99話・襲撃事件の真相2
「あたしはロンレア伯とは会ったことないけど、状況的にはそうなるね」
知里も俺と同じ意見のようだった。
それにしたって、全ては最初から仕組まれていた……。
というか、俺は踊らされていたのか?
そしてもう一つ、気がかりなことがある。
──ロンレア伯の裏にいる存在だ。
「法王庁との繋がりは? 夫妻は法王庁から命令されてやったのか?」
俺は暗殺者・魚面に問いただした。
「そんなことは知らナイ」
彼女はすぐに否定した。
嘘をついているかどうかは、知里ならば判断できる。
「うん、本当に知らないみたい」
たとえ魚面が嘘をつこうとも、知里はレアスキル『他心通』で、心が読める。
尋問には、これ以上ない適任者だろう。
「俺たちを襲った目的は、積み荷のマナポーションか?」
「……いや、積み荷はどうでもよかっタ。中身も知らされていナイ」
意外な答えだった。
襲われた原因は、てっきり勇者自治区へのマナポーションの輸送だと思っていたが……。
「じゃあ本当に、俺を痛めつけることだけが目的だったのか……」
ロンレア伯夫妻の個人的な犯行という結論で、大丈夫か。
裏にどこの勢力が潜んでいるのか……。
「あたしにも分からないわよ、直行。単に魚面は聞かされていないだけで、背後にはやっぱり法王庁が絡んでいるのかも……」
「証拠はおろか手がかりさえない状態では、推理のしようもないよな」
実行犯は捕え、依頼人も割り出した。
その先に黒幕がいるのかもしれないけれども、現状ではお手上げだ。
「そうね。ただ、一ついい?」
知里は一旦この話を切り上げて、別のことを魚面に尋ねた。
「わざわざ街道を封鎖したよね? どうやったの?」
「……お前たちが行った後、幻影魔法で〝これより2時間・街道通行禁止・勇者トシヒコ〟という立て看板を作っタ」
確かに、旧王都と勇者自治区の往来という物流の大動脈にもかかわらず、商人や旅人と全くすれ違わなかったのは不思議だった。
飛竜と魔神との交戦、および重傷者の治療に夢中だったから気づかなかったけど。
言われてみれば、あの戦いに、一般の商人や通行人が巻き込まれないのは不自然なくらいだった。
「なぜ〝勇者トシヒコ〟の名前を出した? 面識があるのか? 彼に頼まれていたのか?」
「いや、全くナイ。話題の人物で影響力が強イ。だから名前を使っタ。街道を封鎖したのは目撃者をつくらないため。それだけダ」
その言い方からは、特に思い入れを感じない。
俺は知里を見る。
彼女の方は勇者トシヒコと面識がある。
それどころか討伐軍のエースだった過去を持つ。
「知里さんはどう思う? 勇者と面識があるわけだろ?」
「トシヒコはふざけた奴だけど、回りくどい真似はしない。アンタも会えばわかると思うけどね。魚面も嘘はついてないし。勇者自治区の側に裏はないと考えていい」
それにしても勇者の威光はすごいな。
名前ひとつで街道の往来も止められるとは。
魔王討伐軍の影響力を垣間見た気がする。
「……トシヒコがどんなに思い付きでデタラメなことをしても、周囲は従う。世界を救った唯一無二の勇者っていうのは、伊達じゃないんだ」
知里は遠い目をして寂しそうに笑った。
……。
彼女はそんな勇者パーティをクビになったと言っていた。
詮索する気はもちろんない。
理由はそれぞれあるのだろう。
彼女が今、俺の味方であればいい。
俺はもう一度、知里の方を見た。
「知里さんは〝通行止め〟には気づかなかった?」
「あたしはホバーボードで飛んで入ったからなあ……」
「上空は幻影魔法の視野角外だ。空を飛んで街道に入る者ナド想定してなかっタ」
魚面は、愕然としている様子だった。
俺にとっては、幸運と偶然に導かれての勝利だったということだ。
「ともかく俺たちの勝因は、『頬杖の大天使』に頼んだことに尽きるな」
「直行は運がいいよね。あたしだって前金もらってなきゃ、そもそも現場に行かなかったし」
知里はあきれたように笑っていた。
これで、残された疑問点は一つだけとなった。




