表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/83

最近私は、父とテディベアを捨てろ捨てないを言い争い、これ以上言うなら自殺するぞと言いたくなる思いに振り回されてる。

「あぁぁ……テディベアを作りたい〜!それに、テディベア連れ歩きたい!それに、ガラスの引き戸の棚が欲しい〜!テディベアを飾るんだぁぁ!あぁ、バッグベアいいよね」


 最近叫びたい気分になる。

 ユエさんは良いのだが、最近年末の掃除の為にテディベアやぬいぐるみを片付けようと思うと、片付かない。


 私は、昔、籐の引き出しにはまっていた。

 三つの籐の引き出しをリサイクルショップで見つけ、送料が惜しいと、2キロの距離を一つ一つ取って帰ったことがある。

 親には馬鹿にされたが、籐は憧れだったのである。

 その中に、隠すようにしてテディベアを納めていた。


 親……特に父は、テディベアを死に物狂いで集める私を気狂きちがい扱いする。

 しかも、最初はドイツのシュタイフ社のテディベアだったのに、最近私が集めるのが、イギリスのメリーソート社のチーキーやパンキンヘッドだったりする。

 普通のクマのぬいぐるみを抱っこしていたのが、父に言わせれば宇宙人のようで、コアラのようで、派手派手なぬいぐるみを可愛い〜と言い張る娘に本当に、病気が悪化したと思ったらしい。


 しかも私自身、季節ごとに服を買い換えるわけでもなく、ご飯もそんなに食べない。

 穴の空いた靴を履いて、雨の日にうろちょろして、風邪をひいてを繰り返す。

 ちなみに穴が空いた靴というのが、1ヶ月ごとに一足靴を買い、二足を交互に履くのだが、毎回ちょうど土踏まずの上の人差し指の下の膨らみの靴底が擦れて穴が開く。

 安物の靴のせいとはいえ、ギリギリまで履きたいと雨の日は必ず濡れるので、その靴を履いて行くのだ。

 そして、履き潰したと納得して捨てる。

 それに、服も季節外れに安物商品の半額の半額を大量にまとめ買いし、春の終わりと冬の終わりしか買わない。

 私は自律神経が狂っているので、夏は外は日がジリジリして痛み、お店に入ると寒すぎていられないので長袖。

 ひどい時は上下ジャージに中に、部屋着用の半袖を着てうろちょろする。

 夜は、シーズンオフの長袖の男性用のTシャツ……198円だった……を着て、女性用の長いステテコのようなものを着ている。

 春と秋は、長袖に薄いカーディガン、薄手ジャージのズボン。

 冬は去年までは大叔母の遺品整理の時に貰ったコート、バッグも大叔母の娘……母の従姉妹に貰った、一応ブランドもの。

 今年は、大叔父の形見分けで貰ったシャツと、男物のジャンバー。

 しかも中に、取り外し可能なベストが付いていた。

 ありがたいと持って帰ったら、父が、


「古い服は処分しろ」


と言って部屋に入り引き出しを開けたら、一斉にこっちを向いている色とりどりのチーキーズにドン引きし、


「お前は、何をしよるんぞ!病気を治すんじゃないんか!」


と雷が落ちたのである。

 しかし、私に言わせると、テディベアの価値も分からず、


『〜のお店で見たシュタイフのテディベアは〜万円だったので、うちの子もそれくらいすると思います!』

『昔、見たのと同じ色です!珍しいです!』


というネットフリマを見て、


 するかよ!


と突っ込みまくるより、涙が出るタイプである。


「この子の価値はお金じゃなくて、この可愛い顔なのに!それに、これ、結構数多いからこの値段で買う人いないよ。タバコ吸う家で外に置きっ放し、箱無しでこの値段ありえんわ」

「なんて不勉強な……シュタイフは1000体とか販売するけど、チーキーって多ければ500、少なかったら15体だったりするのに……」

「はぁぁ?洗濯機で洗ったぁぁ?何考えてんだ!手足や首のジョイントが破損するのに!」


と、写真とコメントを見て嘆く。


 新品のテディベアはある程度お金がかかる。

 シュタイフの大きいテディベアの黄タグは、他の会社との提携したものは40000円程度。

 ではなく、普通のClassicというタグの付いたものは、シュタイフのテディベアでほぼ基本の形をしているので大きさの差もあるが50cm程になると30000円前後である。


 でも、日本、ドイツ、アメリカなど地域限定のテディベアや日本ならくまモン、キティちゃん、ピカチュウ、マイメロディなどは、1500体とか、1000、来年なら2020体といった風に数が決まっているので、日本なら青山にあるシュタイフの日本本店にネットなどで予約するか、売り切れていなければ、一年の間にテディベアのイベントで転々とするのでその時に購入できる。


 しかし、そういう記念ベアは白いタグに赤い文字。

 タグというのは、シュタイフのテディベアに当たり前にある左耳のボタンに挟まっているもので、これは外してはいけない。

 テディベアの印、このテディベアは何体中何番目と書かれているのである。

 黄タグより白タグの方が数が限定されているので、価値が高かったりする。


 そしてもっと貴重なのは、白タグの中でも文字が黒。

 これは、有名なベア……例えば『テディガール』や『アルフォンゾ』という、有名な現存するベアのレプリカ。

 所有者やテディベア会社が記念に数を決めて、型紙を起こして昔の材料を出来うる限り集めて再現して作る貴重なベアなので、価値がある。


 私が知っているベアは、ある百貨店で170000円で販売されていた。

 17000円ではない、その10倍である。

 当然、白タグ黒文字のレプリカである。

 今のテディベアのように柔らかい毛並みではなく、ごわごわした感じで、手足もガチガチ、ずっしりと重かった。

 でもその重みが愛おしかったがそんなお金はなく、しかも名前を覚えておいたら良かったのに、それすら忘れ、今になって探している。

 黒い……こげ茶よりも濃い色のベアだった。

 その子を探しているのかもしれない。

 ちなみに『テディガール』は明るい金茶色の優しい表情のベアで、『アルフォンゾ』は真紅で、少し短い毛のキリッとしたベア、オレンジ色のロシアの民族衣装を着ている。

 黒い毛のベアは私の覚えているベアでは何体かいるけれど、毛が長かったり、ウェーブがかかっていたりで、違うのだ。

 15年以上前なので記憶も曖昧。

 シュタイフベアというだけ覚えている。

 テディベアを思い出しうっとりしていると、父は部屋の隅に畳んでいる洗濯物を見て、テディベアを出してぽいっと投げた。


「いやぁぁ!ととさん!うちのベアちゃんに何するん!」

「アホか!捨てるか売れ!」

「嫌やぁぁ!」


 びえぇぇ〜


泣きじゃくる。


 ハンドメイドの作品を作って売ったり、ノベルティグッズを集めて売ったり、コツコツ貯めたお金で買ったのだ。

 名前をつけて、汚れないよう赤ちゃんの着ぐるみロンパースを着せて、乾燥剤と防虫剤を入れて虫食いやカビ対策もしている。

 それに、お友達になったハンドメイド作家さんと交換したりしているのだ。

 売ったら……自分はきっと死ぬ……。

 自殺はしないが、生きる気力もなくなると思う。

 今ですら、行方不明のリョウちゃんを探して家中を荒らしているのだ。

 大柄のパンキンヘッドで、うさ耳の帽子をかぶっている。


「今年中に大掃除。ダンボールを処分しろ」

「ダンボールの中にテディベアいるのですが……」

「なんでぞ!」

「えっ?一体は、友人に誕生日で貰ったのです。もう一体は予約しててキャンセル不可だったので、箱のまま未開封です……」

「売れぇや!」

「やだ!普通の黄タグならまだしも、白タグの限定初音ミクちゃんだもん!」


 父は頭を抱える。

 娘の趣味が飛び抜けているのに今更気づいたらしい。


「数を減らせ!」

「だから、そういうと思って、数は減らんけど小さい子を注文するんやん」

「売れ!」

「やだ!売れっていうなら家出する!テディベアはどこかのテディベア博物館に寄贈する……それより、宝くじ当てて自分のテディベアの館を作ろうかな……」


 私の人生は、テディベアと小説とハンドメイドしかないのだと今更思う。




 最近、大黒摩季さんが離婚したと聞いたけれど、子供が欲しくてできない女性。

 子供が欲しくても病気で、薬を止めると自殺願望が何倍にも膨れ上がり、子供を産むなんて無理な私。

 私が元気なら、大黒摩季さんの代わりに代理出産をできれば、大黒さんの苦しみを少しでも肩代わりできるのに、子供が産めない……頑張っても病魔が体を襲い、子宮を摘出し悲しむより相手の気持ちを考え『離婚』を選んだ彼女を強い人だと思った。

 優しくて哀しい人だと思った。


 私も子供は諦めている。

 だから、父に、私のテディベアを集めるのを許してほしいと思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ