116話・小さな狂犬
俺は、聖騎士ジュントスに一礼すると、法王庁入りの真の目的を語った。
「お願いが2つあります。先日・死刑判決を受けたというロンレア家の令嬢・エルマという少女に会わせてほしいのです……」
「えーっ! あの『小さな狂犬』の関係者ですか。あーあー」
俺は思わず、強くうなずいてしまった。
エルマを知る者なら、誰しも納得できる二つ名をつけられたものだ。
おっと、感心してばかりもいられない。
「どうにかして、エルマと接見できないでしょうか?」
「ふむ。囚人への面会ならば、拙僧が司教ボリイエラ聖に掛け合えば問題ないと思われますが」
聖騎士ジュントスはこともなげに言った。
エルマに会うために、俺たちはとてつもない苦労をしてきたのだが……。
拍子抜けしてしまった。
でも、まずは第1段階クリアと言ったところか。
「……もう1つは、ロンレア伯に対して秘密裏に接触したいのです。エルマの助命嘆願で、ここ法王庁に来ているはずです」
「ふむ。秘密裏……と、言いますと?」
「俺の名前を出さないで、接触したいんです。ロンレア伯は俺を下手人として訴えるつもりでしょうから……」
俺は、これまでの経緯を聖騎士ジュントスに説明した。
もちろん自分が被召喚者であることは伏せてはいる。
まあ聖騎士も、その辺は察していることだろうとは思うけれども。
「……ふむ。こちらは少々、厄介な問題ですな。今回の問題の責は、ロンレア伯自身にあると自白させるのですな」
「証拠もそろっています。実行犯も証人として同行しております」
「まさか、あのお嬢さんたちの誰か、ですか?」
「ええ。そのまさかです」
ジュントスは心底驚いている様子だった。
「ふむふむ、誰が実行犯ですか? 金髪のふてぶてしい女性錬金術師による毒殺? いや、パッツンの娘もメンヘラっぽいから分からないぞ。暗闇からグサリと。黒髪のゆるふわは無いでしょうね。うーん、まさに女性は魔物ですなあ……」
「後で教えますから、本題に入らせてください」
話が止まらないので、俺は適当にその話題を切り上げた。
本題に入ろう。
「ロンレア伯がどこにいるかは把握してません。ただ、間違いなくエルマに接見しているでしょうから、その時に呼び止めてもらって別室に連れ出してもらえると助かります。後はこちらで何とかします」
「そうですか。ならば看守に話を通しておきましょう」
「ありがとうございます! 恩に着ます」
何度も聖騎士ジュントスに礼を言った。
俺には頭を下げることくらいしかできない。
「……よし!!」
さらに思わずガッツポーズまで取ってしまった。
ここまで来るのに、大変な苦労をしたけれども、どうにか目的への糸口はつかんだのだ。
ロンレア伯は異界人には非情な男だが、娘への愛情は強く持っている。
間違いなく法王庁の宿泊施設に滞在しているはずだ。
これでようやく、状況が動く。
ちょうどその時、軽くノックをする音がして、隣の部屋のドアが開いた。
現れたのは知里だ。
「あたしら放っておいて男同士でナイショ話?」
「ああネコチもう起きて平気なのか?」
「心配かけたにゃ」
さすがに知里なんて呼んだら、被召喚者であることがバレる。
聖騎士ジュントスは味方に引き入れたけれど、また話がややこしくなるのは困る。
キャットマスクの変装はしていないけれど、ネコチと呼んだ。
「ふむ。ネコチ嬢と言うのですか。語尾の『にゃ』も、可愛らしいですな。少しお聞きしたいことがあるのですが、よろしいですかな?」
知里は頬に手を添えながら、俺の方を見た。
俺は心の中で、以下のようなことをザックリと考えた。
・女好きが災いして勘当された有力貴族の6男らしい。
・出世にも縁がなく、法王庁に退屈している。
・勇者自治区との接点に興味がある。
・新しい時代に興味がある野心家。
いまエルマ接見等の協力を取り付けてきた。
──こいつの心を探ってほしい──
裏切る気だったら、知らせてくれ。
「聖騎士のジュントスさんは、この医務室を案内してくれたんだよ」
「そう。ありがと」
知里は素っ気なく礼を言って、意味ありげな顔で俺を見た。
「ネコチ、大丈夫か?」
「問題ないかな。1つだけ気になる点はあるけど、大丈夫だと思う」
気になる点があるって……。
本当に大丈夫なのか?




