最近私は、学生時代に習った歴史が変わっていることを勉強したくて、周囲を振り回してる。
金曜日、地元の広報誌に、
『大学アジア古代産業考古学センターの国際学術シンポジウム、日本中国考古学会本年度総会、大会』
が土曜と日曜に行われ、初日は特集テーマ『古代中国の産業と考古学』として、大学の教授の講演と、重慶市文化遺産研究院、四川大学の先生方の研究報告があり、参加することにした。
この大学は元々、東アジア古代鉄文化研究センターがあったのだが、鉄だけでなく、他の鉱石……金銀、今回の講義にあった塩、そして辰砂……水銀である……などの発掘跡や、その近辺の墳墓の研究をしているのだと言う。
体調は少し咳とめまいがあったが、大丈夫だろうと思い出席することにした。
午後一時、開始ということで、12時には入っておきたい。
それに会場がどこにあるのか不安だった。
その為、リュックを背負い100均で購入したノートと下敷きを持っていく。
ノートに書けないなら付箋を持っていき、書き込んで貼り付けようと思った。
会場の大学に到着すると、主催はアジア古代産業考古学センター……アレ?ここの会場の総合情報メディアセンターメディアホールってどこ?
守衛室の真正面のホールは知ってるけど……。
首を傾げ、守衛さんに聞こうと思ったら、数人の人に対応していて、仕方なく大学に入っていく。
アジア古代産業考古学センターの建物を目指すものの、その建物にはメディアセンターはない。
どうしよう……。
途方にくれていると、学生さんらしい方がいたので思い切って声をかける。
「すみません。総合情報メディアセンターのメディアホールってどこですか?」
すると、ニコニコと、
「あ、こちらですね。案内しますよ」
「忙しいんじゃありませんか?」
「いいえ、今度キャンパス案内があって、その練習中ですから」
優しい言葉に感謝しながら玄関まで案内してもらい、お礼を言い、頭を下げてから会場に入った。
すると、普段着でリュック姿の私には入っていいのか?と思うような、ピシッとしたスーツに、黒いバッグを持った方々が左側にずらっと並んでいた。
その後ろに並ぼうとしたところ、
「本日のみの一般の方ですか?その方はこちらにどうぞ」
と、右側の受付で手続きをすると、クリアファイルなどや今日の講義の冊子を渡された。
中身を見てびっくりした。
カラー写真や、PowerPointなどで目の前の映写機に映されるらしい写真の白黒版、それに発掘された品々のイラストや地図が載っていた。
しかも、特別研究発表の第二講義は日本語と中国語で書かれており、しかもホッチキスで止められたものではなく、表紙がついていて、大学の研究生や翌日の全国の大学の研究者の持っている冊子と同じものだった。
はぁぁ……このイベントが無料だと信じられない。
予定より遅れたものの12時半には入れたので、なるべく全部の席の真ん中より前、そして、中央の席が八席並んでいるがその右端に腰を下ろす。
アレ?斜め前の人、そんなに大きくないけど机がある。
何で?と、前の席の背もたれを触っていると、上に引っ張ることができ、倒すと机になった。
そんなに大きくないけれど、これはこれでいいかもと、冊子を広げ読み始める。
中国語は単語は覚えてるけど、専門的な単語は勉強し直そうと心に誓う。
日本語も難しい。
『辰砂』……『しんしゃ』と読む。別名『朱砂』これは、先程も言ったけれど水銀のこと。
水銀の発掘場所、時代ごとの発掘方法があること、その遺跡は中国では当たり前にあるものだが、日本の研究者と合同で研究と、辰砂の発掘方法の再現をして、とても高品質の辰砂が取れたという。
そして、長江流域と黄河流域の製鉄技術の違いについて。
『北の鋳造、南の鍛造』と呼ばれ、初期鉄器は紀元前14世紀の墓地から発掘されていた。
三国志の時代は220年。それよりもっと昔に鉄は生まれていたのかと感動する。
そして、東部にのみ海の広がる中国において、塩はどのように手に入れられたか。
塩泉や塩井があり、その地域で作られていたこと……。
初めて知るその内容にワクワクした。
一時に挨拶の後に、鉄の技術の講義が始まった。
面白い。
あぁ、私もこんな風に勉強したかった。
資料に書き込みながら、うっとりする。
そして、次の授業は塩……淋土法製塩技術について。
中国から来られた教授の講義である。
しかし、聞いていると急にめまいが始まった。
耳鳴りにぐるぐると周囲が回り始める。
あぁ、授業に集中したいのに、頭痛薬をここで注射もできない。
何とか意識喪失は免れ、その後、休憩になった。
休憩室の椅子に座り空気を吸い、服用タイプの頭痛薬を飲み、少し水を飲んでいるとその奥に何かが並んでいた。
行ってみると、机にずらっと並ぶのは、全部新刊の中国で発行された歴史、墳墓、古都その他諸々の研究の本だった。
西漢(日本では前漢)、東漢(後漢)、三国時代、晋、南北朝、隋、唐代までのものを探していたものの、墳墓と古都洛陽などの発掘の本のみで、中国語は初心者の自分が買ってもいいのかと躊躇う。
考え込んでいると、最後の講義、辰砂の発掘の歴史が始まると声がかかり急いで戻った。
辰砂はご存知の通り、水銀ならば液体だが、その前の状態は赤、丹の色とも言われる。
これらは、仙人になるためだの、不老不死の薬とも言われた。
その為、かなり長期間掘られ、道路も整備されていた。
こちらの講義の先生は、日本に留学経験のある女性の四川大学の大学院生だと言う。
素晴らしい内容に、私も同じように発掘や研究ができる環境があればと悲しくなった。
好きで、好きで、でも出来なくて出来なかったのは周りのせいだと当たり散らす……中途半端で言い訳ばかりしている自分が情けなかった。
講義が終わり、帰る時、先程の本を販売しているブースに行くと思い切って墳墓ではなく、『漢魏洛陽故城』という本を購入した。
諦めるのはやめよう。
好きなことをして、生きたい。
何年かかっても訳して、自分の知識にしてみせる。
とワクワクして帰った翌日、高熱を出し寝込んだ。
知恵熱だろうか……。
自分の体が弱いのは分かっているけれど、講義を受けるたびに緊張して、気絶したり、めまいを起こすなんて、辛すぎる。
もっと自分自身の意思を強く持って、頑張ってほしいものだと思った。