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最近、私は『ミカン怪獣せつな』になって柑橘類を食い荒らしている。

「あぁぁ〜みかん食べたい!」


 風邪気味の私は午前中病院で、診察を待つ間唸る。

 この時期になったらスーパーは最低一キロ単位でみかんが198円……産直市は100円とかで売られている。


 私はこの時期、みかんしか食べなくなる。

 毎年の、この時期にはご飯はいらない。

 それに、病院から繊維の多いもの、体を冷やすものなどはすべて厳禁と言われてしまい、大好物のお魚も白身以外はダメだと言う。

 ちなみに好物のサーモン類は、食べ物によって身が赤く染まり、基本白身に分類されるので大丈夫である。

 でも、お茶もコーヒーもお酒も刺激物に分類されダメなので、白湯やハーブティ、お腹を壊す牛乳の代わりに豆乳かアーモンド豆乳になった。

で、冬は鍋が恋しいが一人鍋も面倒なので、週に一回鍋、翌日は味噌汁、あとはみかんだけで生きていくことも多い。

 みかんの話に戻るが、多い時は一キロの袋が一日で無くなるので、その皮を干して実家に届ける。

 みかんの皮はカラカラに干してしまうと、陳皮という漢方薬になる。

 七味の中にも入っている。

 陳皮ほどカラカラにしなくても、みかんの皮にある油はいい香りがして、肌がつやつやになる。


 が、


「また食ったんか!お前は!毎日どれくらいくっとんぞ!」


父の声に首をすくめる。


 普段はなるべく色々食べようと思っているのだが、これからの時期は、温州みかんから様々な柑橘が発売される。

 これから来年の春にかけて食べ比べをしたいと思っていたのに最初のみかんで、もうすでに一日2食をみかんにしていることがバレた。

 ゴミ箱にみかんの皮を捨ててもいいが、ゴミ捨てに行くと一人だけみかんだけというのも恥ずかしかったので、干して入浴剤がわりにいいやと思ったのだが、怒られた。


「だって……みかん食べたい」

「一日10個……いや、5個にせい!」

「えぇぇぇ!じゃぁ、みかん腐るよ!五キロ買ったのに!」

「また、そんなに買ったんか!買うな言うたのに!」


 父の雷が落ちた。


「お前は小さい頃から、ほっとったらみかんを黙々と食べ続け、5歳の時に一気に17個食べて、手や足の裏が黄色になったんを忘れたんか!」

「覚えとるけど……昔のみかんの方が酸味があって美味しかった……今のは甘さが強い」

「専門家みたいなこと言うな!全部食う気だろうが」

「ありがたくいただきます」


 手を合わせる。


 お腹が空くか?と聞かれたらほぼ水分なので空くといえば空く。

 でも、みかんとご飯と選べと言われたら、素直にみかんを選ぶ。

 実は私は偏食家なのかもしれない。

 この時期、風邪をひいたり、頭痛がしたりするので、脂っこいものや胃にもたれるものを口にするとすぐ吐く私には、冷たくて喉を通りやすいみかんはありがたいのだ。


 すると、父が、


「……この間、会社の同僚の家で作りよる紅まどんな……甘さが少し足りないとか形が悪いというのを安く譲ってもらうんやが、三箱買ったんやけど、お前にはやらん」

「ええぇぇぇ!紅まどんな!」


ご存知の通り、柑橘王国愛媛県でも12を争う高級柑橘である。

 ゼリーのような食感と甘みが特徴で、紅まどんなより甘みが落ちるものを、地元では媛まどんなという名前で販売するが、その媛ですら贈答品で2Lサイズ8個で送料込みで4500円だったりする。


「紅まどんな〜食べたいよ〜!」

「食べたいなら、三食ちゃんとご飯食べぇ!紅まどんなとお前の家のみかんの半分と交換や!」

「は、半分……」


 ショックである。

 みかんは安いが重いのである。

 自転車も乗れない自分にとって、カートを持って行き買って帰ったみかんは、生活に直結していると言っても問題ない……大げさだが。


「本当に、お前は好き嫌いが少ないとおもとったのに、この時期になったら、みかんや柑橘しか食わんなる」

「じいちゃんばあちゃんは他の兄妹にはかまんかまんっていよったけど、ばあちゃんと父さん、特に私には厳しかったやろ。好き嫌いやめろ、何でも食えよ?言うて」

「……そうやったなぁ」


 父の声が申し訳なさそうになる。


「まぁ、好き嫌い少ない方が、いいと思うけどね。でも、どうやってもお母さんの手抜き『なんちゃってナポリタン』は吐くけど」

「なんちゃってナポリタン?」

「茹でたスパゲッティにケチャップ混ぜてるの。それに、甘ったるい玉子焼き嫌い。お母さんは、他のみんなの嫌いなもの知ってるのに、そっちに帰った時に限って、私の数少ない嫌いなものばかり出す。私はだし巻き卵、自分で作るって言うのに……」

「……まぁ、悪気はないと思うんやが」

「悪気はないけど嫌がらせかと思う。それに、虫嫌い……ご飯に虫が入ってた。ご飯食べる気失せる」


 父は黙り込む。


「前なんて無農薬の野菜を茹でたお湯でラーメンだよ。びっしりアブラムシ浮いてたよ。もう何回もやめてって言ったのに、繰り返すんだもん、絶対お母さん私のこと嫌いだよね」


 あの時はショックだった。

 一時期私は本気で拒食症になった。

 その時は精神的に参っていたのもあったが、食べ物を見るたびに虫が見え、吐き続けた。

 昔から大雑把で幾ら注意してもすべてスルーする母の作るお弁当の中には週に2回はゴのつく虫が、スープや味噌汁にはアブラムシが、青野菜のサラダにはイモムシが、実際に入っていたからである。

 母の料理から解放された今は、過食気味かもしれない。


 最近、薬に嘔吐を止める薬が加わった。

 昔から車酔いで嘔吐を繰り返した私は、胃液の味はしっかり覚えているけれど、せっかく飲んだ薬も出してしまう為、食前に必ず飲むようになった。


 そして、実家に帰ると自分で作りたいと言う。

 そうしなければ、貝には砂が、卵料理には卵の殻、他の料理にはゴ、アブラムシが入っていると言う恐怖観念がある。

 そう言うと母はキレるので、じゃぁ食べないと言う。

 何が出てくるかわからないロシアンルーレット料理なんて誰が食べたいものか。

 だから、実家に帰ったら一番安全なみかんを口にするのかもしれない。


「まぁ、今度紅まどんな持ってくるけん」

「食べれるように、みかん減らしておこうわい。お母さんのおかずは遠慮するわ」




 こたつにて紅まどんなを待つ私

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