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115話・腹の探り合い


 奥の部屋では、俺とオカッパ頭の聖騎士が、踏み込んだ話にとりかかるところだった。


「まずは改めて自己紹介をいたしましょう。拙僧はジュントス・ミヒャエラ・バルド・コッパイ」

「オッパイ?」

「コッパイです。よく間違われます。ウシシシ」


 聖騎士は満面の笑顔で言った。

 名前を間違えた非礼を、軽く流した。

 この男は食えない。


「俺は……訳あって名乗ることができません。すいません。偽名を名乗っても良かったんですが、コッパイさんが食えない人なので察してもらうことにします。ただ、教会にもあなたにも危害を加える意思はないことだけは断言いたします」


「ふむ。良い答えですね。これは腹を割った話ができそうですよ。ウシシシ」

「そう言っていただけると、ありがたい。俺の正体については、大体想像がつくかとは思いますが」


挿絵(By みてみん)


 この聖騎士は、少なくとも狂信者ではない。

 で、なければ法王の演説中に、手助けを申し出たりはしないだろう。 

 知里のスキルに頼らなくても、それだけは確かだ。


 問題は異界人に対する嫌悪感があるか否かだが……。

 今の反応を見たところ、異界人嫌いではなさそうだ。


 腹の探り合いは続く。


「さて、拙僧の身の上話をザッと聞いてもらいましょう……」

「慰問団の話はいいのですか?」

「あなた、本当は()()()が何かなんて知らないのでしょう? でも何かしら目的があって拙僧を見繕(みつくろ)ったのと違いますか?」

「……ご明察おそれいります」


 こちらの手の内、カマをかけたことはお見通しのようだった。


「拙僧、何を隠そう生家はバルド・コッパイ公爵家でしてな」


 ……。

 彼は語り始めた。


 聖騎士ジュントスの語るところによれば、彼は新王都に拠点を構える大貴族の6男だという。

 王家の親戚筋で、現法王ラー・スノールとも遠い親戚ではあるものの、自身は信仰に(あつ)いわけではない。

 また、聖騎士という立場に責任を感じていないとも言った。

 本当か嘘かは、俺には分からない。


「……公爵家時代は色事師としてブイブイ言わせてたんですが、遊郭でハメを外しすぎましてな。情けない話、即・勘当ですよ。4男くらいまでだったら厳重注意で済んだんでしょうけれどもね」


 貴族の放蕩息子が僧院に送られる。

 よくある話だが、有力貴族の子弟なので、聖騎士というそれなりの地位が与えられたそうだ。

 それにしても……。


「法王猊下のご親戚……ですか!」

「いやいや猊下(げいか)の覚えはよろしくないですよ。あの方は、とても責任感の強いお方ですから」


 法王とは似ても似つかないこの男が、親戚筋だという話が本当かどうかはともかく……。

 彼が酔狂な変わり人であることは間違いなさそうだ。


「ちなみに、一人称を『拙僧』としているのは、もう遊び人じゃないぜ、というアピール目的です。ストイックな感じがしませんか?」 

「アピール目的ということは、()()()()()()()()()()()()ということで?」

「無論です!」


 ジュントスは鼻息を荒くして拳を突き上げる。

 にんまりとした笑顔は、まるでそれ自体が下ネタのようだ。


「そんな時に聞いたのが()()()の噂です。何でも法王庁の司祭や聖騎士に慰問と称して春をひさぐ者たちがいるとか、いないとか」

「俺たちをそうだと思ったんですね?」


 確かに俺たちはハニー・トラップのつもりで巡礼者にしては派手めな衣装で出てきたけれども。


「皆さまタイプの違うキレイどころを揃えていらして、お小姓さんまでいらっしゃる。実にすばらしい慰問団の人選だと感心しておりました。まさか錬金術師さまご一行とは、おみそれしました。ウシシシ」

「お、お小姓さん?」


 俺は驚いて、年齢不詳で童顔のスライシャーと顔を見合わせる。

 ──俺がマネージャーで、スライシャ―は稚児さん枠かい!──

 ……そんなツッコミを言いかけたけど、やめた。

 さすが性欲の強い男は、目の付け所が違う。


 ふざけたことを言っているはずの聖騎士ジュントスの顔が、ふと真面目になった。


「ジュントス様にとって、法王庁の暮らしは肌に合いませんか?」

「全くね。ここでの暮らしは拙僧には退屈です。現法王下では出世の目もなさそうだし、一生を聖職に捧げるのは正直うんざりしていますよ」

「……ずいぶんと腹の内を明かしてくれたものですね」

「それはそうでしょう。今、世界は変革の真っただ中です! 勇者自治区の発展をご存じですか? 新王都だって凄まじい勢いで進化していました。拙僧がこんな僧院にこもってる間に、世の中はめまぐるしく変わっている!」

「……そうですね。実感しています」

「あなた方は()()()()の人たちですよね?」

 

 ジュントスの目つきが鋭くなった。

 さて、どうしたものか。


「どうでしょうか。今のところ、そういう側ではありません。錬金術師の助手ですし……」


 俺は答えをはぐらかした。

 しかし、それは聖騎士の望んだ答えとは違うようで、彼は少し眉をひそめている。

 

「ふむ。では、そういうことにしておきましょう。拙僧としては、貴殿がもう少し踏み込んできてくれると期待したのですけれども」

「いやいや、背教者として訴えるのは無しですよ?」

「ほほう、用心深い人だ。拙僧がおとり捜査をしているとでもお思いですか? 貴殿を捕えたところで、拙僧には何のメリットもありませんよ。ねえ?」


 この聖騎士……いや、この野心家は俺を試しているのだろうか……?

 満面の笑みを浮かべているジュントスは、俺から目を離さない。


「……分かりました。踏み込みましょう。ここだけの話ですが、俺は自治区に行ったことがあります。自治政府要人とも知り合いです」

「でしょうね。嘘だとは少しも思いません。できたらその方を紹介してくださいよ」

 

 俺は何も答えず、満面の笑みで頷いた。

 単刀直入に、交渉を切り出してみよう。

 

「……では改めてジュントス様に頼みがあります」


 そして俺たちの本当の目的を、この聖騎士に告げた。

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