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地元の高級柑橘『紅まどんな』と言う餌につられて、年末に帰ろうかなぁと思ってる。

 最近、マイブームである『ハリウッド脚本術』をコピーをして、じっくりと本を読んで、自分の作品を細かく書き出そうと思っていたけれど、めまいと吐き気で寝込んだ。

 一回皮下注射をして1時間経っても効かなかった場合は、もう一度出来るのだが、1日2回までと決まっている。

 午後に調子を崩した時に出来なかったら、最悪である。

 吐き気もまだ、本当に吐くほどではない。

 少し休めばいいだろう。


 目を閉じていると電話がかかった。

 父からである。


「この間言うとった『紅まどんな』届いたけん」

「えぇぇぇ!そうなん。いいなぁ……」


 前のシーズンは、産直市で糖度の低いサイズが合わない『紅まどんな』……『愛媛果試第28号』……これが正式名称。『紅まどんな』はブランド名……を口にしていたので、それ以上の甘さなのかとワクワクしている。


「一応、二ケースで8000円や。一つはのりの家にお歳暮がわりに渡しといたわ」

「えぇぇぇ!じゃぁ、もしかして一人一個!」

「違うわ。糖度は問題ないが、サイズと形が悪かったんを、5キロ箱に二つ詰めてもろたんや」

「げっ!ととさんの同僚さん、太っ腹や……それでなくても、新米のコシヒカリの玄米360キロを9万円弱で譲ってくれたのに……」


 ちなみに玄米30キロ強入っている袋を、7000円と計算してくれたのだと言う。

 しかも、実家には当然お米を保管する倉庫がないからと、


「ない頃には言うてくれや。持ってくるけんな〜」


と言ってくれ、今回も第2弾のお米120キロと共に、『紅まどんな』も届けてくれたらしい。

 ちなみに実家までは遠いので、会社まで持ってきてくれ、受け取って帰ったとのこと。

 それでも、送料無料……ありがたい……。

 ネットフリマなどで、送料を如何にして絞り出すか悩む人間には、本当にありがたい。


「で、お前の分のお米は……」

「今回5キロ。精米代も含めて1300円払うわ。10キロは多いしなぁ……で、『紅まどんな』は……」


 米代は本当にありがたい。

 普通に買ったら、普通の一番安いお米でも消費税込みで2000円弱。

 約半分近い。


 しかもブレンド米ではなく、住んでいる県では一番美味しいと言われる地域で栽培されコシヒカリの特別なブランド名を持つのである。

 炊いてすぐもいいが、冷めても美味しい。

 でも、私の一番はおにぎりである。

 ギュッギュッと硬く握るのではなく、ふわっと包むようにして3回回して、ラップに包んで終わりである。

 おにぎりは、100円ショップやディスカウントショップで何度かご飯を詰めて振ると出来ると言うのはやってみたが、冷えると角が気になってしまう。

 おにぎりを握るのが熱いのなら、お味噌汁のお椀に塩を振ったご飯を入れ、何回か振った後、纏めるだけでもいい。

 かなりこの点はこだわっている。


 でも、お米だけでなく『紅まどんな』である。


「えっと、ご、5個〜!千円出すから!足りんと思うけど!」

「そういうところが、病気になる原因や!お前は細かすぎるんや!わしみたいに達観せいや!」


 父の声に、ガーン!となる。

 私は父に似ている。

 父の考えていることはほぼ分かるし、昔は父の心臓に負担をかけないよう、先回りして動いていた。

 最近は体調が悪く、一緒に住んでいないので父のストレスはMAXかと思われる。

 それなのに……。


「米代やみかん代くらい出すわ!」

「ほんなら、なんなん?」

「年末年始もんてこい」

「うーむ……嫌って言ったら?」

「戻って来いや。お前の、前の家においとった、シュタイフとか言う会社のぬいぐるみがおるけん。あれどうするんぞ」


『シュタイフ』の名に、目が輝く。


「えっ!えぇぇぇ!父さん捨てたんやないん?うわーん!お菓子会社の懸賞で当てたシュタイフのテディベア〜!」


 大きくはないけれど、私の初テディベアである。

 確か、もう15年以上経っているが、汚れや色褪せないように箱に二重に納め、手作りのゴスロリ風ドレスを着せたベアは黄タグだが、私にとってはどんなに作っても同じにはならない、貴重である。

 実家に置いていて、実家の引越しの時に捨てられたと思っていたので、何回か帰っても探す気力も起こらなかった。


「アエラちゃん!返して〜!」

「年末年始もんてこいよ。じゃないと渡さん」

「……くぅぅ……帰らせていただきます!アエラちゃん……」


 父は、『紅まどんな』で帰ってくると思っていたらしい。

 最後まで隠していたテディベアを出すことになったことに、電話口でかなり悩んでいた。


「このぬいぐるみが、わしらより上なんか……よぅわからん」


 私にとっては、辛い時期に心を癒してくれたテディベアとの再会に、心を踊らせたのだった。




 しかし、夕方にのたうちまわる程の頭痛と嘔吐に、皮下注射を置いておいて良かったと安堵したのだった。

テディベアと『紅まどんな』につられました。

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