序章・アフィカスざまあwww ★挿絵あり
──現代日本。
「さて。今日のPVと成果はどうだった?」
いつものように俺は、自室でデスクトップPCのモニタを見つめる。
アフィリエイターだからといって、スタバでマックとは限らない。
「……なん、だと?」
自身が運営するウエブサイトのアクセス解析と代理店=アプリケーション サービス プロバイダ(ASP)の管理画面を開いて、愕然とした。
右肩上がりを続けていたPVが、急落している!
「一体何が起きた? 何が原因だ?」
原因は検索順位が大幅に入れ替わる、検索エンジンのコアアップデート……。
アフィリエイトをとりまく逆風は、年々厳しくなるばかりだ。
今までも何度も泣かされてきた。
医療系、健康系、美容系……。
◇ ◆ ◇
「……どうして、こうなんだよ」
またダメだった。
うまくいきかけて、どん底に落とされる。
俺の人生は、そんな事の繰り返しだ。
受験にも就職活動にも失敗した俺は、ネットビジネスに手を出した。
いわゆるアフィリエイターと呼ばれる業種だ。
元手がかからなかったので気楽に始めたら、そこそこうまくいった。
とはいえ有名ブロガーでもない。
世間に対して大きな影響を与えられる、インフルエンサーと呼ばれるほどの存在でもない。
それでも、どうにか一人で生活していくだけの収入は得ていた……。
これからだと思った。
しかし、そんな生活は、ある日突然、いともたやすく崩れ去った。
◇ ◆ ◇
「……マズいな」
こんな急落は、経験したことがなかった。
ジャンルの違う複数のサイトを運営していたが、全部検索圏外まで吹っ飛んだ。
これでは、いくら俺が一生懸命ブログにおススメ商品やサービスを紹介しても、誰にも読んでもらえない。
アフィリエイトは広告主の企業が定めた成果条件が承認されると収入になる。
広告をクリックしてもらうことで、いくらかになるものもあるけれど、インフルエンサーでもなければ収入は微々たるものだ。
検索キーワードをもとにサイトを訪問してくれた人に対して、何をどう売るか?
試行錯誤、地道な工夫を続けていた。
独学でSEOを学び、工夫に工夫を重ねて、努力して育ててきたサイトたち。
全滅だ。
過去に人間関係で失敗した俺は、ネット上の人間関係も苦手だった。
なのでSNSでの集客は積極的にやらなかった。
アクセスのほとんどを検索流入に頼っていたので……。
詰んだ。
◇ ◆ ◇
その日を境に落ちた収益は一向に上がる気配がなく、俺の生活は暗転した。
安定した商売でないことは最初から分かっていたが、最近は軌道に乗って慢心していただけに、ショックも大きかった。
「またかよ。どうしてこう、うまくいかないんだ!」
こんな気持ちは何度目だろう。
俺の人生は、ずっと曇り空の中にいたような気がする。
うまくいきかけても、失敗する。
子どもの頃にやっていた、少年野球もそうだった。
エースで4番。市内大会では無双できた。
プロは無理でも、頑張れば甲子園で投げられるかもしれない。
自分ではそう思って、中学の時に軟式から硬式のリトルシニアに移った。
レベルの高い環境で、さらに自分を高めたかった。
でも話にならなかった。
上には上がいた。
野球を続けるのが、バカらしくなってしまった。
俺は13歳で、最初の挫折を経験した。
野球を辞めたことで、親しかった友人ともぎこちない関係になった。
教室でも孤立してしまった。
それでも俺は、勉強を頑張ろうとした。
しかし受験でも第一志望には届かなかった。
就職もダメで、どうにか入れた会社もブラック企業。
上司と同僚から、ひどいパラハラを受ける日々。
距離を置いたつもりでも、耐えられなくなった。
結局そこからも逃げ出して、ほぼひきこもり状態で始めたアフィリエイト。
「やっと光が差してきたところで、いつもダメになる……」
アフィリエイトで結果を出していた実績を示して、マーケターとして自分を売り込むか。
WEB広告系の企業に再就職する方法もあるだろうが、気乗りがしない。
心が折れてしまった。
うまく就職できたとしても、どうせ何かで失敗するんだろう。
もう、いいや……。
◇ ◆ ◇
夕方、あてどもなく外に出て、駅のホームに来た。
もうすぐ電車が入ってくる。
俺はなんとなく、黄色い点字ブロックの上を歩いていた。
電車とホームの間には、仕切りがない。
「……」
このまま飛び込むことも、できるんだよな。
生きるも死ぬも、選択肢は今ここにある。
ダメだやめろ。冗談でも考えるな。
飛び降りるわけないだろう。
駅員さんをはじめいろんな人に迷惑をかける。
生きてりゃ再起のチャンスはあるはずだ。
「……?」
前方から知らない女が、黄色い線の上を真っすぐ歩いてきた。
チラッと見ると、腕につぎはぎのような縫い目があった。
目が合いそうになる。
俺は何となく気まずくなって視線をそらした。
そのとき……。
ドサッ!
……と、何かが突き飛ばされる音がした。
腕に縫い目のある女が、悲鳴も上げず線路の上に落ちていた。
「助けなきゃ……」
だが、それを認識する間もなく、俺の視界はかすんでいく……。
滑るように電車がホームに入ってきて、砕けるような、ちぎられるような、引きずられるような嫌な音が響き渡った。