。


 ベッドの上でうなだれたまま、どこを見るでもなく視線は宙を泳いでいる。

 拘束されて1週間くらいだが、頬はこけて生気がなく、目元には暗い影が差していた。


挿絵(By みてみん)


 そんなエルマが、ようやく俺たちの姿に気がついた。


「……やっと来ましたわね、直行さん。待ちくたびれましたわ……」 


 エルマは力なく笑って、ベッドから降りると、鉄格子越しにゆっくりと近づいてきた。

 俺は何か言おうと頭を巡らせるのだが、言葉が出てこない。


「遅かったですわね。まあ来たから良いですけど」


 語尾に「♪」が付いていないと別人みたいだ。


「とにかく、エルマが生きていてくれてよかった」


 顔などに殴られた(あと)がないことを確かめる。


「直行さんこそ、ずいぶんと憔悴しているじゃないですか、心配してくれていたんですね」


 いや、厳密にはウナギゼリーに当たって体調が悪い。

 ……とは言えないけれども。


 少しぶっきらぼうで、微妙に話がかみ合わないのはまさにエルマだ。

 俺はやっと安心した。


 それにしても、先ほどまでの落ち込んでいた姿がウソのように、エルマもみるみる元気になっていった。  


「あたくしの存じ上げない女性たちがいますけど、いつの間に知り合いを増やしましたの?」

「錬金術師のアンナだッ」

「……ワタシ何て名乗ったらイイか?」

「魚ちゃんで……いいんじゃない?」


 アンナはエルマとは初対面か。

 もっとも『魚面(うおづら)』に関しては、正体を知られた途端にお嬢様にキレられそうではあるが……。


「小夜子さんの姿が見えませんわね。まあ知里さんを連れてきてくれただけでも、十分ですけれども」

「一応……素性は隠しておきたいので、マスクを着けてなくてもネコチと呼ぶにゃ」

「分かりましたわ、知里さん♪」

「……ちっ」

「まあ、接見の時間は限られている。エルマ、まずは死刑判決の経緯について語ってくれ。『異界風(いかいかぜ)』の店主に聞いた話では『侮辱罪』だとか何とか……」


 まずは当人からの第1次情報を元に、打開策を練る。

 しかし、エルマの口から語られたのは、予想外の事実だった。


「あたくしに死刑判決? 何のことでしょう」

 


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[良い点] 直行たちの情報とエルマが知っている事の食い違いが?一体何が?
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